ようこそドワーフの里へ
武器やハンマーを構えたドワーフのむさ苦しい男たちが、唖然とした顔でこちらを取り囲むなか、スワンボートの背中のハッチがプシューッと開き、あたしたちは恐る恐る外へ出た。
「あ、あの……! 怪しい者じゃありません! ただの旅人で……ちょっと着地に失敗しただけで……!」
あたしが必死に愛想笑いを浮かべて弁明すると、ドワーフたちは一瞬キョトンとし、やがて警戒を解いて武器を下ろした。
「なんだ、人間の嬢ちゃんか。 それに、女と男……と、フェネックのガキ?」
「空から降ってきたから、てっきり敵かと思ったべ」
どうやら、すぐに敵対されるような雰囲気ではないらしい。
あたしはホッと胸を撫で下ろした。
……けれど。
(なんか、活気がないわね……?)
伝説の職人たちが集まるドワーフの里。
さぞかし、あちこちで「カーン!カーン!」と威勢のいい鍛冶の音が響き渡り、活気に満ち溢れている……と、勝手に想像していたのだけれど。
見渡す限り、ドワーフの男たちはどこかどんよりと肩を落とし、ため息をつきながら歩いている。
鍛冶場らしき建物の煙突からも、弱々しい煙しか上がっていない。
「何事じゃ、この騒ぎは」
群衆を掻き分けて現れたのは、ひときわ立派な白い髭を蓄えた、恰幅の良いドワーフのお爺さんだった。
「里長!」
「空から人間の旅人が降ってきたんでさぁ」
(長! やっぱりファンタジーの村といえば、最初は村長よね!)
「ワシはこのガルガン・ガ・ガルダン山脈のドワーフの里を束ねる長、フォージじゃ。 して、人間たちが我が里に何の用じゃ?」
「はい! 実は、人探しと、仲間の武器の強化と、この子の力の制御を教えてほしくて来たんです」
あたしは、カイルとミリィを前に出して事情を説明した。
すると、フォージは深々とため息をつき、自慢の白い髭を撫でた。
「ふむ……。 遠路はるばる来たところ悪いが、武器の強化は無理じゃな」
「えっ? どうしてですか?ドワーフの里なのに?」
「今のこの里には、ロクな鉱石が残っておらんのじゃ。 というより、採れんようになってしもうてな……」
フォージの話によると、こういうことらしい。
「つい先日、南の方にある火山が突然、大噴火を起こしてな。 その影響で起きた大地震のせいで、里の命綱である鉱山の一部が崩落してしもうたんじゃ」
「……へっ?」
「その崩落で、採掘ルートのど真ん中に巨大な岩盤が落ちてきてな。 完全に道が塞がれてしもうたんじゃよ。 あれをどかさない限り、新しい鉱石は採れん。まさに里の死活問題じゃ」
…………。
……ちょっと待って。
南の火山が、突然大噴火?
つい先日?
(それって……)
アクアヴェーネの地下で、暴走する火脈を物理的に凍らせて蓋をした結果、行き場を失ったマグマが周囲の山々から一気に噴火した、あの大惨事。
あれが、こんな遠く離れたドワーフの里にまで甚大な被害を及ぼしていたなんて!
「お嬢様、顔色が真っ青ですわ。 お加減でも?」
リナが、すべて分かっているくせに、ワザとらしく小首を傾げて聞いてくる。
「な、なんでもないわ! そ、それで、その岩盤を壊せばいいんですよね? ドワーフの皆さんの力なら、岩の一つや二つ……」
「それが、ただの岩ではないんじゃ」
フォージは顔をしかめ、忌々しそうに吐き捨てた。
「落ちてきた岩盤は、対魔鉱石の塊で魔法を弾く厄介な代物じゃ。 かなりの硬度で通常のツルハシはもちろんのこと、ワシらが得意とする、魔法付与されたツルハシも一切通用せんのじゃよ」
「対魔鉱石……魔法が効かないってことですか?」
「左様。 あれを砕くには、魔法の力に頼らない、純粋かつ圧倒的な物理的破壊力が必要なんじゃが……そんな力を持つ者など、この里にはおらん」
フォージががっくりと肩を落とす。
「どうじゃ、事情は分かったじゃろ? 武器なら作ってやってもいいが、鉱山が今の状態ならどのみち作れんのじゃ」
(なんてこと……! 完全にあたしのせいじゃない!)
「ただ、そのチビっ子の力の制御なら、心当たりがないわけでもない」
「本当ですか!?」
「うむ。 ワシの知り合いにガラムというヤツがおってな。腕は確かじゃ。 あと数年もすれば、ワシより強くなるじゃろうが、まだまだワシの方が上じゃ!」
フォージはそこだけは譲れないとばかりに、フンッと鼻を鳴らした。
(おっ! ガラム! アルが言ってた、九英雄の一人のドワーフね!)
『ビンゴだね、スズネ。 まずはそのガラムって人に会いに行こうか』
アルが肩の上でニヤリと笑う。
「ただ、あいつはちょっと……いや、かなり変わっておるからな。 まあ、会ってみれば分かるじゃろう」
フォージがどこか遠い目をして呟いた言葉の意味を、この時のあたしはまだ理解していなかった。
ドワーフの戦士ガラム。
豪快で頼れる常識人のおっちゃん(というあたしの勝手な妄想)という思い込みは、この直後、跡形もなく砕け散ることになるのだ。




