クイーン・オブ・クイーンズ
数日後。
魔王軍の襲撃を退けたドワーフの里は、驚くほどの活気を取り戻していた。
「おお、スズネの姐御!」
「スズネ姉さん、おはようございます!」
「スズネ様、今日もいい天気でございますな」
里を歩けば、髭もじゃのドワーフたちが、キラキラとした尊敬の眼差しであたしを見ていた。
(……なんか、里の人たちのリアクションがおかしくない?)
畏怖とか崇拝じゃなくて、完全に「腕っぷしの強いヤンキーの総長」を見る目だ。
どうやら、純粋な『腕っぷしの強さ』でランクが決まるこのドワーフの里において、あのタイタニスを力比べで制したあたしは、彼らから一目置かれる存在になってしまったようだった。
「お嬢様。 拳一つで、この無骨な男たちを束ねられるとは、流石です」
「スズネ様! このカイルも、その圧倒的な武の頂に、一生ついていく所存にございます!」
(あんたたちはいつも通りね!)
「おーい、嬢ちゃんたち! 頼まれていたブツが完成したぞい!」
ガラムの工房から、彼がピンクのハンマーを片手に顔を出した。
怪我もすっかり治り、ミリィの特訓をしながら、超特急で武器を仕上げてくれたのだ。
「おお!ついに!」
あたしたちが工房に入ると、そこには見事な武器が並べられていた。
「これがミリィの特製グローブ。力の制御を補助しつつ、衝撃を逃がす特別製じゃ。そしてこっちがカイルの長剣と、リナの短剣や暗器類。嬢ちゃんがぶち破ってくれた岩盤の奥で見つけたミスリルを、ふんだんに使っておるぞ」
「わぁ、ぴったり! ありがとう、ガラムおじちゃん!」
ミリィが嬉しそうに真新しいグローブをはめて、シュッシュッとポーズをとる。
「なんと美しい剣筋……! この軽さでこの強度。素晴らしい業物です!」
「ええ。この暗器も、しっくりと手になじみますわ。……ふふ、これでまた、お嬢様に近づく害虫を効率よく処理できます」
カイルもリナも、新しい装備にご満悦の様子だ。
……あれ?
「ねえ、ガラムのおっちゃん。あたしの武器は?」
テーブルの上には、もう何もない。
「ん? 嬢ちゃんの武器? 必要なのか? 拳でなんとかなるじゃろ」
「……」
(あれ? 今気づいたけどあたしって丸腰? 拳が武器ってこと?)
『そういうことだね、スズネ。魔法少女は拳で語るものさ』
アルが肩の上で、ケタケタと笑う。
(魔法少女って何なんだっけ……)
遠い目になりながらも、とりあえず全員の戦力アップには成功した。
まあ、ひとまずはよしとしよう。
ガラムは、セレナのように里に残り、復旧にあたることになった。
いざという時のために、眷属通信のブレスレットを渡し、いつでも連絡できるようにしておいた。
「ガラムのおっちゃん、本当にありがとう。助かったわ。ラビドルの子たちも頑張ってね!」
「へっ、これくらい訳ないわい。……嬢ちゃん。次会う時までに、もっと『カワイイ』を勉強しておくことじゃな!」
「それはお断りよ!」
あたしたちはガラムと弟子のジジ、ラビドルの三人に見送られ、工房を後にした。
これで、この里での目的はすべて達成した。
「さて。次の目的地は、『エルフの森』よ!」
アルの指示によれば、次の英雄候補がいる場所だ。
ドワーフの里でのゴタゴタもこれで終わり。あとは静かに旅立つだけ……。
そう思っていた、その時だった。
「お待ちくだされ、スズネ様ぁぁぁ!!」
里長であるフォージを筆頭に、里中のドワーフたちが広場に集結し、あたしたちの行く手を塞いだ。
「え? 何? お見送りなら、そんな大げさにしなくても……」
「スズネ様! 我らドワーフ一同、スズネ様の圧倒的な腕っぷしと心意気に惚れ申した! その証として、こんなものを作ってみたのです」
フォージが合図をすると、広場の中央に置かれていた巨大な布がバサァッ!と取り払われた。
「……は?」
そこに現れたのは——。
お腹丸出しのアーマードサクラの姿で、巨大なロボアームを天に突き上げた、あたしの巨大な石像だった。
「な、なななな、何よこれぇぇぇぇ!!」
あたしの絶叫が、里中に響き渡る。
「気に入ってもらえましたかな?」
ドワーフの匠の技によって造られたあたしの石像は、まるでミロのヴィーナスのように神々しく、そこに鎮座している。
あたしは言葉をなくし、あまりに精巧な芸術に目を奪われていた。
(ちょっと、これ、直接見られるのとは違って、逆に超恥ずかしいんだけど……)
ってか、なんで胴体とかこんなリアルに再現できるのよ!
……もうすこし胸とか盛ってくれてもよくない?
「さすが、ドワーフの匠の技ですわ。お嬢様の魅力をここまで昇華させるとわ……」
リナがうっとりとした顔つきで、像を見上げた。
「スズネ様の神々しさを感じられる、実にすばらしい彫刻ですな。ぜひ一度土台になってみたいものです!」
カイルが、息を荒くしていろんな角度から像を見上げていた。
「すごーい! おねえちゃんそっくりだ! すごく可愛い!」
リナ、カイル、ミリィが、好き放題言いながら、石像の出来栄えに感動を声を漏らしていた。
(……え? ちょっと待って!? これ、ひょっとして。ずっとここに飾られるの?)
黒歴史なんてレベルじゃなくて、完全に罰ゲームじゃない!!
あたしは破壊衝動を抑えつつ、天を仰ぐ。
ガ山脈から吹き下ろす風が、あたしの頬をそっと冷やしていった。
「気に入って貰えましたかの?」
里長フォージが顎髭を触りながら満面の笑みを浮かべる。
「腕っぷしで魔王軍幹部をねじ伏せたスズネ様は、まさにキング・オブ・キングズ! いや、クイーン・オブ・クイーンズじゃ! 私に代わり。この里の長になっていただきたい!!」
ドズンッ!と、里中のドワーフたちが一斉に地面に平伏した。
「「「お願いします、スズネ様!!」」」
(えええええええええええ!?)
あたしが、この髭もじゃのおっさんたちの親分!?
「お嬢様、素晴らしいですわ。力で彼らを服従させ、君臨する。これぞ真の支配者の姿……」
「さすがスズネ様! このカイル、ドワーフたちと共に、あなた様の玉座の礎となりましょうぞ!」
「おねえちゃん、ボスだー!」
お供の連中が、またしてもあたしを崖から突き落としにかかる。
(冗談じゃないわ! このままじゃ、あたし一生ここで髭もじゃのボスとして生きていくことになっちゃう!)
「と、とんでもない! じ、辞退します。あたしは旅を急いでるので!」
あたしは早口でまくしたてると、くるっと踵を返した。
「……逃げるわよっ!!」
あたしはミリィの腕をひっつかみ、全速力で里の出口へと走り出した。
「ああっ、姐御ぉぉぉ!行かないでくだせえ!」
「スズネ様の貧相な体から繰り出される、右ストレート。もう一度見たかったべー!」
「誰が貧相な体よ! もう二度と来るかぁぁぁ!!」
あたしの悲痛な叫び声が、ドワーフの里の青空に空しく響き渡った。
こうして、腕っぷしで頂点に立ってしまったあたしは、新たな黒歴史(石像)を置き土産に、逃げるように次の目的地へと旅立つのだった。
—— 第4章 完 ——
いつもこの作品をお読みいただき、ありがとうございます。
ストック切れや確定申告の荒波に揉まれるなど、リアルでも色々とありましたが……皆様の温かい応援のおかげで、なんとか第4章を完結までこぎつけることができました!
本当にありがとうございます。
次回からは、いよいよ第5章へと突入します!
引き続き、楽しんでもらえると嬉しいです。
新作
「勇者パーティーを追放されそうになったけど、追放されなかった俺は、なんだかんだで魔王を倒す」
超ショートストーリーですが読んでいただけると嬉しいです。
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