証明の狩猟と、パンの実
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「この村の現状は、おおよそ理解しました」
一夜明けた広場。
村長ゲンから、税の重圧と村が抱える深刻な食糧不足について聞き終えた蒼汰は、静かに頷いた。
「俺たちが昨日言った『この村を立て直す』という言葉が、ただの気休めや嘘じゃないってことを、まずは行動で証明します。……行ってくる」
蒼汰が刀を腰に帯びて振り返ると、そこにはすでに身支度を終えた乃亜、理人、楓菜の三人が並んでいた。
「ま、待つんじゃ! いくらあんたたちが強くても、あの『奈落の森』へ自ら入っていくなんて自殺行為じゃ!」
ゲンが慌てて引き止めようとするが、蒼汰はニッと人の悪そうな笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ。腹ペコのままじゃ、村の畑も直せませんからね」
そう言い残し、4人は静まり返った廃村を背にして、鬱蒼と生い茂る奈落の森へと足を踏み入れた。
◇ ◇ ◇
森の中は、昼間だというのに薄暗く、濃密な魔素の気配が肌をピリピリと撫でてくる。
4人は即座に陣形を組んだ。
先頭は、索敵と狩猟を担う『叉鬼』の楓菜。
その後ろから蒼汰が死角をカバーするように刀を構えてガードの役割に徹し、安全が確保されたエリアで理人と乃亜が探索を行う。
「シィッ!」
鋭い呼気と共に、楓菜の放った矢が茂みの奥へと吸い込まれる。
「よし、命中! ホーンラビット一丁上がり!」 楓菜の野生の勘と弓の腕は、森の中でまさに水を得た魚だった。蒼汰が背後や頭上からの奇襲を完全に警戒してくれているおかげで、彼女は「獲物を仕留めること」だけに100パーセントの集中を割くことができている。
その堅牢なパーティの歩みの後ろで、理人は『毒見役』としての本領を発揮していた。
「……これはダメだ。この紫の斑点がある草と、そっちの棘のある葉は『劇毒』だ。触るなよ」
理人は手当たり次第に森の植物を採取し、自身の『解析』スキルと、時には舌に乗せて直接味を見ることで、次々と植物の成分を特定していく。
「こっちの丸い葉と、黄色い花を咲かせている草はビンゴだ。高い殺菌作用と鎮痛効果がある『薬』になる。
乃亜、これも浄化して袋に入れておいてくれ」
「わかった! 理人くん、すっごく頼りになるね」
森に入って数時間。
楓菜の神がかった狩猟により、あっという間にツノウサギ4匹と、巨大な大鹿1匹を仕留めることに成功していた。当面の食料としては十分すぎる戦果だ。
「……蒼汰、理人。ここから先は、なんだか空気が違う。
これ以上奥には、行かない方がいい気がする」
ふと、先頭を歩いていた楓菜が足を止め、鼻をクンクンと鳴らして警告した。
蒼汰も、肌を刺すような嫌な殺気を感じ取っていた。
「ああ。今日はこれくらいにしておこう」
引き返そうとしたその時、少し開けた広場のような場所を見つけた。
周囲を見渡せば、巨大な木の根が自然の壁のように入り組んでおり、隠れ家にするには丁度良さそうな地形だ。
「いずれ、何かの時の役に立つかもしれないな。……一応、目印をつけておくか」
蒼汰は刀を抜き、近くの木の幹に十字の傷を深く刻み込んだ。
「ねえねえ、あそこ! 上のほう!」
ふと頭上を見上げていた楓菜が、一本の背の高い木を指差した。
その枝には、大人の拳よりも二回りほど大きな、ゴツゴツとした茶色い実がいくつも実っていた。
「ちょっと待ってて!」
言うが早いか、楓菜は身軽な動作でスルスルと猿のように木を登り、手早くその実を三つもぎ取って地面へと放り投げた。
「理人、これ食べられるかな?」
着地した楓菜から実を受け取った理人は、持っていた小刀で硬い皮を割り、中から現れた白い果肉を少しだけ削り取って口に含んだ。
「……ん?」 理人が目を丸くする。
「毒はない。それどころか……これ、デンプン質とわずかな塩分が含まれている。
味と食感は、ほとんど『パン』に近いぞ」
「パン!? ほんとに!?」
乃亜がパッと顔を輝かせた。
連日の肉中心の生活の中で、炭水化物は喉から手が出るほど欲しい食材だ。
「そのままじゃパサパサだが……火を通して焼いたら、かなり美味いはずだ。
試しにこの三つ、村に持って帰ろう」
◇ ◇ ◇
昼下がり。
名もなき廃村の広場は、静寂を打ち破るような騒ぎに包まれていた。
「ウソじゃろ……たった半日で、これほどの獲物を……!?」
村長のゲンが、荷車に山積みになったブレードディアーの巨体と、丸々と太ったホーンラビットたちを見て腰を抜かしそうになっていた。
村人たちも、信じられないものを見るような目で蒼汰たちを囲んでいる。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん! お肉、いっぱいあるね!」
「すごい、すごい!」
昨夜歌を歌ってくれた幼い兄妹、タイキとハナが、目をキラキラさせて楓菜の足元に駆け寄ってきた。
「へへーん! これくらい、私たちにかかれば余裕だよ!」
楓菜が自慢げに胸を張り、蒼汰がタイキの頭をポンと撫でる。
「さあ、まずは腹ごしらえだ。乃亜、理人! さっそくあの『実』も焼いてみようぜ!」
村人たちの驚きと歓声の中、蒼汰たちは手に入れたばかりの森の恵みを広げ始めた。
昼下がりの広場。
蒼汰たちが持ち帰った大量の獲物と植物を前に、村人たちは沸き立っていた。
「おい、見ろ! あれは『フクラの実』じゃないか!?」
理人が取り出したゴツゴツとした茶色い実を見るなり、村長のゲンが驚きの声を上げた。
「フクラの実、ですか?」
「ああ。昔は森の奥でよく採れたんじゃが、魔物が増えてからはめっきり採れなくなってのう。
焼くと柔らかくて、腹持ちが良い最高のご馳走なんじゃよ」
ゲンの言葉に、乃亜が嬉しそうに頷く。
「理人くんの言った通りだね! 蒼汰くん、早速焼いてみよう!」
乃亜が手際よく実を切り分け、蒼汰が刀の陽炎(熱量)で即席の石窯のように熱を加え、じっくりと火を通していく。
すると、茶色い皮の中で白い果肉がふっくらと膨らみ始め、広場中に「焼きたてのパン」のような香ばしく甘い匂いが漂い始めた。
「おお! 蒼汰殿は『火の魔法』まで使えるのか!」
驚くゲンに、蒼汰は苦笑して首を振った。
「魔法じゃないですよ。俺、MPなんてゼロですから」
「魔法ではない? では、その熱は……」
「アイツのあれは、食べた肉のカロリーを無理やり熱に変えて出しているだけの『代謝熱』だよ。
王宮のクリスタルがコイツを無能と判定したのは、魔法の尺度じゃ測れない異常な体質だからだろうな」
理人の解説に村人たちが呆然とする中、実からは焼きたてパンのような香ばしい匂いが漂い始めた。
「わぁぁ……っ、いい匂い!」
待ちきれない様子で身を乗り出すタイキとハナに、ふーふーと冷ましたフクラの実が手渡される。
「熱いから気をつけてな」
「うんっ! ……あむっ。美味しい! すっごくフワフワしてる!」
「あまい! おかしみたい!」
幼い兄妹が満面の笑みで頬張るのを見て、蒼汰たちも一口かじりついた。
「……うまっ! なんだこれ!」
蒼汰は思わず目を丸くした。
外はサクッと、中はもっちりとした食感。王都で出されたパサパサの硬い黒パンなど比較にならないほど、自然の甘みと旨味が詰まった極上の味だった。
「これなら主食として十分に機能するな。……さて、今日のメインディッシュといこう」
理人が眼鏡を押し上げながら、焚き火の準備を始める。
「今日狩ってきた新しい肉は、塩と風を当てて『干し肉(保存食)』にする。
だから今日の昼飯は、昨日狩ったブレードディアーとホーンラビットの余り肉を、豪快に焼いて食おう」
「賛成! 私、お肉焼くの得意だよ!」
楓菜が昨日解体して一晩寝かせた肉を串に刺し、焚き火の上で香ばしく焼き上げていく。
滴る脂が炎に落ちて、ジュワッと食欲をそそる音が響いた。
「待て。これをかけてみてくれ」
理人がすり鉢で黒い小さな粒をすり潰し、焼き上がった肉にパラパラと振りかけた。
「なんだそれ? 理人」
「森の入り口で見つけた木の実だ。強い辛味と香りの成分が含まれている」
言われるがままに肉を口に運んだ蒼汰は、再び衝撃を受けた。
「……っ! 肉の臭みが完全に消えてる!
それにこのピリッとした刺激、肉の脂の甘みをめちゃくちゃ引き立てて……最高に美味い!」
「おおお! この『辛い黒粒』をかけると、ご馳走みたいな味になるぞ!」
村人たちも、その劇的な味の変化に歓声を上げた。
「ゲンさん、この黒い実の名前は?」
「いや、ただの辛い雑草の実として誰も見向きもせんかったから、名前なんてないんじゃ」
首を振るゲンを見て、蒼汰は笑って言った。
「じゃあ、シンプルに『胡椒』って呼ぼう。
これからの俺たちの料理に欠かせない、最高のスパイスだ」
◇ ◇ ◇
広場が極上の肉とフクラの実で満たされ、村人たちのお腹と心がすっかり満ち足りた頃。
理人が、乃亜と共に立ち上がった。
その手には、森で採取した薬草を煮詰めて作った緑色のシロップや、すり潰した軟膏が握られている。
「……食事が済んだら、体の弱っている者はこっちへ来てくれ。診察と投薬を行う」
理人の静かな声に、咳き込んでいた老人や、魔物にやられた傷跡が膿んでいた若者たちがおずおずと集まってきた。
「このシロップを飲んで、しばらく横になっててくれ。気管支の炎症を抑える薬だ」
「そっちの傷にはこの軟膏を塗る。乃亜、患部の洗浄を頼む」
「はいっ! 痛くないように、綺麗なお水で洗いますね」
理人の的確な指示と、乃亜の優しく清らかな水による手当て。
薬を飲んだ老人の激しい咳は嘘のように治まり、熱を出してぐったりしていた村人が、みるみると血色を取り戻していく。
「あ、ああ……体が、こんなに軽いなんて。痛みが引いていく……」
一人の老人が、理人の手を取ってボロボロと涙を流し始めた。
「ありがとうございます……ありがとうございます、先生方……っ!」
「よせ。僕はただ、植物の化学成分を抽出しただけだ」
理人はそっぽを向きながらぶっきらぼうに答えたが、その耳は少し赤くなっていた。
それを見た村人たちは、もう誰一人として蒼汰たちを「よそ者」として警戒してはいなかった。
腹を満たし、怪我を治し、未来の保存食まで約束してくれた。
たった半日の行動で「村を守る」という言葉を証明してみせた4人の若き英雄たちに、名もなき廃村の住人たちは、生涯の忠誠にも似た絶対の信頼を寄せることになったのだった。
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