光と影の訓練場
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「なあ神宮寺、王国兵士のステータス画面、見せてもらったんだけどさ。
あいつら平均レベル10で、HPが150、筋力が20くらいしかないんだぜ?」
「ふん。だろうな」
王宮の第一訓練場。豪華な天蓋付きの休憩スペースで冷たい果実水を飲みながら、神宮寺勇輝と山城翔也が笑い合っていた。
彼らの目の前の空間には、本人たちにしか見えない半透明の『ステータスウィンドウ』が浮かび上がっている。
「俺の『司令塔』の初期ステータスは、HP455、筋力60。知力に至っては200を超えている。
レベル1の段階で、すでに一般兵の3倍以上のポテンシャルというわけだ」
「私なんてMP自動回復つきだしー。回復魔法使い放題でしょ、これ」
西園寺美海が、自分のウィンドウを自慢げに指差して笑う。
「……神宮寺、お前はどうなんだ?」
山城の問いに、神宮寺は口角をニヤリと吊り上げた。
「俺の『勇者』は、初期値でHP754、筋力も俊敏も100オーバー。MPは512だ」
「なっ……兵士の5倍以上だと!?」
「正直、この世界の人間がスライムに見えるぜ」
神宮寺が余裕の笑みで言い放つと、近くで控えていた宰相が、揉み手をして感嘆の声を上げた。
「おおお……! レベル1でそのお力! まさに底が知れませぬ!
勇者様方がレベルを上げ、スキルを極めた暁には、魔王軍など赤子も同然でしょうな!」
「はははっ、任せてくださいよ宰相さん。
俺たちにとっちゃ、こんなのただのヌルゲーみたいなもんですから」
宰相や騎士たちから褒めそやされ、神宮寺たちは完全に有頂天になっていた。
圧倒的な数値に守られているという安心感。
彼らにとってこの異世界は、自分たちが無双して気持ちよくなるための、都合の良いゲーム盤でしかなかったのだ。
◇ ◇ ◇
華やかな笑い声が響く中央区画から遠く離れた、砂埃の舞う訓練場の隅。
蒼汰たち4人は、誰からも見向きもされないまま、黙々と己の「特訓」を続けていた。
「……九百九十八、九百九十九、一千ッ!」
ブンッ! と鈍い風切り音が鳴る。
蒼汰は上半身裸になり、滝のような汗を流しながら、刃のこぼれた重い鉄剣を振り下ろしていた。
彼にはHPや筋力といった便利な数字は見えない。
あるのは、右下でジワジワと減っていく『満腹度ゲージ(現在25%)』と、筋肉が焼き切れるようなリアルな疲労感だけだ。
中学時代から剣道部で培った、泥臭い素振りの反復。
ただ剣を振るだけでも満腹度を消費する感覚を、蒼汰は体に叩き込んでいた。
「ふうっ……少しはマシな構えになってきたね、多目くん」
木陰から、楓菜が声をかけてくる。
彼女の目つきは、野生動物のように鋭い。
手には、支給された『歪んだ弓』が握られていた。
「見てて。この弓、右に大きく曲がる癖があるから……」
楓菜は細い腕でギリッと弦を引き絞ると、狙いを大きく左にずらして矢を放った。
ヒュッ、という音と共に、矢は不自然なカーブを描き、三十メートル先にある木箱の「中心の節」に深々と突き刺さった。
「すげえ……そのポンコツ弓で、百発百中じゃないか」
「『鷹の目』ってやつかな。
風の向きとか、矢が飛ぶ軌道が、なんか線みたいに見えるんだよね」
楓菜が額の汗を拭いながら、少しだけ得意げに笑う。
その横では、乃亜が支給された薄汚れた水桶の前にしゃがみ込んでいた。
彼女が両手で水面を覆い、祈るように目を閉じると、濁っていた水がみるみるうちに透き通り、飲み水として完璧に『浄化』されていく。
「すごいよ冨永さん! これなら、森の中で泥水しかなくても絶対に生きていける」
「うんっ……! でも、まだコップ一杯分綺麗にするだけで、すっごく疲れちゃうんだけどね」
乃亜はフラフラになりながらも、その顔には確かな充実感が浮かんでいた。
そして。
「……驚いたな。この世界の植生は、地球の常識を軽く凌駕している」
一人離れた場所で、理人が地面に生えている名もなき雑草をむしり取り、それを少しだけ千切って口に含んでいた。
「おい理人! お前、その辺の草食って腹壊さないのか!?」
慌てる蒼汰に、理人はペッと草を吐き出し、眼鏡を指で押し上げた。
「問題ない。僕の『毒見役』のスキルを通せば、この植物の毒性がどの程度か、瞬時に脳内で『化学式』として解析できる。
……それに、ただの雑草だと思っていたこの赤い草には、強力な『止血成分』と『興奮作用』が含まれているようだ」
「それって、薬になるってことか?」
「ああ。抽出して精製すれば、怪我を治す薬にもなるし……調合次第では、敵の神経を麻痺させる強烈な『毒煙幕』や『爆薬』にもなるだろうね。
魔法なんていう非科学的なオカルトに頼らずとも、化学の力で全て証明してやるさ」
マッドサイエンティストのような冷たい笑みを浮かべる理人の手には、すでに何種類もの『未知の薬草・毒草』が分類され、すり鉢の中で怪しげな汁を出し始めていた。
王国の連中は、彼らを「無能」だと笑って放置した。
だが、彼らは腐らなかった。
ステータス数値に甘えて慢心する勇者たちとは対照的に、蒼汰たち4人は劣悪な環境の中で、己のスキルを『生き残るための生存術』として、泥臭く、しかし確実に研ぎ澄ませていたのだ。
(……やれる。俺たちなら、絶対に)
満腹度ゲージの低下による強烈な空腹感に耐えながら、蒼汰は頼もしい3人の仲間を見渡し、剣の柄を力強く握り直した。
◇ ◇ ◇
――だが、懸命に生きる道を模索する彼らの姿を、遥か上空から冷酷に見下ろす者たちがいた。
訓練場を一望できる、王宮の最上階。
豪奢なテラスに置かれたソファに腰掛け、クレア姫は最高級のワインが入ったグラスを揺らしていた。
「素晴らしいわ、神宮寺様たちは。あの圧倒的なステータス……
まさに、我が国を守る最高の『盾』であり『剣』ね」
「ええ。ですが姫様……」
背後に控えていた宰相が、テラスの手すりから身を乗り出し、はるか下方の広場の隅――土埃まみれになっている蒼汰たちを指差した。
「あそこにおります『ゴミ』どもはいかがいたしましょうか? 王宮の敷地内に無能がうろついているだけで、不愉快極まりないのですが」
「ああ、あの清掃婦や毒見役のこと?」
クレア姫は、羽虫でも見るかのように冷たく目を細めた。
「目障りね。あんな者たちに、硬い黒パンとはいえ無駄飯を食わせてやる余裕は我が国にはないわ。お父様?」
「うむ。使い道のない汚物は、さっさと処分するに限る」
どっかりと座っていたバルカエス王が、忌々しそうに鼻を鳴らした。
「では、辺境の『クレマン領』へ、治安維持という名目で送り出しましょう」
宰相が、陰湿な笑みを浮かべて提案する。
「あそこは現在、魔物の被害が最もひどい見捨てられた土地。
勇者様方には『彼らにも彼らなりの任務を与えた』とでも言いくるめておけばよろしいでしょう」
「ふふっ……名案ね、宰相」
クレア姫の美しい顔が、邪悪に歪んだ。
「王都からクレマン領へ向かう道中には、凶悪な魔物が巣食う『奈落の森』を通らなければならないもの。
あの貧弱な装備と低いステータスで、生きて抜けられるはずがないわ」
「左様でございます。魔物の腹を満たす、良い餌になるでしょう。
……万が一、奇跡が起きて生き延び、クレマン領へ辿り着いたとしても」
「ええ。二度と、この王都の門はくぐらせないわ。
一生、辺境の泥にまみれて惨めに死んでいけばいいのよ」
「はははははっ!」
「ふふふっ……」
王宮の最上階に、優越感に満ちた醜悪な笑い声が響き渡る。
泥臭く前を向こうとしていた蒼汰たち4人のもとへ、王族たちが仕組んだ追放宣告という名の、死の片道切符が届けられる刻限が迫っていた。
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