表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

File.5:琥珀色之誓


ー西暦2030年11月16日午前3時28分・千葉県■■■市■■町 千葉県立■■■■高校ー


side.桜乃 薫(警察官・怪異対策部第一課特捜班”旭”)

 羽川警部と別れてから大体3分程。背中の上に乗り直した彼女に導かれて、またあの階段を下っていた。

「…あ、の。倒れてた、人たち……大丈夫、でしたか…?」

「えぇ。発見が速かったですし、命に別状が出るレベルで霊力を吸われていなかったのが幸いでした」

「……そう、ですか」

 静かな洞窟の階段の上、足音だけが響いていたが、彼女の声が小さく響く。返答こそしたが、彼女の声はどことなく…元気がなく、細々とした声だった。

 …多分、転がっていた人間や動物の遺骨と、霊力を吸い付くされて死んだ怪異の残骸のような遺灰が気になっているのだろう。ほぼ身体の操縦権を奪われていた状態とは言え、人間や動物、怪異を殺していた…というのは、少なからず心にクルだろう。

「……あの、私…この後、どうなるん…でしょうか?」

「そうですね…基本的に、千葉県警の怪異対策部境界課神域保護係…警察の、神域保護を専門とする刑事が保護を行います。神域も、土地神様自身も」

「…それは、人や…怪異を、殺して…暴れまわった、元カミでも…ですか?」

「……」

 正直、確約できないと言うのが正しい。

 あれだけ殺人や怪異を殺し回った元神は、基本的には荒御魂と認定され、被害拡大前に討滅されるのが通例…ではある。

 しかし、彼女は既に暴れまわる理由もなければ、暴れまわっていた原因を僕が取り除いた以上、安全ではあるはずだが…その証拠は砕け散って消えた上に、客観的に彼女がまた暴れ回らないという確証がないのも事実。まぁ、捜査の録音記録があるから、あのパーカー男の言葉が録音できていれば問題ないだろう。

 とはいえ、警察がもしもをとった、最悪の場合は、恐らく……

「…やはり、ですか。私、は…」

「大丈夫です。僕がなんとかしてみます」

「ぇ…?」

 やらかした。悩む前に、言葉が出ていた。いつかの時と同じで、考える前に動いてしまっていた。

 何も方法は考えていないし、実際今の境界課がどう動くかもわからないのに。いつかの京都で聞いたような、不安そうな声を聞いたら、ついその言葉が出ていた。

「……はぁ〜…薫、やはりお主は変わらぬな。考えなしに突っ走ろうとするあたりとかの」

「そうですねぇ〜、姫様。まぁ、大丈夫だよ、薫!うちの時みたいになんとかなるって!」

「ふふっ…そうだね、ありがとう。大丈夫です、土地神様。一緒になんとかしましょう」

 だが、むしろ僕の不安を一瞬で見透かしたのか、瑠璃と紅葉が明るくそう言ってくれる。

 …まだまだ、やっぱり未熟だな。僕は。

 その考えが一瞬頭によぎるが、それ以上に胸が暖かくなる。少しすると…首筋に、少し冷たい水が落ちてくるような感覚がする。

「…うぐっ、ひぐっ……ありがとう、ございます……」

「…大丈夫です。それなりに境界課にも捜査一課にも顔が利きますので。なんとかします」

 嗚咽を噛み殺したような声で呟いた彼女に、できるだけ優しい、温かい口調になるようにそう返す。

 すると静かに、フードに頭を埋める感覚がパーカー越しに伝わってくる。

 それからは、誰もひと言も発さずに、ほんとに耳を澄まさないと聞こえないような、小さな嗚咽だけが階段に響いていた。

 しばらくすると、またあの祠が見える所まで降りてきていた。さっき救助のためにあちこちにライトを置いたので、ここは明るいままだ。

「…着きました。なにから、話しましょうか」

「ぐすっ……え、と…」

 僕が祠の少し前くらいで立ち止まって声をかけると、彼女は目元を拭って背中から降りて、祠のほうへと歩いていく。

 そして、ゆっくり祠の扉を開けると、中に置かれていた、恐らく彼女の神体…琥珀の宝石…だろう物を慎重に持ってこちらに戻ってくる。

「……お主の神体か?」

「はい……そう、です」

「…多分だけど、若干穢れてる、それ…?」

 瑠璃と紅葉がそれぞれ聞くが、紅葉の問いに、自分の神体を見下ろしながら小さく頷く。

 紅葉に言われて彼女の神体をよく見ると、所々半透明な琥珀の宝石が墨を混ぜたように濁っているのが見えた。

「……これ、あんまり…よく、ない、ですよね…」

「…そう、ですね。瑠璃、どうにかできる?」

 神体が穢れているのは、まぁ当然良くはない。彼女を暴走させていたあの首飾がどういう仕組みなのかわからないから断言できないが…恐らく原因はアレだろう。

 だが、基本的に神体まで穢れるのは荒御魂となって堕ちた時くらい…彼女が警察に"処分"される可能性が上がってしまうため、どうにかするしかない。

「まぁ、やるだけやってみようぞ。お主、良いのじゃな?」

「…おねがい、します」

「うむ、引き受けよう。じゃが、あまり期待するでないぞ。神体のお清めなぞは初めてじゃでな…"伊吹に流れし流雪水、穢を雪げ清めよ"」

 瑠璃と土地神様が話すと、瑠璃が祝詞を上げ、彼女の周りに幾らかの透明な水滴が浮かぶ。そして、文字通り穢れを流す清水が土地神様の持つ琥珀の宝石に近づいていく。

「…さて、神体まで浄化できるのかの…まぁ、とりあえずお主はソレを取り落とさぬようにの」

「あの、それって、どういう…ひゃぅっ!?」

「あぁ〜…そうなるよね〜…」

 瑠璃が静かに、淡々と言うと、土地神様が不思議そうな声をあげる。

 だが、瑠璃の清水がすり抜けるように宝石に入り込み、穢れの黒を絡み取り始めた瞬間、土地神様の肩が跳ねて、聞いたことない甲高い声があがる一方で、紅葉が訳知り顔で頷く。

 えぇと、どういうこと…?

「えぇと、紅葉。あれってどういう…?」

「ん?あ、薫は知らないか。なんか神体を触られると変な感じがするんだよねぇー。うちらの…本体だから、かも?感覚が共有されてるの…かも」

「なるほど…?」

 紅葉と話しながら少し待っていたが、しばらくすると瑠璃がこちらを振り返る。

 …終わったのかな?

「…多分、これで大丈夫じゃろ。どうじゃ?」

「はぁはぁ…え、えと……わぁ!」

「おぉ!流石だね、瑠璃」

「わぁぁ…綺麗ですね〜」

 瑠璃にそう言われて、土地神様の神体を見ると、琥珀色を濁らせていた墨のような黒色は溶け消え、文字通り光を反射して輝いていた。

 それを見て土地神様が心から嬉しそうな声をあげ、紅葉が感動したような声で呟く。

「あ、ありがとう、ございます!」

「うむ。この程度のこと、気にするでない」

 土地神様はしばらくの間、感動したように神体を光に透かしてはその輝きを見ていた。

「……なんで、でしょう。初めて…見たはず、なんですけど…見たことが、あるような…気がします」

「…そうですか」

 そのセリフを聞いて、改めて…土地神様の記憶がないだろうことを認識させられる。神体を見たことがない、ということはありえないだろう。

 しばらくの間、嬉しそうな、しかしどこか悲しげになった表情のまま琥珀の宝石を見つめていた彼女だったが、神体を抱え直してこちらに向き直る。

「……え、と。その…」

「ゆっくりで大丈夫ですよ。時間はありますから」

 それから口をぱくぱくさせながら、言葉を探しながら探しきれなかったような動きをして、少しずつ焦ったような表情になるが、声をかけると少し安心したように落ち着いてくれる。

 それからまたしばらく待ってから、言葉が組み立て終わったのか、ゆっくりとまた口を開いてくれる。

「…その。私の、名前……」

 そして、ある程度予想こそしていたが、彼女から聞こえた声はやはり例の件であった。

 名前、かぁ……

「その、土地神様。さっきも言ったのですが、人間の僕が名前を付ける、というのは…」

「さっき、貴方が、言ってくれた、こと…考えました。よく…わかんなかった、ですけど……私、できることは…ない、と思います」

「……」

 僕の言葉にそう返す彼女の、ぽつりぽつりとゆっくり出てくるセリフを聞いて、思わず次に繋げようとしていた言葉が途切れる。

「…私は……龍神様や、お狐様みたいに…戦えない、です。なので…貴方を、守れない…でも、名付けられるなら、貴方が、いい…です」

「…そう、ですか……」

「はい…なので、貴方さえ、よければ……」

 瑠璃と紅葉を見つつ話す彼女が、どこか縋るような視線で僕を見てくる。

 …実際、どうするのが良いのだろうか。

 今まで瑠璃と紅葉に名前を付けた時は、ソレの意味なんて分かっていなかったし、ニックネームを付けるようなイメージだったが…今回ばかりは、下手なことは…

「…薫、そう悩まずともよかろう?」

「そうですね〜。ま、ちょっと複雑ですけど…ね、薫。この子を護るのは、うちと姫様もできるから…さ?」

「それは、そうなんだけど…」

 確かに、互いを護るという契約…という面だけ見ればそれで良いのだが、彼女を今後長くて80年程の人生…いや、神生か…?まぁ、それだけの長い時間を拘束することになるのだから、気軽に決めていいことでは…

「お主なぁ…今更じゃろ。座敷童やらの妖怪に…狐や狼やらの神使を拾ったのも一度や二度ではなかろうて。土地神一柱程度は受け入れてもよかろう?」

「い、いやいや…名付けるレベルだと心理的なハードルが…」

 瑠璃の言う通り、各地での事件後に拾ってきた子達は確かに多いのだが…あの子達はあくまで保護であって、名付けをもった約束までした子はそんなにいないからそれとこれとは違う気がするのだが…

 そんなことを悩んでいる内に、目の前の彼女が少し困ったような表情をしているのが目に入る。

「…やっぱり、ダメ…ですかね…」

「うっ……」

「ほらぁ、薫。どうせこの後、色々どうにかしないといけないんだから、いいんじゃない?」

 どこか泣きそうな声で呟いた土地神様の声と、紅葉がどこか責めてくるような声で言ったのが聞こえて、決心する。

「わかりました……この後のこと、それから…僕の命が続く限りの間、貴女を護りましょう」

「…!本当、ですか…!」

「当然じゃ、薫は嘘は吐かぬ。じゃが、お主も薫を支えるようにするのじゃぞ」

「そうですね〜、戦えなくてもいいから、ホントになんでもいいから、薫のためになることをしてあげてね?」

「は、はい…!」

「瑠璃、紅葉…いいから。土地神様、あまり気になさらないでくださいね」

 僕のセリフに、土地神様が文字通り目を輝かせながら、嬉しそうに頷いてくれる。嬉しいが…少し恥ずかしいな。

 そんなことを思っているうちに、瑠璃と紅葉がそれぞれ呟いて、土地神様がまた全力で頷いてくれる。ちょっと土地神様に何かをさせるのは申し訳ないぞ。

「……え、と。私…なんて、名前に…なります?」

「え、あぁ…そう、ですね…」

 あ、しまった。そっちを考えていなかった。

 どこか期待したような目でこっちを見あげられても困るんだが…

 でも、実際どうしたものか。瑠璃と紅葉の時は…

 そう思いつつ2人の方を見ると、瑠璃の黒髪に混じる鮮やかな青色と、紅葉が髪留めにしている椛のピンが目に入る。

 うん、思ったより安直にしか考えていないらしい。とは言っても、なにか捻って付けるのも、失礼な気は…

「……?」

 そんなことを考えつつ、土地神様を見ると、小首を傾げながらこちらを見てくる。

 そんな彼女の、神体と同じ綺麗な琥珀色の瞳と、オレンジ色が混じった髪が目に入ってくる。

 …まぁ、そこまで難しく考えていても、多分これ以上に彼女を表す、いい名前は浮かばないだろうな。

「……"琥珀(コハク)"。神体の宝石の名前、そのままではありますが…よろしいでしょうか」

「こは、く……」

「……え、えぇと、すみません、別の名前のほうが…」

 僕の言葉に、一言ポツリと呟いて土地神様が黙り込んでしまう。

 だが、僕が代替案をあげようとすると、彼女は首を横に振る。

「いえ、琥珀(こはく)…私、すごく…好き、です」

「そうですか…良かったです」

「はい……琥珀…こはく…えへへ…」

 どこか嬉しそうに名前を繰り返す土地神様…いや、琥珀様に、瑠璃も紅葉も自然に笑みを浮かべる。

 なんだか、ようやくこの事件が終わったような気がした。…まぁ、あの黒フードの男に、怪しい首飾り…まだまだ調べなきゃいけないことは多そうだが。

「…あの、えと…」

「…?どうか、されましたか?」

「その…私、貴方と、龍神様、お狐様…なんと、お呼びすれば、よいでしょうか…?」

 そういえば、琥珀様にはちゃんと名乗っていなかったっけか。

「僕は桜乃薫といいます。一応…近江伊吹神社の神職、桜乃家の現当主でもあります。僕のことは…好きに呼んでくだされば構いません」

「ふむ、確かに名乗っておらなんだか。妾は瑠璃、薫よりこの名を受けた。神名は伊吹瑞源主姫、近江琵琶水系の水龍神の一柱じゃ。近江伊吹神社の主祭神でもあるの」

「うちは紅葉(くれは)!京の都の北、丹後舞鶴の天狐だよ!うちも薫から名前貰ったんだ!一応、紅葉狐姫って神名はあるけど、名前で呼んでくれたほうが嬉しいかなぁ」

「えぇと、では…薫さん、瑠璃様、紅葉様と…お呼びすれば…よい、でしょうか…?」

 僕たち1人1人の名乗りを聞いたあとに、琥珀様がどことなく恐る恐るといった様子であったが確認してくる。

 …多分、瑠璃も紅葉も霊格が高い方だから少し萎縮してるのかもなぁ…

 とはいえ、瑠璃も紅葉も格式を気にするようなタイプでもないためなんともないように頷く。ただ…

「えぇ、大丈夫です…けど、僕のことは呼び捨てで大丈夫ですよ?」

「えと、いや、でも……」

「まぁまぁ、薫。慣れるまではそれでいいんじゃない?」

「そういえば、妾がもう慣れてしもうたが、紅葉が妾を"姫様"と呼ぶのも治らなかったの。瑠璃と呼ぶように言うたはずじゃが…」

「うぐっ…な、なんか癖になっちゃったんですよぉ…仕方ないじゃないですかぁ…」

「ふ、ふふふっ……」

 僕の言葉に、琥珀様が困惑したように声をあげる。

 少しどうするか迷ったが、その内に紅葉がこちらを見ながら話し、それを聞いた瑠璃がジトッとした目で紅葉を見ながらボヤくように呟く。

 それを聞いた紅葉が珍しく、困ったような、弱ったような声を出すと、そんなやりとりが面白かったのか、琥珀様が着物の袖で口元を抑えつつ笑うと、瑠璃と紅葉も安心したような笑みを浮かべる。

 …やっぱり、2人はわかっててやったらしい。

「…まぁ、そうですね。呼び方は…まぁ置いておきましょう。琥珀様、これからよろしくお願いします」

「えぇ、薫さん…よろしく、お願い、します……でも、私に、様は…つけなく、ても…」

「え…いや、それこそ、そういうわけにも…」

「はぁ……お主らな…」

「もうっ、なーんでどっちもそうなるのさ!?」

 僕と琥珀様のやり取りに、瑠璃が呆れたようにため息をつき、紅葉がいつも通りながら元気に、しかし彼女も呆れたように、そう叫ぶように言う。

 とはいえ、神様を呼び捨てで呼ぶわけにもいかないし…いや、それで言ったら瑠璃と紅葉もか。

「…まぁ、時間はこれからたくさんありますから、またゆっくり考えましょうか」

「それもそうじゃの…とりあえず、薫。どう動くつもりなのじゃ。相手は江戸ではなく房総の警察じゃろう?普段通りというわけにもいくまい」

「とりあえず、服は変えなきゃじゃない?こんな真っ黒なの着てたら勘違いされちゃうよ?」

 瑠璃と紅葉の言葉に、少し悩むが……腕のスマートウォッチを袖をまくって時間を確認する。

 ついでに、さっき焼けたというか、喰われかけた傷が目に入るが、大きな傷でもないので見なかったことにして無視する。侵食が止まったからか、刺激しなければ痛まないしね。

「……大体、4時前か。琥珀様の服は、瑠璃と紅葉のを作ってくれた錦織さんのお店になんとかしてもらうとして…」

「あ、の……その、腕…」

「あぁ〜…いや、これぐらいなら大丈夫ですよ」

「でも……」

 時間を見てここからの予定を頭の中で組み上げていくが、琥珀様が申し訳なさそうに呟くのが聞こえて、少し困る。

 これ、流石に誤魔化しきれないよなぁ…しばらく傷が徐々に広がってたせいで隠しきれないし…うぅん、でも琥珀様の責任というわけでもないからなぁ…

「琥珀、お主は気にせぬでよい。故意にやったわけでもなかろう」

「いや、でも……」

「そーだよ。少しのケガぐらいだったら薫、気にしないから!…ね、薫、うちの時とかは、もっと…」

「ストップ!紅葉、大丈夫だから。琥珀様も、お気になさらないでください。この程度から病院に行けばすぐ治りますから」

 紅葉があんまり良くないことを口走りかけたのと、少し表情が暗くなっていくのに気づいて、少し強引にだけど紅葉の言葉を途切れさせる。

 そのせいもあるのか、少し語気が強くなってしまったかもしれない。ちょっと驚いたような感じで琥珀様が1つ遠慮がちに頷く。

 …やば、気まずっ。

「えぇと…とりあえず県警に報告に行く前に、その邪気を吸った服はどうにかしましょう。東京の方に仕立て屋の知り合いが居ますので、そこに行きましょう」

「は、はい…!」

「報告はせぬで良いのか?」

「昼ぐらいに来るように言われたから、どうせだったら、できるだけ目いっぱい引き伸ばさせて貰おうかと思ってね。錦織さんとこにいくついでに、巌嶽警視正にも報告しとこうかと思って」

「なるほどの」

 それから少しだけまた考えたが、大体こんなものでいいか、と思い直して一人頷く。

「よし…そしたら、県警から借りてる覆面で動こう。大体、錦織さんのとこまでだったら…この時間なら1時間半くらいでいけるはずだし…」

「じゃが、錦織の着物はいつも特注じゃろ?琥珀に合うのがあるのかの」

「うぅん…」

 瑠璃にそう言われて少し悩みつつ、2人の服を見る。

 瑠璃も紅葉も、どちらも巫女装束をベースにはしている…のだが、瑠璃は少し動きやすいように袴にいくらか切れ込みを入れたりしつつも、あまりデザインが大きくは和装からずれないようにしている。一方紅葉は思いっきり動きやすいようにカジュアルな感じに、袴もミニスカートっぽいものにしている。

 まぁ、そんな風に錦織さんは基本怪異向けの特注品しか作らないから、琥珀様を連れて行ってすぐどうにかなるかはわからないんだよなぁ…とはいえ、行かないと始まらないわけで…

「……まぁ、とりあえず行ってみなきゃわかんないし、行くだけ行ってみよう」

「ふっ…まぁ、それもそうじゃな。ほれ紅葉、お主いつまで落ち込んでおる。いい加減気を直さぬか」

「うぅ…はい。すみません…」

「すみません、琥珀様。多分ここから離れるのも大変だと思うのですが…お付き合い願えますか?」

「は、はい!大丈夫、です!」

 瑠璃が紅葉を引っ張りつつ、言葉で背中を押し、僕は琥珀様に声をかけて一緒に階段の方へと歩き出す。

 気付けば、瑠璃と紅葉、そして琥珀様、皆が僕の横に立って階段を登りだす。目の前には、電気の光だろうけど…仄かに明るく光る階段の先があった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ