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国家プロジェクト。辺境大街道の建設と、忍び寄る影

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 温かい応援のおかげで、頑張れています。どうぞお楽しみください!

 名もなき廃村が、開拓都市『豊穣ほうじょう』として新たな産声を上げてから数週間。


 奈落の森には、かつてない規模の重低音と活気ある怒号が響き渡っていた。


「第一小隊、瓦礫の撤去を急げ! 第二小隊は切り株の抜根だ! 息を合わせろ!」


「「「はっ!!」」」


 ルークの号令の下、屈強な辺境伯軍の工兵隊が汗だくになって森を開拓している。


 彼らが進めているのは、豊穣の街と辺境の領都を一直線に結ぶ『辺境大街道』の建設プロジェクトである。


 馬で五日かかる悪路を、馬車が全速力で駆け抜けられる石畳の道へと変えるという、まさに国家規模の大工事だった。


「ルーク、こっちの区画の整地、終わったぜ!」


 上半身裸になり、玉のような汗を光らせた蒼汰が、巨大なローラー状の丸太を一人で軽々と転がしながら叫んだ。


「蒼汰! 相変わらず信じられない馬力だな……助かるよ! 

 それにしても、君たちの道具は本当に凄まじい」


 ルークが感嘆の声を漏らしながら視線を向けた先では、工兵たちが奇妙な黒いツルハシやスコップを振るっていた。


 それは、刀真が打ち上げた『魔骨鋼の土木道具』である。


 王国の鉄製道具なら数日で刃こぼれするような硬い岩盤も、この道具ならまるで豆腐のようにサクサクと砕くことができた。


「へっ、ただの鉄の塊と一緒にすんなよ。

 この森の環境に合わせて、しなりと硬度を限界まで調整してあるからな」


 腕組みをした刀真が、鼻を鳴らして誇らしげに笑う。


「刀真、すっごく順調だね! 大工さんたちも、道具が軽くて疲れないって大喜びしてたよ!」


 現場の指揮補佐として駆け回っていた萌音が、嬉しそうに刀真の背中をポンッと叩く。


「おう。……萌音も、資材の管理であんまり無理すんなよ」


「ふふっ、平気だよ。私、『マネージャー』だからね!」


「二人とも、イチャつくのは休憩時間にしてくれ」


 そこへ、白衣の裾を泥で汚した理人が、図面を片手に歩いてきた。


「誰がイチャついてんだよ、理人!」


 刀真が顔を赤くして反論するが、理人は眼鏡の奥で呆れたようにため息をつき、ルークに向き直った。


「ルーク。今、蒼汰くんが踏み固めたルートに、僕が調合した『土壌固化剤』を撒いておいた。

 半日もすれば、魔物の突進にも耐えられるアスファルト並みの強固な地盤が完成するはずだ」


「ありがとう、理人。君のその『科学』という知識には、毎日驚かされてばかりだよ。

 アスファルトなんて聞いたことがないけど、とても凄そうだ!

 それにそんなに早く固まるなら、予定の半分以下の期間で街道が繋がりそうだ」


 ルークが晴れやかな笑顔を見せた、その時だった。


「おーーい! 蒼汰くん、理人くん、ルークさん! みんな、お昼ご飯にするよー!」


 森の奥から、カラカラと木車の車輪の音を響かせて、乃亜と楓菜が手を振りながらやってきた。


 木車の上には、湯気を立てる巨大な木桶や、ずらりと並んだ大皿が乗せられている。


「おおっ、待ってました!」


 蒼汰が顔を輝かせて駆け寄る。


 過酷な労働で腹を空かせていた工兵たちも、「炊き出しだ!」と一斉に歓声を上げて集まってきた。


 王国の軍隊において、土木作業中の食事といえば、カチカチに乾燥した黒パンと、塩気だけの水っぽいスープが相場である。


 しかし、豊穣の街が提供する『炊き出し』は、彼らの常識を根底から覆すものだった。


「はーい、順番に並んでね! 

 今日は特別に、おにぎり三個セットだよ!」


 割烹着姿の乃亜が、女神のような微笑みで兵士たちに丸い塊を手渡していく。


「なんだ、この白くてツヤツヤした食べ物は……?」


 初めて『おにぎり』を見る兵士の一人が、不思議そうにそれを顔に近づけ、恐る恐る一口かぶりついた。


 ――次の瞬間、兵士の瞳孔が限界まで見開かれた。


「う、うおおおおおおっ!?」


「ど、どうした!? 毒でも入っていたか!?」


「ち、違う!! う、美味すぎるぅぅぅっ!!」


 兵士はよだれを垂らさんばかりに、狂ったようにおにぎりを頬張り始めた。


「なんだこの米の甘みは! しかも、中からとんでもなく美味い肉の汁が溢れてきやがる! 

 しょ、醤油?とかいう黒い調味料の香ばしさと、ホロホロに崩れる魔物肉の旨味が……っ、ああっ、止まらねえ!!」


「あははっ、ニルスくんが作ってくれた特製醤油で、森の猪肉を甘辛く煮込んだ『しぐれ煮』を入れてるんだよ! いっぱい食べて、午後も頑張ってね!」


 楓菜が、空になった兵士の手へ次のおにぎりをポンと乗せる。


「豊穣の街、最高だぜえええっ!!」


「俺、この街道作りが終わったら、王国の軍を辞めてこの街に移住する!!」


 あちこちで兵士たちが絶叫し、感動のあまり叫びながらおにぎりを胃袋に流し込んでいる。


 その狂騒ぶりは、もはや炊き出しというより新興宗教の儀式のようだった。


「……すさまじい光景だな」


 ルークが、自身も二個目のおにぎりを頬張りながら、苦笑まじりに呟いた。


「乃亜ちゃんの料理と、ニルスの調味料の破壊力は兵器並みだからな」


 蒼汰も、自分の顔ほどの大きさがある特大おにぎりを豪快に齧りながら笑う。


「蒼汰。君たちの街は、軍の常識すら変えてしまうのか。

 ……父上が君たちを『指導者』として一目置く理由が、痛いほどよく分かるよ」


 ルークが、真剣な眼差しで蒼汰を見た。


「大げさだって。俺たちはただ、腹いっぱい美味い飯が食いたいだけさ。

 そのために、この道が必要なんだ」


 誰もが腹を満たし、笑い合い、生きる活力を得ている。


 それは、開拓都市『豊穣』が目指す、最も尊い日常の風景だった。


 ◇


 しかし――その「日常」の裏側で、森の深淵は確実に異常な気配を孕み始めていた。


「……ねえ、蒼汰くん」


 昼食を終え、午後の測量のために少し先のルートを下見していた楓菜が、ふと足を止めた。


 彼女は愛用の弓を握りしめたまま、ピンと張り詰めた表情で森の奥を睨みつけている。


「どうした、楓菜。魔物でもいたか?」


 蒼汰が腰の刀に手を当てながら近づく。理人も、不思議そうに眼鏡を押し上げた。


「おかしいの。……森が、静かすぎる」


「静か?」


「うん。普段なら、この辺りには鳥の鳴き声とか、小型の魔物が草を掻き分ける音が必ず聞こえるはずなの。

 でも……今は、虫の音一つしない。

 まるで、森の生き物全部が『何か』に怯えて、息を殺して隠れてるみたい……」


叉鬼マタギ』として極限まで研ぎ澄まされた楓菜の感覚が、明確な警鐘を鳴らしていた。


 蒼汰も目を閉じ、神経を集中させる。


 ……確かに、不自然だ。


 風の音すらない。


 そして、森のずっと奥の方から、チリチリと肌を刺すような、冷たくてひどく嫌な『気配』が漂ってくる。


「……理人。お前の『解析』で、何か視えないか」


 蒼汰が低い声で尋ねる。


「いや……僕の視界には何も反応はない。

 少なくとも、五キロ圏内に未知の化学物質や強力な魔物の気配は……」


 理人が言いかけた、その瞬間だった。


 ズゴォォォォォォンッ……!!


 遥か遠く、森の深部から、地鳴りのような轟音が響き渡った。


 同時に、木々の隙間から、太陽の光すら掻き消すほどの『極大の閃光』が空に向かって立ち上るのが見えた。


「な、なんだ今の光は!?」


 少し離れた場所で指揮を執っていたルークが、剣を抜いて駆け寄ってくる。


「分からねえ……。だが、魔物の攻撃じゃねえ。あれは……」


 蒼汰の脳裏に、王宮で見た『勇者たち』の放つ理不尽なスキルの光がフラッシュバックした。



 ◇ ◇ ◇



 ――豊穣の街から十数キロ離れた、奈落の森の中間層。


「あーあ。つまんねぇの」


 退屈そうな少年の声が、血の臭いが充満する森に響いた。


 巨大な体長五メートルを超える『双頭の暴食熊』――かつて蒼汰たちが死に物狂いで倒した魔物を優に超えるランクの怪物が、真っ二つに両断され、ドサリと地面に崩れ落ちた。


 吹き出す大量の血を浴びながら、白銀の聖剣を肩に担いだ勇者・神宮寺は、虚ろな目で大きな欠伸をした。


「おい山城。ここが『奈落の森』とかいう、国内最悪の危険地帯なんだろ? 

 出てくるモブ、全部一撃で沈むんだけど。経験値(EXP)の足しにもならねーじゃん」


「文句言うなよ、神宮寺。一応、王命での『辺境の魔物間引きクエスト』なんだから」


 背後から、元生徒会長の山城が、指先で弄っていた炎の魔法をフッと吹き消しながら歩いてくる。


 彼らの瞳には、生命に対する慈悲も、強敵に対する警戒心も一切ない。


 あるのは、ただゲームの作業をこなすような虚無感だけだった。


「あーあ、早く城に帰って、クレア様の作った『お肉』が食いてぇ……。最近、あの肉を食わないと、イライラして頭がおかしくなりそうなんだよ」


 神宮寺が、ガリガリと自分の首を掻きむしりながら焦点の定まらない目で呟く。


「……おい、神宮寺。あっちを見ろ」


 山城が、森の南側――蒼汰たちが街道建設を行っている方角を指差した。


 木々の向こうに、うっすらと炊き出しの煙が立ち上っているのが見える。


「煙……? こんな辺境の死の森に、NPCの村でもあるのか?」


「さあな。だが、ちょうどいい。あそこに人間がいれば、少しは美味いアイテムが手に入るかもしれないぜ。もし逆らうようなら……」


経験値エサにすればいいだけだろ? ははっ、いっちょ遊びに行ってみるか」


 狂気に侵された勇者たちの足取りは軽く、そして無慈悲に。


 かつて同じ教室で笑い合った同級生たちが、致命的な暴力となって、豊穣の街の目と鼻の先へと迫りつつあった。

ご一読いただきありがとうございます!

思った以上に読んでくださる方がいて、とても嬉しいです。

もっと楽しんでもらえるように頑張りたいと思います。

今後の励みになりますのでもし「面白かった」「続きが読みたい」と思っていただけたら、 ページ下の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援してもらえると嬉しいです。


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