六番目の眷属
「ガラムのおっちゃん! しっかりして!」
あたしは、崩れた工房の壁際で血まみれになって倒れているガラムのもとへ駆け寄った。
大怪我だが、今すぐ命の危険というと程ではなく、まずは安堵のため息をもらした。
「へへっ……人間の嬢ちゃん……。あの化け物みたいな幹部を追い払うとは、見事なもんじゃ……ゴフッ」
「喋らないで! まだ血が止まってないんだから!」
ガラムが強がるように言葉を紡ぐが、かなり苦しそうに顔を歪めた。
魔王軍の襲撃からミリィたちを守るために、無理をしたのだろう。
「アル! これ、どうすればいいの!?」
『やることは一つさ。アクアヴェーネでセレナを救った時と同じように、君の加護を直接流し込むんだ』
アルの指示に、あたしは迷わずガラムの分厚い胸板の上に両手をかざした。
ミリィを命懸けで守ってくれた恩人を、ここで死なせるわけにはいかない!
あたしの願いに呼応するように、左手のブレスレットから温かなオレンジ色の光が溢れ出した。
光はガラムの大きな体を包み込み、えぐれたような傷口が嘘のように塞がっていく。
やがて、青白かった顔色に赤みが戻り、力強い呼吸が戻ってきた。
『おめでとう、スズネ。これで彼も君の眷属だ』
(……まあ、助かったなら眷属でもなんでもいいわ!)
「ん……おお? 痛みが消えておる……!?」
ガラムが信じられないといった様子で自分の体を見つめ、むくりと起き上がった。
「ガラムおじちゃん!」
「おお、ミリィ。心配かけたのう!」
ミリィがガラムの太い腕に抱きつき、ようやく笑顔を見せた。
その後ろで、ドワーフたちも「ガラムの親方が生き返ったぞ!」「姉ちゃん、すげえ魔法だ!」と歓喜の声を上げている。
(ふぅ……。これで、とりあえず一件落着ね)
あたしは安堵の息を吐き、ガラムを工房へと運んだ。
そして、魔王のこと、眷属のこと、九英雄のこと。アルのことなどを改めて話した。
ガラムは黙ったように聞いていた。が。
「……して、嬢ちゃん事情は分かった。命を救ってもらった恩は海より深いが……これだけは言わせてもらうぞ!」
「え?何?」
感謝の言葉かと思いきや、ガラムの顔はなぜか、職人のように……いや、アイドルのプロデューサーのように厳しいものに変わっていた。
「さっきの、あの変身姿はなんじゃ!」
「……は?」
「無骨な機械の腕と脚に、防御力ゼロの腹出しスタイル! あんなアンバランスな姿は、わしの『カワイイ』の様式美から完全に逸脱しておるわ! メカニカルさを活かすなら、もっとフリルと鋼鉄の黄金比というものがあるじゃろうが!!」
(……ちょっと待って。なんであたしが、衣装のダメ出しで説教されてるのよ!?)
「はぁ!? あたしだって好きであんな格好になったわけじゃないわよ! だいたい、カワイイとかそういう問題じゃないでしょ!」
あたしが顔を真っ赤にして猛抗議していると、肩の上の毛玉——アルが、目をギラリと輝かせて前のめりになった。
『ほう? カワイイの様式美。鋼鉄とフリルの黄金比……詳しく聞かせてもらおうか』
「おお、タヌキ殿! わかっていただけるか! わしが思うに、重装甲のギャップとして露出を取り入れるなら、もう少し装甲のカラーリングをパステル調に寄せるべきでな……!」
(ちょっと! なんであんたたち、意気投合してんのよ!)
「アル様のインスピレーションと、ガラム殿の職人魂が交差しておりますわ。……ああ、次にお嬢様がどのような恥辱に塗れた聖域の姿を見せてくださるのか、胸が高鳴ります」
「スズネ様の新たなるお姿! このカイル、決して見逃しはしませぬぞ!」
「は?! あんたたち、勝手にあたしのコスチューム会議始めないでくれる?!」
命の危機から一転、なぜかあたしの尊厳がさらなる危機に晒されるという地獄絵図。
熱く語り合う一人と一匹(?)を前に、あたしは崩れ落ちそうになった。
「……まあよい!」
ひとしきりアルと語り合ったガラムは、満足そうに頷くと、ピンク色に塗装された巨大なハンマーを肩に担ぎ上げた。
「対魔鉱石の岩盤を砕いて新しい鉱床を見つけてくれた礼と、命を救ってもらった恩じゃ! わしの最高の技術で、最高の武器を作ってやろうじゃないか!」
「おお!よろしくお願いいたしますぞ!」
カイルが無駄に目を輝かせて頭を下げる。
(あんたの剣、ピンクのハートとかつけられても知らないからね……)
「それとミリィ! 嬢ちゃんたちの武器ができるまで、お主の力の制御、わしがみっちり特訓してやるから覚悟せい!」
「うんっ! ミリィ、おねえちゃんを守るために、がんばる!」
ミリィが小さな拳を握りしめ、無邪気にガッツポーズをした。
「よーし! ならばさっそく、工房を立て直して作業開始じゃあ!」
ガラムの号令が工房に響き、外からも賑やかな声が聞こえてくる。
魔王軍の襲撃と幹部との死闘を乗り越え、ドワーフの里にようやく、本来の活気と賑やかな日常が戻ってきたのだった。
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