王宮の狂気と、鉄壁の防衛線
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――蒼汰たちが泥のかまどを完成させ、未来の白米への希望を語り合っていた頃。
彼らを追放したバルカエス王国の王城では、異様な光景が広がっていた。
「おい! 剣の修繕が遅いぞ!
手先が器用なだけの『見習い』風情が、俺たち『勇者』を待たせる気か!」
「す、すみません……! すぐに仕上げます!」
王城の地下にある薄暗い工房。クラスメイトの刀真は、顔を煤だらけにしながら必死に鉄を打っていた。
彼のクラスでの立ち位置は、決して低くはなかったはずだ。
だが『見習い細工師』という裏方の生産職のジョブを引いた瞬間、神宮寺たち戦闘職のクラスメイトや王国兵からの扱いは「便利な奴隷」へと急転落した。
本来の細工師としての精密な技術など要求されず、ただひたすらに武具の荒々しい修理と量産を強要される日々。刀真の目は、すでに過労で虚ろになりかけていた。
一方、王宮のきらびやかな大食堂。
そこでは神宮寺をはじめとする『勇者』や『賢者』のクラスメイトたちが、豪華な肉料理や酒を貪り食っていた。
「あはははっ! 俺の『聖剣』のスキル、マジで最強だぜ!
昨日の魔物討伐でも、俺一人で軍隊の十倍は倒したしな!」
「さすが神宮寺くん! それに比べて、あの多目たちってホント無能だったよね。
今頃、森で魔物のエサになってるんじゃない?」
「違いねえ! あいつらは死んで当然のゴミだ!」
下品な笑い声を上げる神宮寺たち。
だが、その瞳孔は異常に開き、焦点がわずかにズレていた。彼らは、目の前の食事に異常なまでの執着を見せ、皿を舐めるように料理を胃に流し込んでいる。
「……ッ」
部屋の隅で給仕をさせられていた萌音は、その様子を見て恐怖に肩を震わせた。
彼女のジョブは『見習い商人』。本来なら物資の管理や交渉を担うはずだったが、戦闘力がないという理由で、王宮ではただの雑用や給仕係としてこき使われていた。
そして今、王国専属の魔導士から渡される**「謎の黒い粉」**を、出来合いの食事に大量に振りかけることだけを命じられている。
(『見習い商人』の初期スキルである『鑑定』……まだレベルは低いけど、あの粉の正体はわかる。『思考抑制』と『強い依存性』……。神宮寺くんたちは、この食事で洗脳されてるんだ……!)
萌音が青ざめた顔で俯いていると、玉座の脇から甘く、そして冷酷な声が響いた。
「ふふっ。たくさん食べてくださいね、勇敢なる異世界の勇者様たち。
あなた方は、我がバルカエス王国の『誇り』ですわ」
第三王女クレアが、天使のような微笑みを浮かべて神宮寺たちを見下ろしていた。
神宮寺たちは鼻の下を伸ばし、「クレア様のために、俺たちが全部の敵を殺しますよ!」と熱狂的に叫ぶ。
クレアは優雅に扇で口元を隠した。
だが、その扇の裏に隠された唇は、おぞましい嘲笑の形に歪んでいた。
(……単純で愚かな豚ども。あの『粉』を混ぜたエサを与えておけば、自我を失い、死ぬまで私のために戦う便利な駒になるというのに)
クレアの冷たい視線が、ふと萌音へ向けられた。
「そこの給仕係。明日はさらに粉の量を倍にしなさい。
……逆らえば、森へ捨てたあのゴミ共と同じ目に遭わせますよ?」
「……っ、はい……」
震える声で頷きながら、萌音は決意した。
――このままじゃ、私たちも殺されるか、神宮寺くんたちみたいに自我を奪われる。
その夜。見張りの目を盗んで厨房を抜け出した萌音は、ボロボロになった刀真の手を強く握りしめ、深夜の王都から、蒼汰たちが向かった『奈落の森』へと命がけの逃避行を始めたのだった。
◇ ◇ ◇
特製かまどが完成した翌日。
蒼汰たち四人は、村の入り口にそびえ立つ朽ちた『鳥居』の前に集まっていた。
「……なるほど。ただの木枠じゃない。柱の内部から地下に向かって、村全体を囲む巨大な魔力回路が張り巡らされている。これが『結界』の正体か」
理人が眼鏡の奥で目を細めて呟く。
「回路自体は生きてる。だが、動力を供給する『バッテリー』が完全に空っぽだ。
本来なら、この両方の柱の根元に、凄まじい魔力を持った『要石』が埋まっていたはずなんだが……」
理人が指差した柱の足元は、ぽっかりと空洞になっていた。
「要石の代わりなら、アレがあるぜ」
蒼汰は腰の革袋から、初日に四人を死の淵まで追いやった災害級の魔物、『マーダー・ボアグリズ(凶暴熊猪)』から抉り出した真っ赤な魔石を取り出した。
「ひぃぃっ!?」
見学に来ていたゲンや村人たちが、その魔石の放つ禍々しい気配に顔面を蒼白にして後ずさる。
蒼汰は構わず、鳥居の右側の柱の根元に魔石をガコンッと押し込んだ。
――フォンッ!
空気が震え、赤い魔力が鳥居の回路へと吸い上げられる。
直後、薄っすらとした半透明のドーム状の壁が、村の『右半分』だけを覆うように展開された。
「おおおっ……! 結界じゃ! 鳥居の結界が蘇ったぞ!!」
歓喜する村人たちに対し、理人は厳しい表情を崩さなかった。
「喜ぶのはまだ早い。結界は村の半分しか覆えていないし、強度も本来の50パーセントだ。
もう片方の柱に埋める『同等クラスの魔石』が手に入るまでは、結界のない左側から強力な魔物が来たら突破される」
「マジか。じゃあ、左側の物理的な守りを固めないとな」
蒼汰が刀の柄を叩くと、理人は不敵に笑って頷いた。
「そういうことだ。ゲンさん、村の男たちを全員集めてくれ。村の左半分を覆う、大土木工事を始めるぞ」
◇
「……防壁じゃと? 気持ちは痛いほどわかるが、今のわしらには土を掘るまともな鉄器もないんじゃ。
あるのは、この先の丸まったサビだらけのスコップだけで……」
ゲンが申し訳なさそうに肩を落とした、その時だった。
「ふっふっふ。そんなこともあろうかと!」
ポンッ!と、楓菜が広場に大きな麻袋を放り投げた。
「昨日狩った大鹿の肩甲骨と角を削って、夜のうちに新しいスコップと鍬をいっぱい作っといたよ!」
渡された『魔骨のスコップ』でジョーが地面を突くと、まるで豆腐でも切るようにサクッと深くえぐれた。
鉄と同程度の硬度を持つ魔物の骨で作られた、土木道具だ。
「よし、道具の準備は整ったな」
理人が指示を出す。
「作業開始だ! ジョーたちはとにかく村の周囲に深い溝(堀)を掘れ! 出た土は内側に積み上げるんだ!」
「へ、へいっ!!」
カヌレの怪力も加わり、あっという間に深い堀が形作られていく。積み上がった土の山には、乃亜が『浄化の水』を注ぎ込み、適度な粘り気を持たせた。
「ただの泥壁じゃ、巨大な魔物に突進されたら一撃で粉砕される。
だから、引張強度を上げる『芯』を入れるんだ。
現代の鉄筋コンクリートと同じ要領だな」
理人はそう言うと、楓菜が集めてきた強靭な『ツル』と、細かく砕いた『魔物の骨』を泥の中に大量に混ぜ込ませた。
さらに、組み上がった泥の壁の外側(森側)に向けて、大量の『ホーンラビットの一本角』をハリネズミのトゲのようにびっしりと突き刺していく。
「よし、最後は俺の出番だな」
蒼汰が、組み上がった凶悪なトゲ付きの泥壁の一部に手をかざした。
「燃えろ……っ!!」
超高温の陽炎が泥を舐める。一瞬にして水分が飛び、ツルと骨が内部で完全に融合した、ガチガチの『赤茶色のスパイク防壁』が完成した。
「こ、これは……」
ジョーが恐る恐る壁のトゲに触れようとして、慌てて手を引っ込めた。
「なんちゅう恐ろしい壁じゃ……。これなら、どんな魔物が突進してきても、壁を壊す前に角で串刺しにされるぞ……!」
「……とはいえ、今日作れたのはほんの数メートルだけだ」
蒼汰が汗を拭いながら、広大な村の左半分を見渡す。
「村の左側をこれで全部囲うとなると……毎日少しずつ進めても、何ヶ月もかかる大工事になるな」
「構わんさ」
理人が泥だらけの眼鏡を押し上げる。
「一朝一夕で国は建たない。僕たちが毎日ここで飯を食い、畑を耕し、少しずつこの壁を伸ばしていく。……それが、この村を開拓するってことだ」
「ああ、そうだな!」
夕日に照らされる、ほんの数メートルだけ完成した『魔骨のスパイク防壁』。
それはまだ小さく不格好だったが、村人たちの瞳には、未来の安全を約束する巨大な希望の砦として、確かに輝いて映っていた。
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