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極限のおにぎりリレーと、真ジョブ覚醒

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 温かい応援のおかげで、頑張れています。どうぞお楽しみください!

「多目くん! 多目くん、しっかりして!」


 乃亜が青ざめた顔で蒼汰の頬を叩くが、反応はない。


 彼の身体は氷のように冷たくなり、呼吸も弱々しくなっていた。


 深い森の中。


 血を流す理人と、飢餓で意識を失った蒼汰。


 残されたのは、ただ震えるだけのハズレ職の少女二人。


 彼らは、真の絶望の淵に立たされていた。


「……泣いている暇はないぞ、冨永、福島」


 痛む左腕を庇いながら、理人がふらつきつつも立ち上がった。


 理人の視線の先。


 そこにあったのは、先ほど蒼汰が一刀両断したばかりの、異形の獣の死骸だった。


 まだ切り口からは、もうもうと湯気が立ち上っている。


「未知のタンパク源だ。……あの化物、いけるんじゃないか?」


 理人の狂気じみた提案に、森の冷たい空気が一瞬だけ凍りついた。


 真っ二つに両断された異形の獣。


 黒光りする体毛とドス黒い血を流すその死骸は、どう見ても『食材』と呼べる代物ではない。


「……正気!? あんなの、毒の塊かもしれないんだよ!? 

 それに梶原くん自身も、そんなに血を流してるのに!」


 楓菜が悲鳴のような声を上げるが、理人は冷徹な瞳で倒れた蒼汰を見下ろした。


「今の多目には、極限まで消費した熱量カロリーを補うための『圧倒的な栄養価』が必要だ。

 ……やるしかない」


「でも、どうやって……」


「……あっ! 待って、あそこ!」


 不意に乃亜が指差した先。


 先ほどカヌレがパニックを起こして逃げ出した際、ボロ荷車から振り落とされたであろう小さな麻袋と、小袋に入った火打ち石が地面に転がっていた。


 中身を確認すると、萌音が持たせてくれた『乾燥米』だ。


「……冨永。君はすぐにその火打ち石と枯れ枝で、火を起こしてくれ。

 弱り切った多目の胃腸に生肉を入れるわけにはいかない」


「わ、わかった!」


 理人の指示に、乃亜が弾かれたように動き出す。


 それを見た楓菜は、自分の腰に提げた短刀――刀真が打ち直してくれた刃――を強く握りしめ、血だまりの中の獣へと歩み寄った。


「……私が、解体する。でも、どこを切ればいいの……っ」


 息を殺し、獣の構造を見極めようと目を凝らした、その瞬間だった。


「……ッぁ!?」


 楓菜の両目に、焼け火箸を押し当てられたような鋭い激痛が走った。


 思わず両目を押さえてうずくまる。


 眼球の奥がカッと熱を持ち、脳の視覚野が強制的に書き換えられていくような感覚。


 恐る恐る目を開けると、楓菜の視界は劇的に変化していた。


(……視える。肉の繊維、血の巡り、最も美味くて栄養価の高い『命の座』が……光の線になって視える!)


【条件を満たしました。ジョブ『警備員』から、真ジョブ『叉鬼マタギ』へアップデートします】


 脳内に響く無機質な声と共に、楓菜の短刀が迷いなく獣の急所に突き立てられ、流れるように上質な赤身肉だけを切り出していく。


「……取れた! 梶原くん、頼む!」


 楓菜が切り出した血まみれの肉塊を受け取り、理人はすり鉢の前にしゃがみ込んだ。


「見事だ。……だが」


 裂けた左腕の激痛に顔を歪めながらも、理人は肉の断面を見つめ、ナイフでほんの数ミリだけ削り取った。


「瀕死の多目に、未知の肉をそのまま食わせるわけにはいかない。……まずは、僕が」


 理人はその米粒ほどの生肉を、自らの舌の上に乗せた。


「……ッ!! が、ァッ……!」


 直後、理人の喉を締め付けるような絶息と、舌が焼け爛れるような激痛が襲った。


 全身の神経がショートし、脂汗がどっと吹き出す。強烈な麻痺毒だ。


「梶原くんっ!?」


「く……る、なッ……!」


 理人は白目を剥きかけながらも、自らの脳細胞をフル回転させた。


 神経細胞が異常発熱を起こし、頭蓋骨の中が沸騰するような熱波に襲われる。


 だがその熱の中で、理人の脳内には、自身を侵す猛毒の『化学構造式』がハッキリと色分けされて浮かび上がっていた。


【条件を満たしました。ジョブ『毒見役』から、真ジョブ『陰陽師おんみょうじ』へアップデートします】


「……見切ったぞ。単純なアルカロイド系の神経毒だ……ッ」


 息も絶え絶えになりながら、理人は動く右腕と両膝を使ってすり鉢を固定し、道中で採取していたアルカリ性の薬草を潰して、肉に擦り込み始めた。


「毒を以て毒を制す。魔法などというオカルトに頼らずとも、成分を中和し、同時にタンパク質を分解して『アミノ酸(旨味成分)』を極限まで引き出してやる。

 ……万物は化学反応、すなわち陰と陽の結びつきだ!」


 理人の手によって、ドス黒かった肉は鮮やかな桜色へと変わり、食欲をそそる芳醇な香りを放ち始めた。


「解毒と旨味の抽出、完了だ。……冨永!」


「はいっ!」


 理人から肉を受け取った乃亜は、すでに火を起こし、鉄兜を鍋代わりにして干し飯と肉を投入していた。


 だが、水筒から入れた水は、森の瘴気を吸って微かに濁り始めている。


(お願い……綺麗になって。多目くんの命を繋ぐ、最高のご飯になって!)


 乃亜が鉄兜を両手で包み込むように祈りを捧げた瞬間。


 ビリッ! と、彼女の掌に無数の針を突き立てられたような痛みが走った。


 森の『穢れ(瘴気)』が、浄化を拒んで乃亜の肌を焼き焦がそうと抵抗しているのだ。


「くぅっ……! 負け、ない……多目くんを、助けるんだからっ!」


 乃亜が痛みに耐え、己の魂の底から清らかな祈りを押し出した瞬間、彼女の両手が太陽のような温かい光に包まれた。


【条件を満たしました。ジョブ『清掃婦』から、真ジョブ『巫女みこ』へアップデートします】


 光が『穢れ』を完全に祓い去り、鍋の中の水が、大自然の湧き水のような透き通った名水へと変わる。


 清らかな水で炊き上げられた乾燥米は、ふっくらとしたツヤツヤの『銀シャリ』へと蘇り、理人が旨味を引き出した極上の肉汁をたっぷりと吸い込んでいった。


 乃亜は火から下ろした熱々の飯と肉を、火傷しそうになりながらも素手で力強く握りしめる。


「できた……! 多目くん、食べて!」


 乃亜は意識のない蒼汰の上半身を抱き起こし、完成した『極上・肉巻きおにぎり』をその口元へと押し当てた。

 蒼汰の口が、本能に従うように微かに開き、おにぎりを飲み込む。


 ――その瞬間だった。


「……ガ、ァァァッ!!?」


 突如、蒼汰が仰け反り、喉を掻き毟るように暴れ始めた。


 胃袋に煮えたぎる溶岩を流し込まれたような、尋常ではない『熱』。


 叉鬼が切り出した極上の命。


 陰陽師が引き出した究極の旨味。


 巫女が祓い清めた神聖なる銀シャリ。


 3人の真ジョブが掛け合わされたその塊は、蒼汰の枯渇していた細胞の中で、規格外の爆発的な『熱量カロリー』となって燃え盛ったのだ。


 視界の右下で点滅していた【満腹度:0%】の表示が、異常な速度で跳ね上がっていく。


 50%、90%――そして。


【満腹度:120%(限界突破)】


【極限のカロリー燃焼を確認。ジョブ『浪人』から、真ジョブ『山伏やまぶし』へアップデートします】


 カッ! と、蒼汰の全身から、修験者の護摩行ごまぎょうを思わせる凄まじい陽炎かげろうと熱気が噴き出した。


 燃え尽きかけていた細胞が蘇り、冷え切っていた体温が急速に上がり、血色が戻る。


「……ん、ぐ……」


 蒼汰が、ゆっくりと目を開けた。


 目の前には、ボロボロになりながらも、涙ぐんで自分を見つめる乃亜、楓菜、理人の顔があった。


 口の中には、今まで生きてきた中で食べたどんな料理よりも、圧倒的に美味くて、温かい味が広がっている。


「……多目、くん……?」


 乃亜が、震える声で呼びかける。


 蒼汰はゆっくりと上体を起こし、口の中のものをゴクリと飲み込んだ後。


 満面の笑みを浮かべて、こう言った。


「……うまっ!! 

 なにこれ、最高なんだけど!!」


 緊迫していた森の空気が、その一言で一気に崩れ落ちる。


 乃亜の目から大粒の涙がポロポロとこぼれ落ち、楓菜はその場にへたり込んで「……バカ! ほんとに死ぬかと思ったじゃん!」と泣き笑いした。


 理人も痛む舌を庇いながら、「……まったく、世話の焼ける燃費構造だ」と、安堵の笑みと共に眼鏡を押し上げる。


 絶望の森の奥深く。


 世界から見捨てられた4人のハズレ職は、極限の痛みと熱を乗り越え、決して折れることのない『真ジョブ』へと、確かな産声を上げたのだった。

ご一読いただきありがとうございます!

思った以上に読んでくださる方がいて、とても嬉しいです。

もっと楽しんでもらえるように頑張りたいと思います。

今後の励みになりますのでもし「面白かった」「続きが読みたい」と思っていただけたら、 ページ下の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援してもらえると嬉しいです。


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