魔骨鋼の武具と、森へ逃げ込んだ難民たち
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巨大な凶暴熊猪』を討伐し、鳥居の結界を完全復活させてから、およそ一ヶ月の月日が流れた。
名もなき廃村の景色は、かつての「死を待つだけの場所」から劇的な変貌を遂げていた。
村の左半分を覆う『魔骨のスパイク防壁』は、村人たちの総出の作業により、すでに大人の背丈の二倍以上の高さにまで組み上がっている。
そして農地では、理人の開発した『極上の肥料』と、発酵師ニルスが編み出した『土壌菌の活性化』が見事に噛み合い、青々とした野菜が次々と実を結んでいた。
さらに、萌音が王宮から持ち出した『種籾』から育てた苗も、水を引き込んだ田んぼの区画で力強く根を張り始めている。
「そらっ! 盾の構えが甘いぞジョー! もっと重心を落とせ!」
「ぐおっ……! 重いっす、多目さん!」
活気あふれる広場の一角では、蒼汰による自警団の特訓が行われていた。
重装歩兵として覚醒したジョーは、刀真が打ち上げた『魔骨鋼のタワーシールド』を構え、蒼汰の容赦ない木剣の連撃を必死に防いでいる。
この一ヶ月、蒼汰は開墾や壁作りの合間を縫って、自警団に選ばれた若者たちに徹底的な戦闘訓練を施していた。
彼らのレベルはまだ2や3だが、その動きは一ヶ月前とは見違えるほど洗練され、逞しさを増していた。
「よし、今日はここまで! みんなよく動けてたぞ。防壁の建設組と交代して、メシにしてくれ!」
「「「はいっ!! ありがとうございました!!」」」
汗だくの若者たちが、充実した顔で頭を下げる。
「お疲れ、多目」
そこへ、革のエプロンを煤で黒く汚した刀真が歩いてきた。
その両手と背中には、分厚い布で厳重に包まれた長物がいくつも抱えられている。
「おう、刀真。……もしかして、それ」
「ああ。一ヶ月待たせたな。全員分の新しい専用武器……ついに完成したぜ」
刀真の言葉に、近くで作業をしていた理人、乃亜、楓菜、そして萌音も目を輝かせて集まってきた。
刀真は広場の木箱の上に布の包みを置き、一つずつ紐を解いていく。
まず最初に姿を現したのは、吸い込まれるような漆黒の刀身を持つ、一本の『打刀』だった。
刃先には、あの熊猪の血を思わせるような真紅の波紋が美しく浮かび上がっている。
「多目。お前のカロリーの爆熱と、バカみたいな踏み込みの衝撃に絶対に耐えられるように、限界まで折り返し鍛錬を重ねた『魔骨鋼の刀』だ」
「……すげえ。持っただけで分かる。鉄剣とは密度が全く違う」
蒼汰が柄を握り、軽く素振りをしてみる。
――ヒュンッ!
空気を裂く鋭い音が響いた。重心のバランスが完璧で、まるで自分の腕がそのまま延長されたような一体感がある。
「これなら、俺の熱量を100パーセント流し込んでも絶対に折れない。最高の相棒だぜ、刀真!」
「へへっ、気に入ってくれてよかったぜ。……次は、楓菜ちゃん」
「わぁっ! 私の弓だ!」
刀真が手渡したのは、熊猪の強靭な肋骨をベースにしなりを持たせた『魔骨の長弓』と、漆黒の矢尻が輝く矢の束だった。
「弓本体の加工と矢尻は俺が打ったが……持ち手のグリップと、その矢筒は、楓菜ちゃんと俺の合作だぜ。楓菜ちゃん、革のなめし作業、手伝ってくれてサンキューな」
「ううん! 私、『叉鬼』だから、動物の解体とか革を剥いで柔らかくするのは得意なんだ!
刀真くんの作ってくれた弓の形にぴったり合わせて縫うの、すっごく楽しかった!」
楓菜は、自らが熊猪の革をなめして作った特製のグリップをギュッと握りしめ、嬉しそうに弓を構えた
。滑りにくく、手に吸い付くような感触が素晴らしい。
「次は、乃亜ちゃん。乃亜ちゃんは後衛で回復やバフに専念してほしいが、万が一魔物に接近された時のために、リーチの長い武器がいいと思ってな」
「これは……『薙刀』……?」
「ああ。柄は軽くて丈夫な魔物の大腿骨を削り出してある。
刃は短めだが魔骨鋼だから、撫でるだけで魔物の皮を裂けるぞ」
乃亜が、美しい白濁色の柄を持つ薙刀を受け取る。
彼女の巫女としての清楚な出で立ちに、薙刀という和の武具が驚くほど似合っていた。
「ありがとう、刀真くん。これなら、私にもみんなの背中を守れるよ」
「最後に、理人と俺、そして萌音の分だ。俺たちは非戦闘職だからな。
いざという時の護身用として、取り回しのいい『短剣』を打っておいた」
刀真が、理人と萌音にそれぞれ装飾の施された美しい短剣を手渡す。
「素晴らしい。僕が採取に出る時の、薬草の刈り取りや魔物の解剖にも使えそうだ」
「刀真くん、ありがとう! 大事にするね!」
理人と萌音がそれぞれ腰のベルトに短剣を装着する。
「よし! これで俺たち六人の戦力は底上げされた。
防壁も着々と進んでるし、村の開拓は順調そのものだな!」
蒼汰が真新しい刀を腰に差し、満足げに笑った、その時だった。
「た、大変だぁーーっ!!」
防壁の上の見張り台に立っていた若者が、血相を変えて広場へと駆け込んできた。
「どうした! 魔物の群れか!?」
蒼汰が即座に刀の柄に手をかける。だが、若者は激しく首を振った。
「ち、違うんです! 人間です!
森の入り口の方から、ボロボロの格好をした人間が……三十人くらい、こっちに向かって歩いてきます!」
「人間だと……? 王国の討伐隊か?」
理人が鋭く目を細める。
「いえ、武装はしていません! 女や子供、お年寄りも混ざってて……みんな、ガリガリに痩せ細ってます!」
「難民か……。とにかく行ってみよう!」
蒼汰たち六人が急いで村の入り口、鳥居の結界の外側へと向かうと、そこには泥だらけで、今にも倒れそうな三十名ほどの男女が身を寄せ合っていた。
「ひぃっ……!」
武装した蒼汰たちを見て、難民の集団が怯えて後ずさる。
「安心しろ、俺たちは怪しいもんじゃない。あんたたち、どうしてこんな死の森に?」
蒼汰が警戒を解くように両手を上げて尋ねると、集団の先頭にいた初老の男が、泥だらけの膝を地面について懇願した。
「た、助けてくだされ……。わしらは、隣の領地の開拓村の者です。
ですが、あまりの重税に食べるものがなくなり……ついには領主の兵士たちが、税の代わりに若い娘たちを連れ去ろうと……。
それに抗議して、村を焼かれ、命からがら逃げてきたのです……」
「王国軍から逃げるために、わざわざ魔物の出る奈落の森へ……」
刀真が、かつての自分と萌音の逃避行を重ね合わせ、痛ましそうに顔をしかめた。
「もう三日も何も食べていません……。どうか、どうか子供たちだけでも……!」
初老の男が地に額を擦りつけようとした瞬間、彼の腕を、乃亜が優しく力強く抱え起こした。
「……お話ししてくれて、ありがとうございます。もう大丈夫ですよ」
乃亜は、彼らの泥だらけの顔を真っ直ぐに見つめて、女神のように微笑んだ。
「お腹、空いてますよね? まずは温かいご飯にしましょう」
◇
二時間後。
村の広場は、凄まじい熱気に包まれていた。
かまどでは大鍋が煮え立ち、理人が調合した出汁の効いた『魔物肉と野菜のスープ』の香りが立ち込めている。
三十人の難民たちは、滂沱の涙を流しながら、一角うさぎの骨付き肉ととスープを無我夢中で胃袋に流し込んでいた。
「うっ、ううっ……! なんだ、この柔らかくて、おいしい肉は……! うめぇ、うめぇよぉっ……!」
「お水も、すごく綺麗で、甘い……っ」
「ゆっくり食べてね。おかわり、いっぱいあるから!」
楓菜と萌音が、次々と新しいおにぎりを配って回る。
蒼汰と理人は、その様子を少し離れた場所から静かに見守っていた。
「……三十人の口が増える。一気に人口が九十人規模になるな」
理人が計算するように呟く。
「ああ。だが、食い扶持の心配はいらねえだろ?
ニルスの発酵肥料のおかげで畑の収穫量は倍増してるし、蒼汰と楓菜で森の獲物を狩りまくれば、肉は余るほどある」
「そうだな。むしろ、防壁作りや農作業の人手が増えるのは、村にとって大きなプラスだ」
そんな二人の元へ、食事を配り終えた萌音が小走りで駆け寄ってきた。
「多目くん、理人くん! すごいよ、すごい人たちがいたの!」
萌音は興奮で顔を紅潮させながら、自分のスキル『管理者権限』で視た情報を二人に伝えた。
「あの難民の人たちの中にね、『隠しジョブ』を持ってる人がいたの!
そのうち二人が……私たちがずっと探してた【大工】と【石工】だったんだよ!!」
「なんだって!?」
蒼汰がガタッと立ち上がる。
「大工と石工……!」
理人もまた、眼鏡の奥で驚愕と歓喜の光を閃かせた。
「奇跡だ……。刀真が打ち上げた『魔骨鋼の道具』に、彼らの『建築の才能』が合わされば……」
「ああ。ただのボロ小屋しか作れなかったこの村が、本格的な『城壁』と『宿場町』に進化できる!!」
蒼汰が、拳を強く握りしめた。
「しかもね、他にも『裁縫師』とか『木こり』の適性を持ってる人がいたの!
私が権限でクラスチェンジさせれば、明日から即戦力だよ!」
萌音が誇らしげに胸を張る。
「よくやった萌音! お前はマジで、この村の最高のマネージャーだぜ!」
蒼汰が萌音の頭をガシガシと撫でると、萌音は「えへへ」と照れくさそうに笑った。
理不尽な王国から逃げ出し、死の森へと迷い込んだ難民たち。
彼らは絶望のどん底から、極上の食事によって命を救われ、さらに萌音の手によって「自分たちの天職」を与えられることになる。
「おい、ケント! 刀真! 忙しくなるぞ!!」
蒼汰が、頼もしい仲間たちに向かって大声で笑いかける。
「明日から、大工と石工を交えての『村の大改築』を始める!
……王国軍が束になっても破れない、俺たちの最強の『要塞都市』を作るぞ!!」
新しく生まれ変わった六人の武具。
そして、奇跡のように舞い込んだ建築の専門家たち。
名もなき廃村はついに「村」という枠組みを超え、一つの強大な「都市」へと飛躍する準備を完全に整えたのだった。
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