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邂逅。森に現れたクラスメイトと、戦慄の索敵

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 温かい応援のおかげで、頑張れています。どうぞお楽しみください!

「そらっ! 次、行くぞ!」


 上半身裸になった蒼汰が、自らの代謝熱でうっすらと湯気を立てながら、巨大なローラー状の丸太を押して地盤を踏み固めていく。


「蒼汰、お疲れ様。ペース配分には気をつけてくれよ、君のカロリー消費は激しいんだから」


 理人が図面から顔を上げ、冷静に声をかける。


「おう、分かってる! 乃亜のおにぎり三つ食ったから、今は満腹度100パーセントだ!」

 蒼汰が白い歯を見せて笑う。


 昼の炊き出しは辺境伯軍の兵士たちに狂乱をもたらすほどの大好評を博し、誰もが腹を満たし、現場には明るい笑い声が絶えない。


 ――だが。


 その平和な光景から少し離れた、大樹の最も高い枝の上。


 周囲の警戒に当たっていた楓菜の顔からは、いつもの明るい笑顔が完全に消え失せていた。


「……嘘……でしょ……?」


 楓菜の唇が、カタカタと震える。


 弓を握る手は青ざめ、彼女の額からは滝のような冷や汗が流れ落ちていた。


 楓菜の『叉鬼マタギ』に付随する索敵スキル。


 それは、風の通り道、空気の温度差、地面に残された足跡の微かな発光、さらには生命の鼓動すらも視覚化して捉える絶対的なレーダーである。


 通常であれば、数キロ先の魔物の気配すら感知できる。


 この森において、彼女の目を逃れて近づける魔物など存在しなかった。


 だが、今。


 楓菜の視界の端――距離にしてわずか三十メートル先の茂みの中に、『それら』は唐突に出現したのだ。


 いや、出現したのではない。


「最初からそこにいたのに気付けなかった」のだ。


(どうして……!? 風の音も、足音も、心音すら、まったく聞こえなかった……っ!)


 楓菜は愕然とし、己のスキルを疑った。


 だが、その理由はすぐに「肌で感じる本能」として理解できた。


 異世界という名のこの理不尽なシステムにおいて、圧倒的な『レベル差』は、時として下位の者の認識そのものを強制的にバグらせる。


 近づいてくる『六つの影』。


 彼らの持つ基本ステータスが常軌を逸した異常な数値にまで跳ね上がっているせいで、世界そのものが彼らの存在を『不可視の強者』として処理し、楓菜の索敵判定を環境ノイズとして弾き飛ばしていたのだ。


 圧倒的な高レベルによる、強制的な隠密効果。


(……逃げなきゃ! あれは、今まで戦ってきた魔物とは次元が違う!!)


 楓菜はこれまでにない、死の淵を覗き込むような強烈な危機感を抱き、弾かれたように大樹の枝から飛び降りた。


「蒼汰! 理人!!」


 着地と同時に、楓菜は悲鳴のような声を張り上げた。


「楓菜? どうしたんだ、そんな血相変えて」


 蒼汰がローラーから手を離し、怪訝な顔で振り返る。


「楓菜、何かあったのか」


 理人も即座に図面を閉じ、白衣を翻して駆け寄った。


「敵よ! すぐそこまで来てる! 距離、三十メートル!!」


「は……? 三十メートルだと!?」


 少し離れた場所で作業をしていた刀真が、弾かれたように立ち上がり、鍛冶用のハンマーを掴み出す。


「刀真くん、どうしよう……っ!」


 萌音が青ざめ、刀真の背中に隠れるように身を寄せる。


「三十メートルって……楓菜、君の索敵範囲なら、もっとずっと前から分かるはずじゃ……!」


 理人が驚愕の声を上げる。


「分からなかったの! 相手のレベルが高すぎて、システムが隠密効果みたいになって、私のスキルが直前まで反応しなかった……っ! こんなの初めて……!」


 楓菜のその言葉に、蒼汰の背筋にゾクリと冷たいものが走った。


 この森で数々の死線を潜り抜け、誰よりも森を知り尽くしているはずの楓菜が、ここまで怯えている。


「みんな、武器を取れ! ルーク、工兵隊をすぐに後退させてくれ!」


 蒼汰が、腰に差していた魔骨鋼の刀を抜き放ちながら叫んだ。


「わ、分かった! 総員、作業を中止し武器を取れ!」


 ルークが即座に指示を飛ばし、自らも騎士の剣を抜いて蒼汰の隣に並び立つ。


「蒼汰くん、理人くん、気をつけて……!」


 乃亜が祈るように両手を胸の前で組み、結界を張る準備を整えた。


 蒼汰、理人、ルーク、刀真、そして楓菜が前衛に立ち、未開の茂みへと油断なく武器を構えた。


 風が止み、森が不気味なほどの静寂に包まれる。


 ガサッ、と。


 目の前の茂みが揺れ――『彼ら』が、姿を現した。


 蒼汰の目が、限界まで見開かれる。


「ちょっと、泥が跳ねたじゃない。最悪。ヒールで靴の汚れ落とせないの?」


 長い髪をなびかせた美しい少女――聖女・西園寺美海さいおんじいみみが、靴の裏の泥を嫌悪感たっぷりに見下ろして舌打ちをする。


「非効率ですね、西園寺さん。汚れを気にするなら、藤堂くんに浮遊魔法でもかけてもらえばいい。

 それより、このエリアの敵はHPが低すぎて検証データにもなりません」


 眼鏡をかけた冷徹な少女――賢者・一文字雫いちもんじしずくが、空中に浮かぶホログラムのウィンドウを指先で操作しながら淡々と告げる。


「フン、俺の大魔導の力を移動ごときに使わせるな。

 それにしても、俺の魔法で吹き飛ばすまでもない雑魚ばかりだ。

 退屈で反吐が出る」


 腕を組んだ傲慢な少年――大魔導士・藤堂隼人とうどうはやとが、周囲を蔑むような目で見渡す。


「無駄口を叩くな、お前たち。俺たちは駒だ。

 クレア様からの命令クエストを最短ルートでクリアすることだけを考えろ」


 冷酷な目で周囲を睥睨へいげいする元生徒会長――司令塔・山城翔也やましろしょうやが、全体をチェス盤のユニットのように見下しながら指示を飛ばす。


「……ミミ、私の後ろに。敵対反応があれば、すべて私が斬り伏せます」


 巨大な盾と剣を構えた少女――パラディン・月城光莉つきしろひかりが、感情の一切抜け落ちた声で西園寺を守るように立つ。


 そして、六人の中心。


 白銀に輝く『聖剣』を肩に担いだ勇者――神宮寺勇輝じんぐううじゆうきが、ガリガリと苛立たしげに自分の首を掻きむしりながら、焦点の定まらない目で前を向いた。


「あー……早く帰って、クレア様のあの『肉』が食いてぇ……。なんかイライラすんだよな……」


「お前ら……」


 蒼汰の口から、掠れた声が漏れた。


 刀真がギリッと奥歯を噛み鳴らし、乃亜と萌音が息を呑んで後ずさる。


 かつて同じ中学の教室で机を並べていた、同級生たち。


 王宮で「優秀な戦闘職」として優遇され、蒼汰たちを「無能」と嘲笑って追放した張本人たちであった。


「……ん?」


 神宮寺が、首を掻く手を止め、うつろな目で蒼汰たちを見た。


「なんだ? 辺境のNPCかと思ったら……よく見りゃ『ダメそうだ』じゃねえか。

お前ら、こんな死の森で泥水すすって生きてたのかよ」


 神宮寺勇輝が、聖剣を肩に担いだまま下品に嗤った。


「ダメそうだにふなっしー……追放された『ゴミ』どもだぜ。

 まだ生きてたのかよ、こんなところで」


 山城が、指先で弄っていた炎の魔法を消して下品に笑った。


「ええっ、気持ち悪い。あんな泥だらけの服着て……近寄らないでよね」


 西園寺が、露骨に顔をしかめて一歩下がる。


「……多目蒼汰。遠山刀真。それに、梶原理人ですか。

 彼らの生存確率は0.01%未満と算出されていましたが……データのエラーですね。

 まあ、誤差の範囲です」


 一文字が、ホログラムのデータを弾き消して冷酷に言い放つ。


「神宮寺……山城……お前ら、こんな辺境で何やってんだ」


 蒼汰が、刀の柄を握りしめ、腸が煮えくり返るような怒りを押し殺して睨みつける。


 数ヶ月前、難民の村を焼き払い、罪のない農民たちを虐殺したのは間違いなくこいつらだ。


 その事実が、蒼汰の代謝熱を無意識のうちに跳ね上げさせていく。


「何って……ただの作業クエストだよ」


 神宮寺が、つまらなそうに聖剣をブラブラと揺らした。


「クレア様に言われてさ、この辺の魔物とか反抗的な人間とかを、適当に間引いてこいって。

 ……でもさ、出てくる敵のHPバー、みんな一撃でゼロになるんだよね。超つまんねぇの」


 神宮寺は、ニヤリと三日月のようにつり上がった目を蒼汰たちに向けた。


「なぁ、ゴミども。お前ら、生き残ってたってことは、少しはレベル上がってんの?」


「レベル……?」


 蒼汰が、眉をひそめる。


 理人もまた、胡乱うろんな目で神宮寺を見つめ返した。


 蒼汰たちの視界には、神宮寺たちが語るような『HPバー』も『レベル』という数字も存在しない。


 蒼汰にあるのは己の胃袋の限界を示す『満腹度ゲージ』のみであり、理人に至っては自らの『解析』スキルによる化学式しか見えていないのだ。


「フッ、いいか底辺ども。俺たちはクレア様の支援で狩りをしまくった結果……俺たちはみんな、レベル25以上あるんだぜ?」


 神宮寺が、自分のステータス画面を誇示するように胸を張って自慢気に言い放った。


「王国騎士団の連中でさえレベル10程度だ。

 俺たちはもう、神に等しいバケモノなんだよ。

 ……で? お前らはどうなんだ? 

 まさかまだ、一桁とか言わねえよな?」


「……お前、知ってて言ってるだろ?」


 蒼汰が、心底呆れたような、そして馬鹿にするなという顔で首を振った。


「レベルがどうとか、HPがどうとか……そんな概念、俺たちにはない。

 自分のレベルなんて、まったく分からない」


 その言葉が落ちた瞬間。


 神宮寺たち勇者パーティーの動きがピタリと止まり――次の瞬間、森中に響き渡るほどの爆笑が弾けた。


「ぶっ……あーっはっはっはっ!! おい聞いたか山城! こいつら、自分のレベルすら分かってねぇんだとよ!!」


 神宮寺が腹を抱えて笑い転げる。


「ククッ……傑作だな。ステータス画面の開き方すら知らずに、この森で泥水をすすって生きていたというわけか。まさに原始人、いや、動物以下だな」


 山城が、嘲りを隠そうともせずに鼻で笑った。


「あり得ませんね。レベルの概念すら理解できないエラー個体など、もはや討伐対象のNPCと大差ありません」


 一文字が冷たく眼鏡を押し上げる。


「フン、俺の大魔導の火の粉を浴びる価値すらない、ただの汚物だ」

 藤堂が吐き捨てるように言った。


「……理人。こいつら、まだあの薄っぺらい『ゲームモード』の視界に囚われてやがる」


 蒼汰が、低く押し殺した声で隣の理人に囁く。


「ああ、蒼汰。彼らは与えられた数字ステータスに溺れ、世界の本当の姿を何も見ていない。だが……」


 理人の顔には、かつてないほどの緊張が走っていた。


 彼らが狂っているのは事実だ。


 しかし、狂ったまま限界突破したその『数字の暴力』は、紛れもなく今の蒼汰たちを凌駕する圧倒的な死の気配を放っていた。


「なぁ、ゴミども」


 笑い終えた神宮寺が、虚ろな目にギラリと狂気の光を宿して、聖剣に手をかけた。

勇者側キャラ紹介


神宮寺じんぐうじ 勇輝ゆうき

ジョブ: 勇者


山城やましろ 翔也しょうや

ジョブ: 司令塔タクティシャン


3西園寺さいおんじ 美海みみ

ジョブ: 聖女ハイ・ヒーラー


4一文字いちもんじ しずく

ジョブ: 賢者アナライザー


月城つきしろ 光莉ひかり

ジョブ: パラディン(重装騎士)


藤堂とうどう 隼人はやと

ジョブ: 大魔導士アーク・メイジ



ご一読いただきありがとうございます!

思った以上に読んでくださる方がいて、とても嬉しいです。

もっと楽しんでもらえるように頑張りたいと思います。

今後の励みになりますのでもし「面白かった」「続きが読みたい」と思っていただけたら、 ページ下の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援してもらえると嬉しいです。


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