朽ちた和風の廃村(後編)〜結界の村と、圧倒的な救済〜
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ボロボロに朽ち果てた木製の『鳥居』。
王都の煌びやかな西洋建築とは完全に異質な、まるで日本の歴史の教科書から抜け出してきたようなその建造物をくぐり、蒼汰たちは恐る恐る村の中へと足を踏み入れた。
不気味なほどに静まり返っていた。
土を耕した田畑は荒れ果て、茅葺き屋根の家屋が十数軒立ち並んでいるが、全く人の気配がしない。
「お兄ちゃんたち、どこから来たの?」
ふと、一軒の家屋の陰から、一人の小さな男の子がひょっこりと顔を出した。
蒼汰たちは思わず目を丸くした。
その子供が着ているのは、ツギハギだらけではあるが、間違いなく日本の『着物(小袖)』のような衣服だったのだ。
「あ、えっと……俺たちは」
蒼汰がしゃがみ込もうとした瞬間。
「タイキッ! いけません!!」
家屋の裏から血相を変えた母親が飛び出してきて、子供の腕を引ったくるように抱え込んだ。
彼女は怯えた目で蒼汰たちを一瞥すると、逃げるように家の中へ駆け込み、ピシャリと重い木戸を閉ざしてしまった。
「……明らかに歓迎されてないな。だが、日も暮れる。事情を聞く必要がある」
理人の言葉に頷き、蒼汰は村の中心に向かって張りのある声を響かせた。
「誰かいませんか! 俺たちは怪しい者じゃありません!」
数秒の重い沈黙の後。
ギイィ……と一番奥の大きな家屋の戸が開き、3人の男が姿を現した。
先頭を歩くのは、白い髭を蓄えた長老風の老人。
その後ろには、ボロボロの着物の袖を捲り上げ、古びた鉈と竹槍を構えた二人の若い男が、敵意をむき出しにして蒼汰たちを睨みつけていた。
「……よそ者は帰れ。ここには、お前さんたちにくれてやる食い物はねえ」
老人が威嚇するように言った。
「奪いに来たわけじゃありません。俺たちは……王の命令で、このクレマン領の護衛と開拓支援に来た者です。今夜一晩、休ませてほしい」
蒼汰は咄嗟にそう嘘をついた。
「無能」の追放者だと言うよりは、警戒を解きやすいと考えたのだ。
しかし、老人は力なく鼻で笑った。
「王の命令じゃと? ……ふん、王国の連中がわしらのような泥水をすする民を助けるわけがねえ。
どうせお前さんたちも、すぐに魔物の餌食になるだけじゃ」
「無駄……? どういうことですか」
蒼汰は敵意を解こうと一歩前に出た。
「申し遅れました。俺は蒼汰。こっちが乃亜、理人、楓菜です。自分の身は自分で守れます」
蒼汰の真っ直ぐな目に、老人はわずかに警戒を解き、深くため息をついた。
「……わしはこの村の村長、ゲンじゃ。後ろの二人は息子のジョーとケントだ」
ゲンは村の入り口にある『朽ちた鳥居』を悲痛な目で見つめて言った。
「あの鳥居は、大昔の偉大な術師様が建てた『結界の要石』じゃ。
あの力のおかげで、わしらは森の魔物を避けて暮らしてこられた。
じゃが、長い年月で完全に力が落ちてしもうた。
結界のほころびから、度々魔物がなだれ込んでくるようになったんじゃ」
ゲンが顔を覆い、絞り出すように語る。
「畑は荒らされ、食べるものもなく、わしらはただ魔物の恐怖に震えながら死を待つことしかできねえ。
だから、お前さんたちが来ても無駄なんじゃよ……」
――その会話の最中だった。
「……っ! 蒼汰、理人、乃亜!」
突如、後方で警戒に当たっていた楓菜の表情が凍りついた。
彼女は慌てて背中の猟弓を構え、村の入り口をギロリと睨みつける。
「来る……っ! 足音多数、真っ直ぐこっちに向かってきてる!」
『叉鬼』の研ぎ澄まされた嗅覚と聴覚が、圧倒的な死の気配を捉えた。
その言葉に、ジョーとケントが顔面を蒼白にして後ずさり、村長のゲンが絶望に顔を歪めて膝から崩れ落ちた。
「また出たか……もう、おしまいじゃ……村が、終わる……!」
ドドドドッ! という地鳴りと共に、朽ちた鳥居の結界を容易く突き破り、森の奥から凶暴な獣の群れが姿を現した。
額に禍々しい一本角を生やしたウサギが五匹。
さらにその後ろから、刃物のような巨大な角を持つ大鹿が二匹、村の広場へとなだれ込んでくる。
「ひぃぃっ!?」
ケントが腰を抜かして竹槍を落とした。
もはや蹂躙されるのを待つしかない絶望的な戦力差。
しかし――蒼汰たち4人の表情には、焦りも恐怖も一切なかった。
「陣形を組んで、村の人たちを下げるぞ!」
蒼汰の号令と同時、4人は流れるような動きで迎撃態勢に入った。
「シィッ!」
先陣を切ったのは楓菜だ。
しなりを利用した神速の連射。
理人の調合した猛毒の鏃が、先頭を走っていたウサギ二匹の眉間を正確に貫き、一瞬で絶命させる。
「理人!」
「計算通りだ」
右から回り込もうとした残りのウサギ三匹に対し、理人が手作りの『目潰し粉』をぶちまける。
強烈な刺激臭にウサギたちが悶絶して足を止めた。
「乃亜っ!」
「はいっ!」
そこへ踏み込んだ乃亜が、茶道の滑らかな足運びで円を描くように薙刀を振るう。
一角うさぎから削り出した鋭い刃が、ウサギ三匹の胴体を一息に薙ぎ払い、静かに血糊を振り払った。
「グルルルァァッ!!」
前衛が崩されたことに怒り狂った二匹の大鹿が、巨大な刃の角を振り乱して蒼汰めがけて突進してくる。
ダンプカーのような質量のダブルチャージ。
だが、蒼汰は一歩も引かず、魔物の骨で補強された刀を正眼に構えた。
(満腹度、80パーセント……十分だ!)
「燃えろッ!!」
体内のカロリーが一気に熱量へと変換され、鉄剣が太陽のように眩い陽炎を噴き上げる。
「おおおおぉぉッ!!」
蒼汰が踏み込み、下から上への渾身の斬り上げを放った。
絶対的な超高温を帯びた刃は、二匹の大鹿の硬い角を飴細工のように切断し、そのまま巨大な胴体を真っ二つに両断した。
ドズゥンッ!!
二匹の大鹿が、左右に分かれて地面に崩れ落ちる。
戦闘開始から、わずか二分足らず。
圧倒的な連携による、完全無傷の無双劇だった。
「よし、終わったな! 楓菜、血が回る前に血抜き頼む!」
「了解! うわー、このお肉、すっごく脂乗ってて美味しそう!」
蒼汰が熱を帯びた剣を鞘に収め、楓菜が手慣れた様子で大鹿の解体を始める。
その信じられない光景に、村長のゲンと二人の息子は、開いた口が塞がらなかった。
「ば、馬鹿な……」
ゲンが震える声で呟く。
「凶暴な『ホーンラビット』の群れと、あの恐ろしい『ブレードディアー』二頭を……たった四人で、一瞬で屠ったじゃと……?」
「へえ、こいつら、ホーンラビットとブレードディアーって名前だったのか」
蒼汰が感心したように言う。彼らは今まで、自分たちが食べてきた魔物の正式名称すら知らなかったのだ。
騒ぎが収まったことに気づき、固く閉ざされていた家屋の戸が次々と細く開き、隠れていた村人たちが恐る恐る顔を出し始めた。
彼らの目に映ったのは、村を脅かしていた恐ろしい魔物たちがすべて物言わぬ死骸となり、見知らぬ少年少女がそれを平然と解体している信じられない光景だった。
「あ、あんたたち……一体何者だ?」
ジョーが、化け物でも見るような目で蒼汰たちに問う。
「本当に、王都から我々を助けに来てくれたのか……!?」
ゲンの震える問いかけに、蒼汰たちは顔を見合わせ、そして村人たちに向かって優しく、誇り高く微笑んだのだった。
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