回復の代償
魔王軍幹部タイタニス。
ふざけた格好だけど、実力は本物みたいだ。
威圧感というのだろうか、肌にビリビリと感じる魔力。
(これ、魔力切れのあたしに勝てる相手じゃないでしょ……)
額に冷たい汗が浮かぶ。
「カイル。あんた、あいつに勝てそう?」
あたしは、隣で剣を構えるカイルに小さく尋ねた。
「……分かりません。ですが、このカイル。スズネ様が勝てというなら、この命を賭けて勝って見せましょう!」
カイルはそう言って、力こぶを見せた。
『今のカイルじゃ勝てないだろうね』
「ちょっと待って! カイルがダメでガラムが負傷している今、誰があいつに勝てるっていうのよ!? あたし魔力切れよ?」
冷静に言い放つアルに、あたしは頭を抱えた。
「なんか、一瞬で魔力回復する方法とかないの? なんか、ポーションとかそういうの」
『スズネの膨大な魔力を回復するようなポーションは、この世界には存在しないよ。……ただ、回復する手段がないわけじゃない』
「え?あるの?あるならさっさと言いなさいよ!」
「でも、この方法はデメリット、というか、代償が必要なんだよ」
「……代償?」
嫌な言葉の響きに、あたしは思わず息を呑んだ。
「スズネ。君には今から、この世界とは時間の流れが違う別空間に行ってもらう。あちらの時間は、この世界よりも早く経過する。君はそこで半日から一日を過ごす。そして、魔力を回復させて帰ってくるんだ。こちらの世界ではだいたい10分ってところかな」
「10分……」
魔王軍の幹部を前にすると、あまりにも長い時間に感じる。
カイル、リナ、ミリィ。この3人で幹部相手に持ちこたえられるだろうか?
でも、やるしかない!
どのみち、魔力が空っぽの今のあたしじゃ何もできないんだから。
「で? 代償ってなんなの?」
『向こうにいた時間分だけ、こちらで過ごしたことになる。つまり、向こうで一年過ごせば、こちらでも一年歳を取るってことさ』
「……つまり?」
『こちらのスズネも、1日分年を取るってことだね』
「……は!?」
あたしは、我ながらアホな声を出した。
当たり前すぎる……。つい、体操を踊りたくなるぐらいに。
「それだけ?」
『それだけだよ』
「何が代償よ。当たり前のことじゃない!」
あたしは、無駄にもったいつけたアルに履き捨てるように言うと、即座にカイルとリナに向き直り、指示を出した。
「カイル、リナ! いい?あたしは魔力を回復させるために10分ここを離れる。だから、あの筋肉ハゲを10分だけ足止めして!」
カイルと、リナもあたしの加護で強化している。
10分位であれば、なんとか足止めくらいはできるはず……いやmしてもらわないと困る!
「スズネ様。不肖このカイル。全力で10分足止めして見せましょう!」
「お嬢様のために時間を稼ぐ。……メイドとしてこれ以上の名誉はございませんわ」
二人はいつになく真面目な顔で、あたしの目を見て頷いた。
「あと、ミリィが無理をしないように、しっかり監視しててね!」
あたしはそう言って、ミリィの頭を撫でた。
「ミリィ、あたしは10分席を外すから、リナとカイルの言うことをよく聞くのよ?」
「わかったよ、おねえちゃん」
ミリィの素直な返事に後ろ髪を引かれながら、あたしはアルに向き直った。
「アル!さっさとその別空間とやらを開きなさいよ!」
『はいはい。魔法の扉!』
アルが短く鳴くと、あたしの目の前の空間がぐにゃりと歪み、扉が現れた。
(なんか、また青い猫型のやつっぽいけど……)
あたしはあえてツッコまずに、光の中へと飛び込んだ。
◇
「……な、何ここ……」
扉を抜けると、雪国……いや、何もなかった。
上も下もわからないような、ただただ真っ白な空間。
部屋なのか、そうでないのかも分からない、
なのに、なぜか目の前にベッドが一つ。異彩を放つように存在していた。
(……とりあえず、何も考えないで寝て休めってこと?)
あたしはベッドにだいぶした。
「最近、バタバタでゆっくりできてなかったし、魔力切れで疲れてるし、とりあえずゆっくり寝るか――って、そんな簡単に寝れるわけないでしょ!!」
あたしの、ひとりノリツッコミが、真っ白な空間に響き渡った。
(音は反響するのね……)
いや、そんなことはどうでも良かった。
あたしがここで一日過ごせば、魔力は満タンになる。
でも、あっちの世界では今もカイルやリナ、ミリィが、あの筋肉ハゲ――タイタニスを相手にして10分無事でいられる保証なんてないのだから。
……。
静かすぎる空間が、不安をかき立てる。
「あーもう!心配で胃に穴が開きそうっ!」
あたしは立ち上がり、ウロウロと歩き回った。
ラジオ体操をしてみたり、無意味にスクワットしてみたりしたけど、全く気が紛れない。
(カイルが血まみれになって……、リナが庇って……、ミリィが泣き叫んで……)
最悪の想像ばかりが頭をよぎる。
早く。早く回復して!
あたしは真っ白な虚空に向かって、何度も何度も祈り続けた。
でも、気がついたらあたしはベッドで、これでもかと言うくらい、ぐっすりと眠ってしまっていた。
映画館で寝てしまって、やばい!って起きた時のような罪悪感。
意外と一日ってあっという間なのね……
(……めっちゃスッキリしてしまった)
繊細なフリをしても、疲れには勝てないってことよ。
うん、そう言うことにしておこう。
『魔力は回復したみたいだね、スズネ』
何もない空間にアルの声が響いた。
「アル!もうバッチリよ!おかげさまでぐっすり休ませてもらったわ!」
あたしがそう言うと、目の前に、音もなくあの扉が現れた。
「さあ、帰還よ! みんな、どうか無事で居て!」
全身にみなぎる魔力を感じながら、あたしは悲壮な覚悟と共に、元の世界へ繋がる扉へと飛び込んだ。
◇
悲惨な戦場。血の海に沈む仲間たち。
そんな最悪の光景を覚悟していた、あたしの視界に飛び込んできたのは、予想の遥か斜め上をいく、信じられないような光景だった。
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確定申告もあり、仕事も立て込んでいてストックが全くありません…。
お詫びと言ってはなんですが、次に連載する予定だった作品(12話分)を本日からこの3連休を使って随時upしていこうと思います。
『ラブ・オーバーフロー〜女神の祝福は魅了の呪いでした。メガネで98%封印しても、2%の漏れでヒロインが襲ってきます!〜 』という作品になります。
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