英雄候補ガラム
里長に教えられた通り、里を奥へと進む。
火山の影響で活気のない、この里で目的の建物は明らかに異彩を放っていた。
「……ねえ。 本当にここなの?」
あたしは、目の前の光景に目を疑った。
石造の工房が立ち並ぶ中、そこの入り口の看板にはファンシーな丸文字で「ガラムのカワイイ工房」と書かれている。
カワイイ工房?
……えっと。
確かここ、ドワーフの鍛冶屋だよね?
嫌な予感がして、入るのをためらっていると、中から太く低い怒鳴り声が響いてきた。
「違う! お主らはカワイイについて何もわかっとらん!」
カーン!カーン!という甲高い金属音に混じって、暑苦しい説教が聞こえる。
あたしたちは顔を見合わせ、恐る恐る工房の扉を開けた。
熱気がこもる工房の中央。
赤々と燃える炉の前に立っていたのは、見事な筋肉の鎧を纏った、丸太のように太い腕を持つドワーフの男だった。
立派な髭を蓄え、額に汗を光らせてハンマーを振るう姿は、まさに腕利きの職人。
――ただ、決定的に、いや。絶望的に、頭がおかしかった。
その豊かな髪は、なぜか左右二箇所でキッチリと分けられ、それぞれピンク色の小さなリボンでまとめられている。
あごひげは三つに編み込まれ、鮮やかなピンク色に塗装されたハンマーを振るう動きに合わせて、ぷらぷらと左右に揺れていた。
(……これが、英雄候補? 完全に変人じゃない!!)
あたしの中の「豪快で頼れるドワーフのおっちゃん」像が、ガラガラと音を立てて砕け散っていく。
「ええー! でもガラム先生ぇ、衣装とか、リボンとフリルが多すぎる気がしますぅ〜!」
「そうだよぉ! 私たち、もっとシンプルな可愛さがいいんです!」
ツインテール髭ドワーフの前には、先客がいた。
派手な装飾の鎧やローブを着た、いかにもアイドルといった風貌の、可愛らしい人間の女の子三人組だ。
「分かっとらんの! アイドルのカワイイとは様式美なのじゃ! 短い丈! メンバーカラー! そして絶対領域! お主らの好みなど聞いておらん。 ファンが見たいのは『完成された虚構』としてのカワイイなんじゃ! 恥じらいを捨て、笑顔でどんな衣装でも着こなしてみせる……それこそがプロのアイドル冒険者じゃろうが!」
「「「えええ〜……」」」
女の子たちが、心底嫌そうに文句を言っている。
(……なんか、すっごいカオスな空間にお邪魔しちゃった気がする)
あたしが入り口で固まっていると、後ろからリナが涼しい声で解説を始めた。
「お嬢様。 あの方々は、王都を中心に活動するAランク冒険者パーティ、迷宮乙女、通称ラビドルの皆様ですわね」
「え、Aランク!? あんな若い女の子たちが?」
「ええ。 ですが、実力はCランクにも満たない程度。熱狂的なファンたちからの過剰な支援と、ギルドへの多額の寄付によってAランクに押し上げられた……ある意味で、冒険者業界の闇を体現したようなアイドルグループですわ」
リナの容赦ない辛口解説に、あたしは思わず苦笑いした。
なるほど、冒険者アイドル。
実力不足を補うために、あるいはもっと人気を出すために、腕利きの職人であるガラムに、装備を頼みに来ているわけか。
「ん? なんじゃお前さんたちは。見ない顔じゃな」
ガラムが、ピンクのハンマーを肩に担いでこちらを振り返った。
同時に、ラビドルの三人もこちらに気づく。
「あ、ほんとだ。可愛い子! ねえねえ、もしかして君もガラム先生にプロデュースしてもらいに来たの?新しいアイドル志望?」
リーダー格らしい、水色基調の衣装に身を包んだショートカットの女の子があたしに駆け寄ってきた。
「あ、いえ! あたしたちはただの旅人で……武器の強化と、他にも、まあ色々と……」
あたしが慌てて否定すると、女の子たちは「なんだぁ」と少し安堵したような、親しげな笑顔を見せた。
「私はリーダーのリノ! こっちはコトミと、ナナよ。私たち、ガラム先生にずっとプロデュースしてもらってて、今度の王都のイベントに向けて、特注の映える装備を作ってもらってるんだけど……」
リノが、ガラムが作った衣装を指差す。
現代のアイドルグループが着てそうなブレザー風の衣装や、メンバーごとのカラーのものなど、まさにアイドルらしい衣装が並んでいる。
いやいや、待て待て。
なんで髭面のドワーフが、アイドル冒険者をプロデュースしてるのよ。
カワイイ工房ってこう言うこと?
「私たちそれぞれ、水色、赤、ライトグリーンって担当カラーを決められちゃってるの! ほんとは、もっと好きな色を着たいのに!」
(……わかる。 その、本人の意志を無視して理不尽な設定を押し付けられる感じ、すっごくわかるわ……!)
あたしは、毎度毎度アルに恥ずかしい変身を強制され、羞恥心と戦っている自分の境遇と重ね合わせ、深く、深く頷いた。
「大変よね……。 理不尽なコスチュームを着るのって、本当に疲れるっていうか……」
「そう! そうなのよ! わかってくれる!?」
あたしが心からの同情を寄せると、ラビドルたちは「この子、めっちゃいい子!」とばかりにあたしの手を握り、あっという間に意気投合してしまった。
「おいおい、そこの小娘。 わしのカワイイ理論にケチをつける気か?」
ガラムが、三つ編みの髭を揺らしながら、ずんっと前に出てきた。
「お前さんたちは何の用じゃ? わしは今、この『迷宮乙女のプロデュースで忙しいんじゃが」
謎のアイドルプロデューサードワーフ、ガラム。
ここに来てから色々と情報が多すぎて、何から伝えるべきか、あたしは頭を抱えたくなった。
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