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泥だらけの水田開拓と、命吹き込まれた醸造所

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 温かい応援のおかげで、頑張れています。どうぞお楽しみください!

 鳥居の結界が完全復活し、名もなき廃村が奈落の森の脅威から完全に解放された翌朝。


 村の広場からは、これまでにないほど活気に満ちた声と、心地よい土の匂いが立ち上っていた。


「いっけえええっ、カヌレ! その調子だ!」


「ヒヒィィィンッ!!」


 蒼汰の元気な掛け声に応え、一頭の栗毛の馬が力強くいなないた。


 筋肉の隆起が美しいその馬は、刀真が魔物の骨で打ち上げた特製の『すき』を引き、カチカチに固まっていた荒れ地を、まるでバターでも削るかのように豪快に耕していく。


「カヌレ、すっごく元気になったね! あんなにガリガリだったのに!」


 泥だらけになって雑草を抜いていた楓菜が、カヌレの艶やかな首筋を撫でながら嬉しそうに目を細めた。


 カヌレ――それは一ヶ月前、蒼汰たち四人が王都から追放された際、荷馬車を引かせるために王国軍から「与えられた(押し付けられた)」馬だった。


 当時は骨と皮ばかりの駄馬で、森に入ってすぐに死んで魔物の囮になるよう仕組まれていたのだ。


 しかし、理人が森の薬草を調合した特製飼料を与え、乃亜が『浄化の水』を毎日飲ませて丁寧にブラッシングを続けた結果、カヌレは見事に活力を取り戻し、今や魔物にも引けを取らないほどの逞しい名馬へと生まれ変わっていたのである。


「よし! カヌレが土をひっくり返したところから、どんどん水を引いていくぞ! 萌音、種籾たねもみの準備はいいか!」


「ばっちりだよ、多目くん! 芽出しも完璧!」


 萌音が、王宮から決死の覚悟で持ち出した宝物――『種籾』が入った袋を大事そうに抱きしめて笑う。


 今日は村を挙げての大事業、『水田』の復活の日だった。


 カヌレと蒼汰が力技で土台を作り、理人が計算した水路を通って、川からの水が引き込まれていく。


「乃亜ちゃん、お願い!」


「うんっ。清らかなる水よ、命を育む揺り籠におなりなさい……!」


 乃亜が杖を振るうと、引き込まれた泥水がキラキラと輝く透き通った『浄化の水』へと変わり、田んぼの区画をたっぷりと満たしていった。


「うおおおっ、すげえ! 本当に水田ができたぞ!」


「さあ、みんなで田植えだ! 秋には最高の『白米』が食えるように、気合い入れて植えるぞ!」


 ジョーやゲンたち村人も、泥だらけになるのも構わず、笑顔で田んぼに入っていく。


 王国の重税に苦しみ、ただ死を待つだけだった彼らが、今は自分たちの未来のために、腹の底から笑い合いながら土に塗れている。


 結界という「安心」が、彼らの心に本当の活力を取り戻させていた。


 ◇


 一方、活気づく水田から少し離れた、村の隅にある大きめの空き家。


 そこは今日から、この村の『心臓部』とも言える重要な施設に生まれ変わっていた。


「……うん、うん。いい子だね。今日は少し肌寒いから、温度を上げてあげるよ」


 薄暗い室内で、ニルスが巨大な木樽に向かって愛おしそうに語りかけている。


「どうだ、ニルス。菌の定着具合は」


 理人が、分厚いノートを片手に空き家へ入ってきた。


「あっ、理人先生! 見てください、完璧です!」


 ニルスが誇らしげに木樽の蓋を開けると、そこには理人が森で採取し、ニルスが発酵を促した『大豆に似た豆』と『麦』の混合物が、ふつふつと心地よい音を立てていた。


 室内には、鼻腔をくすぐる芳醇で香ばしい、あの『醤油』と『味噌』の原型となる香りがむせ返るほどに充満している。


「素晴らしい。君の『菌の声が聴こえる』というスキルは、僕の化学方程式すら凌駕するな」


 理人が、心底感心したように眼鏡を押し上げた。


「この空き家は、今日から君専用の『醸造所』だ。ここで生み出される調味料が、いずれ王国の食文化をひっくり返す最大の武器になる。頼んだぞ、発酵師マスター


「はいっ! 僕、この子たち(菌)と一緒に、世界一美味しいものを作ってみせます!」


 ただの変人扱いされていた青年は、今や村の食卓の未来を握る最重要人物として、目をキラキラと輝かせていた。


 ◇


 夕暮れ時。


 一日がかりの田植えと開墾を終えた村人たちは、泥を洗い流し、広場の中央に集まっていた。


「お疲れ様ー! 今日は特別に、カヌレにも栄養満点のご飯だよ!」


 楓菜が、特大の桶に入った牧草と野菜をカヌレの前に置く。


 カヌレは「ブルルッ」と嬉しそうに鼻を鳴らし、バクバクと勢いよく食べ始めた。


「いやぁ、腰が痛え! でも、不思議と気分は最高だぜ」


 蒼汰が、切り株に腰掛けながらぐーっと伸びをする。


「ええ。数ヶ月後、あの田んぼ一面が黄金色に染まる光景を想像するだけで、胸がいっぱいになります」


 乃亜が、夕日に照らされて水鏡のように輝く水田を見つめながら、優しく微笑んだ。


「秋になれば、乃亜の炊いた『銀シャリ』に、ニルスの作った『醤油』を垂らして、森の魔物の極上ステーキと一緒に書き込めるんだな……っ」


 刀真が、想像しただけでヨダレが出そうな顔で喉を鳴らす。


「ああ。そのためにも、明日からは本格的な防壁作りと、お前らの新しい武器の打ち直しだ。……忙しくなるぞ、お前ら!」


「望むところだ!」


「おーっ!」


 蒼汰の言葉に、仲間たちと村人たちの力強い声が重なる。


 王都で彼らを嘲笑った者たちは知らない。


 死の森の奥深くに捨てられた「無能」たちが、これほどまでに豊かな水田と醸造所を作り上げ、極上の食と絆で結ばれた『最強の国』を産み落とそうとしていることを。


 豊穣へのカウントダウンは、今、確かな産声を上げたのだった。

ご一読いただきありがとうございます!

思った以上に読んでくださる方がいて、とても嬉しいです。

もっと楽しんでもらえるように頑張りたいと思います。

今後の励みになりますのでもし「面白かった」「続きが読みたい」と思っていただけたら、 ページ下の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援してもらえると嬉しいです。


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