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和風ジョブの無双と、望郷の歌

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 温かい応援のおかげで、頑張れています。どうぞお楽しみください!

 静寂に包まれていた村の広場に、どよめきが広がった。


 先ほどまで村を蹂躙しようとしていた恐ろしい魔物たち――ホーンラビットとブレードディアーの群れが、見知らぬ4人の少年少女によって一瞬で物言わぬ肉塊へと変えられたのだ。


「す、すげえ……」


 竹槍を握りしめたまま腰を抜かしていた村長の息子、ケントが震える声で呟いた。


「いつもなら、俺たちは逃げ惑うことしかできなくて……

 奴らが畑を荒らし尽くして帰っていくのを、隠れて見てるだけだったのに。

 あんたたち、本当にすげえな……!」


 村人たちが畏敬の念を込めて見つめる中、楓菜はすでに手慣れた様子でブレードディアーの解体に取り掛かっていた。


『叉鬼』のスキルで最も美味い「命の座」を見極め、皮を傷つけずに赤身肉と極上の脂身を切り分けていく。


 その鮮やかな手つきと、切り出された新鮮な肉の塊を見て、物陰から様子を窺っていた村人たち――特に小さな子供たちの喉が、ゴクリと大きく鳴った。


 彼らの目は、まるでご馳走を見るように釘付けになっている。


 そのひもじそうな視線に気づき、蒼汰はニッと笑って声を上げた。


「さあ、みんな! この肉を一緒に食べましょう!」


「わぁぁっ!!」


 子供たちから弾けるような歓声が上がる。


 しかし、村長のゲンが進み出て、申し訳なさそうに首を横に振った。


「い、いや……そんなわけにはいかん。

 わしらは戦いで何もしておらんのに、そんな貴重な魔物の肉をもらっていいわけが……」


「なにを言ってるんです。当たり前じゃないですか!困った時はお互い様です」


 蒼汰は血の付いた刀を拭いながら、真っ直ぐにゲンを見た。


「それに、こんなに大量の肉、俺たち4人じゃ食べきれません。

 みんなで準備をして、一緒に美味しく食べましょう!」


 その言葉に、大人たちの顔にもパッと希望の光が差した。


「……ありがとう、本当にありがとう……っ。

 おい、みんな!野菜と鍋を持ってこい!広場で炊き出しじゃ!」


 ゲンの号令で、死を待つだけだった廃村が、一気に活気づいた。


 村の広場に大きな鉄鍋がいくつも運び込まれ、即席の料理大会――いや、お祭りが始まった。


「水は私が出しますね!清らかなお水、いっぱいありますから!」


 乃亜が『巫女』の浄化スキルで、村にあったいくつかの桶に、透き通った名水をこんこんと満たしていく。


「おおっ、なんという澄んだ水じゃ……!」


「俺はこの肉の臭みを消して、旨味を最大限に引き出そう」


 理人が『陰陽師』の調合スキルを駆使し、楓菜が切り分けた肉に下味をつけ、村人が持ってきたくず野菜と共に鍋へと投入していく。


 やがて、広場いっぱいに肉の脂が溶け出した芳醇な香りと、食欲をそそる出汁の匂いが立ち込めた。


「よし、完成だ!」


 熱々のスープと、ホーンラビットの香草焼きが村人たちに振る舞われる。


 おずおずと木の器を受け取った村人たちは、一口スープをすすった瞬間、雷に打たれたように目を見開いた。


「う、うめえ……っ! なんだこれ、肉がとろけるぞ!」


「お出汁がすっごく甘い……! 

 こんな美味しいもの、生まれて初めて食べた……!」


 あちこちから感嘆の声が上がる。


 先ほど蒼汰たちを警戒して子供を連れ去った母親も、木の器を両手で包み込みながら、ポロポロと涙をこぼしていた。


「……タイキ、ハナ、いっぱいお食べ。

 今日はお腹いっぱい、お肉を食べていいんだよ」


「うんっ! お兄ちゃんたち、すっごく美味しいよ! ありがとう!」


 顔をくしゃくしゃにして笑う幼い兄妹の頭を、蒼汰は優しく撫でた。



 ◇ ◇ ◇



 食事が落ち着き、広場に温かい満腹感が漂い始めた頃。


 タイキが、妹のハナの手を引いて、蒼汰たちの前にちょこんと立った。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん。お肉、すっごく美味しかった。

 ……ぼくたち、何もお返しできるものがないから、お歌を歌うね」


「歌?」


 蒼汰が目を丸くする前で、幼い兄妹は手を繋ぎ、夕闇が迫る空を見上げて、ゆっくりと歌い始めた。


『あかねさす 山の

 帰り急ぐは 迷い鳥

 風がはこぶ 土の匂い

 夕餉ゆうげのけむり あたたかく


 遠きふるさと 夢の跡

 いつか帰らん あの場所へ

 笑顔の花が 咲く場所へ……』


 それは、どこか物悲しくも温かい、日本の童謡のような五音階のメロディだった。


 子供たちの透き通った純粋な声が、夜のとばりが下り始めた村の空気に、優しく溶けていく。


「……っ」


 その歌を聴いた瞬間、蒼汰たちの時間が止まった。


 張り詰めていた心の糸が、プツンと切れる音がした。


 思い浮かぶのは、異世界になど来る前の、平和で退屈だった日常。


 部活帰りに見た茜色の夕焼け。


 家のドアを開けた時に香る、夕飯の匂い。


「おかえり」と笑ってくれる、家族の顔。


「……だめだ、これ」


 最初に顔を歪めたのは、楓菜だった。


 男勝りでいつも強気だった彼女が、両手で顔を覆い、肩を震わせて泣きじゃくり始めた。


「かえり……たいよ……。お父さん、お兄ちゃん……っ」


 乃亜も、もはや声を殺すことすらできず、大粒の涙をボロボロとこぼしながら地面に泣き崩れていた。


 いつも冷静な理人でさえ、無言で眼鏡を外し、目頭を強く押さえて天を仰いでいる。


「……っ、う、あぁぁ……」


 蒼汰は、必死に唇を噛み締めたが、漏れる声を抑えることができなかった。


 魔物に襲われた時も、飢えに苦しんだ時も、決して泣かなかった。


 泣けば、心が折れて死んでしまう気がしたからだ。


 だが、子供たちの歌う『ふるさと』の歌は、高校生の少年少女が背負うにはあまりにも過酷だったサバイバルの疲れを、優しく解きほぐしてしまった。


 蒼汰の目からも、ボロボロと後から後から涙が溢れ出し、止まらなかった。


「……これは、わしらの先祖が、かつて追われた『遥か東の故郷』を想って作った古い歌じゃ」


 静かに歌い終えた兄妹の横で、村長のゲンが、涙ぐみながら教えてくれた。


「あんたたちも……帰りたい場所があるんじゃな」


 蒼汰は、涙でぐしゃぐしゃになった顔を袖で乱暴に拭い、深く、深く頷いた。


「ゲンさん。もしよければ、俺たちをこの村に一晩泊めてもらえませんか?」


「一晩などと言わず、いつまででも居てくだされ!」


 ゲンは食い気味に頷き、広場の奥にある比較的立派な空き小屋を案内してくれた。


「ここは昔、集会所として使っていた場所じゃ。

 今はほとんど使っておらんから、好きに使ってくれて構わんよ」


 案内された小屋は埃を被っていたが、乃亜がサッと浄化の力を使い、あっという間に居心地の良い空間へと変わった。


 村人たちが静かに眠りについた後。


 小屋の中でランタンを囲み、泣きはらした赤い目の4人は、顔を突き合わせた。


「……なぁ、みんな」


 蒼汰が、ランタンの揺れる炎を見つめながら口を開いた。


「俺たち、絶対生きて日本に帰ろうな。

 でも、その前に……」


 蒼汰は、村の中心にある朽ちた鳥居と、タイキたち兄妹が眠る家屋の方角を見遣みやった。


「王国に見捨てられて、魔物に怯えて、食べるものもなくて泣いてたあの村人たちの姿……。

 数日前の、俺たちそのものだった。

 あの子供たちの歌う場所を、これ以上奪わせたくない」


「うん……っ」


 乃亜が、赤くなった目をこすりながら力強く頷く。


「……合理的観点から言っても、僕たちが生き残るためには安定した拠点と協力者が必要不可欠だ。

 あの鳥居の結界を修復し、この村を立て直すことは、僕たち自身の生存確率を跳ね上げることにも繋がる」


 理人が眼鏡をかけ直し、彼なりの不器用な言葉で賛意を示す。


「それってつまり、私たちがこの村を本気で救うってことだよね!」


 楓菜がいつもの快活な笑顔を取り戻し、ニカッと笑った。


「やろうよ! 

 私が森の魔物を狩り尽くして安全地帯を作る! 

 理人が薬や道具を作って、乃亜が結界を張り直す! 

 で、蒼汰がボスをぶっ飛ばす!」


「ああ。俺たちで、この村を立て直そう」


 蒼汰の瞳には、かつての迷いは一切なかった。


「明日から、本格的に動くぞ。俺たち『ハズレ職』の力で、この絶望の村を、世界で一番豊かで美味いメシが食える村に変えてやるんだ!」


 名もなき廃村の、小さな小屋の中。


 望郷の涙を越え、覚悟を決めた4人の若者たち。


 のちに王国を揺るがすことになる「新たな国の誕生」の火種が、今、確かな熱を帯びて静かに燃え上がり始めていた。

ご一読いただきありがとうございます!

思った以上に読んでくださる方がいて、とても嬉しいです。

もっと楽しんでもらえるように頑張りたいと思います。

今後の励みになりますのでもし「面白かった」「続きが読みたい」と思っていただけたら、 ページ下の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援してもらえると嬉しいです。


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