↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の寵児は祈りを捧げる~無垢な王女とコーヒー好きの王子/祈っていればいいだけの人生です~  作者: みつまめ つぼみ
第2章:怒竜の咆哮

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/49

29.おじさまの臨時教室2

 ――朝の神殿。


 私たちは今日が祝日という事もあり、あのまま神殿に宿泊した。

 赤竜おじさまも含めて賑やかな朝食のテーブルを囲んでいる。


 赤竜おじさまは人間の食事を取らないけど、ワインを嗜むのが好きらしい。

 今朝もワイングラスを片手に歓談に加わっていた。


「一晩ですっかりゲルダの魔力も回復したね! さすが太い霊脈の上にある神殿だ」


 私はきょとんとして小首を傾げる。


「魔力の回復と霊脈の太さって関係あるの?」


 赤竜おじさまがニヤリと笑って応える。


「私が神殿に居る理由でもあるが、霊脈の中は様々な魔力が流れているんだ。その魔力を竜種である私は食べているんだよ。竜の寵児たちも、そうやって魔力を回復することが出来るんだ」


 ……なるほど。ここは竜種に取って、美味しいご飯が出てくる場所なのか。

 赤竜おじさまくらい強い竜種だと、神殿くらい太い霊脈じゃないとご飯が足りないということかな?


 ん? もしかして創竜神様も、私たち巫女の祈りにこめた魔力をごはんとして食べていたりするのかな?


「ははは! さすがに、巫女の祈りは悪魔を弱らせることに使う。食事として食べる事はしないさ。一般の信徒が捧げる祈りが創竜神様の食事となる」


 区別がつく、ということかな?

 創竜神様への祈りが創竜神様の食事なら、悪魔崇拝者の祈りは悪魔の食事なのかなぁ?


「そうだね、霊脈には奴らの祈りも流れてくる。それを悪魔は食べている。だが巫女の祈りは一人でも一般の信徒の百人分に匹敵する祈りがある。寵児ならさらに強い力を持つ。結果として、悪魔は次第に弱体化していくことになる」


 ナディアが、私の心の声と赤竜おじさまの会話を遮り、口を挟んだ。


「――失礼いたします。レッド公爵、なぜ今、殿下に火竜の息吹の指南をされたのですか? まさか奴らの動きの気配を察知されたのでしょうか」


 赤竜おじさまはにこやかに応える。


「太い霊脈の上に居れば、悪魔崇拝者が活発に動けばわかるからね。そろそろ奴らが動き出す気配があるのは確かだ。注意しておくといい」


 ナディアは静かに頷いた。


 ――そっか、そろそろ逃した悪魔崇拝者が動き出すのか。

 私たちも、注意しておかないとな。

 前回、クリスさんは悪魔に操られつつも誰かを殺めることなく終わることが出来た。それが極刑を免れた理由の一つだとも聞いた。

 クリスさんはみんなの力を借りて救えたけど、次も救えるとは限らないし。


 俯いて考え込んでいた私の手のひらを、フィルが優しく包み込んだ。


「大丈夫ですよゲルダさん。僕らが付いています」


 私はフィルの手のひらの上に、もう片方の手を乗せる。

 その青空のような瞳を見つめて微笑む。


「……そうだね! なんとかなるよね!」


「おーおー、朝から見せつけてくれるねー!」


 声に振り向くと、そこにはフレドとクラインさんの姿。


「あれ? フレド? どうして朝からここに? それになんでクラインさんも?」


 クラインさんが目を輝かせながら私に教えてくれる。


「白竜信仰クラブ会長として毎週末、赤竜様から直接様々なお話を伺っております!」

「俺はお前らが昨日クラブを休んだから、多分そのまま神殿に泊ったろうと当たりを付けて付いてきただけだ」


 なるほど、クラインさんったら赤竜おじさまとそんな事をしていたのか。

 私は礼拝が終わると、すぐに王宮に戻っていたから気付かなかったな。


 赤竜おじさまは楽しそうに笑っている。


「はっはっは! クライン、今日は君の相手をしている余裕はあまりないと思うよ。せっかくフレドが来たんだから、今日はフレドも含めてもう一つ、ゲルダに術式を教えておいてあげよう」


 私は小首を傾げて赤竜おじさまに尋ねる。


「もう一つ? どういうこと? 護身術はもう充分教わったし、切り札も教わってるよ?」


「切り札だけでは、戦いの幅が少ないからね――ナディア。それとティナとアーネは刃物も使えるね? 彼女たちも参加させよう」





****


 内庭に私たちが姿を現すと、休憩していた神官たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていった――まぁ、昨晩大暴れしちゃったからね……気持ちはわかるよ。



 赤竜おじさまを前に全員が集合して並んでいる――クラインさんは壁際で見学だ。

 ナディアとティナとアーネは、普段は携帯していない短剣を腰に帯びているみたい。


 赤竜おじさまが説明を始める。


「今日ゲルダに教えるのは≪火竜の加護≫だ。他人に火竜の加護を与えることが出来る術式だよ」


 私は小首を傾げる。


「それって創竜神様の加護とは別物なの?」


「同種の力だが、火竜の場合は少し違う。拳や刃に浄化の炎を乗せることが出来る術式だ。≪火竜の息吹≫程の決定力はないが、消耗が少なく維持がし易い。これは心の相性も関係ないから、使いやすいはずだよ。みんなに耐火結界の術式を張るから、炎が乗った状態で対戦してご覧。ナディアの相手は私が勤めよう」


 私は術式を赤竜おじさまに教わった後、赤竜おじさま以外のみんなに二つの加護を付与していく――思ったよりきついなぁ。これじゃあ三時間くらいで魔力が尽きちゃいそう。


 赤竜おじさまが声を上げる。


「さぁ、それぞれ対戦を始めよう!」


 赤竜おじさまとナディア、ティナとアーネ、そしてフィルとフレドがそれぞれ対戦を始める。フィルとフレド以外は短剣を手にしていた。

 私自身にも加護を付与する事で、みんなの動きを眺めて行く。

 みんなが繰り出す刃物や拳に、赤い炎が見える。

 常に燃えてるわけじゃなく、拳を打ち出したり、刃物を振るった時にだけ燃えてるみたい。


 赤竜おじさまがナディアの相手をしながら声を上げる。


「この術式は込められた気持ち――闘気や殺気に反応して浄化の炎を発生させるものだ! そのつもりで扱いに慣れておきなさい!」


 見ていると、ナディアやティナ、アーネはすぐに対応して炎を自在に操っているみたいだった。

 フィルとフレドは、炎を生み出すのに苦労してるみたい。


 赤竜おじさまがまた声を張り上げる。


「フィル! フレド! その戦いに勝った方がゲルダを手に入れる、そのつもりで戦ってみなさい! もちろん実際に手に入れても構わないよ!」


 私は慌てて声を張り上げる。


「赤竜おじさま?! 何を言ってるの?!」


 フレドがニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「――だってよ。偉い竜のおっさんのお墨付きだ。これで勝った方がゲルダを手に入れるってことでいいな?」


 仏頂面のフィルがフレドを睨み付けた。


「……勝てるものなら勝ってみるがいい」


 その瞬間から、二人の拳や蹴りに炎が乗り始めた。

 寸止めもせずに組手――というより殴り合いが始まっていた。


「ちょっと二人とも?! せめて寸止めしようよ?!」


 私の声も届かぬまま、二人は燃える拳や蹴りを応酬していく。

 加護の相性が良いフィルがどちらかというと有利みたいだけど、殴り合いとなるとフレド有利みたいで、駆け引きで互角にまで持ち込んでるみたい。

 勝負がつかないまま一時間が経過したところで、また赤竜おじさまが声を張り上げた。


「そこまで! 今日はこれくらいでいいだろう――ゲルダ、みんなを癒してあげなさい」


 私は先にナディアやティナ、アーネの切り傷を癒し、フィルたちの元に向かっていく。

 二人とも綺麗な顔があざだらけで痛々しい。


「もう! 二人とも何やってんの! どうして寸止めできないのさ!」


 叱りつけながら癒しの祈りを二人に与えて行く。

 フィルもフレドも、バツが悪そうにそっぽを向いている。


「――はい、癒し終わったよ。まったく、私は物じゃないんだから勝手に景品みたいに扱わないで欲しいな!」


 だいたい、私はフィルと恋人同士なんだから、フレドのものになる訳がないじゃないか!

 フィルだってそれは分かってるはずなのに、どうして簡単にフレドの挑発にのっちゃうかなー。

 私がぶつぶつと文句を言っていると、フィルが近づいてきて謝ってくれた。


「申し訳ありませんゲルダさん。貴方を景品のように扱ってしまった事を深く謝罪します」


「……分かってくれたならそれでいいけど、二度としないでよ?!」


 私は平謝りするフィルをその場に残し、赤竜おじさまにも詰め寄った。


「赤竜おじさま! なんであんな事を言ったの?!」


 赤竜おじさまは悪びれもせずに笑っている。


「はっはっは! ああでもしないと、彼らは≪火竜の加護≫を使いこなせないと思ったからね! それにフィルはそう簡単に負ける実力ではないだろう?」


「だからって言っていいことと悪いことがあるよ!」


「はっはっは! もう言わないよ! すまなかったね! ――さぁ、昼食にしようか」





****


 昼食を取りながら、赤竜おじさまが説明をしてくれる。


「悪魔や悪魔に強く侵食された崇拝者は、浄化の炎が無ければ満足に手傷を負わせることすら難しい。追い払う程度であれば≪火竜の加護≫でも充分なんとかなるだろう。ある程度までの崇拝者や悪魔の眷属程度であれば滅することも可能だ。護身術ではなく、攻める為の術だね。≪火竜の加護≫でも倒せない相手は≪火竜の息吹≫が必要となる。魔力配分を間違えない様にするんだよ」


 私はポリポリとかじっていた野菜をごくんと飲み込んで質問する。


「ある程度までってどのくらいなのかな? 前回のクリスさんは、武錬クラブのみんなでもダメージを与えられてたよ?」


 赤竜おじさまは困ったように微笑んだ。


「あれは大魔導術式を使っていたから、かなり悪魔の力を削げていた。大人数の祈りの力を太い霊脈に直接流し込んでいたからね。何よりみんなの”クリスを救いたい”という思いが強かった。だからできたことだ。万全のクリスはもう≪火竜の加護≫では倒せないくらいの強さになっていたよ。手傷は負わせられただろうけどね。逃した崇拝者が相手でも、手傷を負わせるのが精々じゃないかな」


「クリスさんってそんなに強かったの?」


「あの子は悪魔に気に入られていたみたいだからね。竜の寵児のように、悪魔の寵児とも言える存在になっていた。下位の悪魔に匹敵しかねない潜在能力を持っていただろう。クリス自身の魂がそれに強く抗っていたから、そこまで潜在能力を引き出せてはいなかったみたいだがね」


 そっか。そんなに危うかったのか。

 クリスさんの心が強かったのが幸いしたんだなぁ。





 和やかな昼食も終わり、私は立ち上がった。


「さて! 王宮に戻ろうか!」





****


 私たちは神殿を出て階段を下りて行く。

 フレドは「姉さんと残る」と言っていた。神殿でクラインさんと一緒に赤竜おじさまから話を聞くらしい。

 まぁ王宮に付いてきてもしょうがないしね。



 こつ、こつと階段を下りて行く私の前に、突然ナディアが立ち塞がって背中を見せた。


「ナディア? どうしたの?」


「――ティナ、アーネ、それにフィリップ王子。殿下は任せましたよ。殿下、加護を全力でお願いします。創竜神様と火竜、両方です」


 は? ここで? 何が起こったんだろう?


 混乱する私に、ナディアが鋭く声上げる。


「殿下! 迷わずに指示に従ってください!」


 う、凄い切羽詰まった声だ。背中から物凄い緊張感が漂ってる。

 ティナやアーネはすぐさま対応して、同じくらいの緊張感で私の左右を固めてる。


 ……仕方ない、こういう時は指示に従うよう、いつも口を酸っぱくして言われてるし。

 すぐに創竜神様の加護を祈り、全員に全力で魔力を配る。

 以前より精度が増してるから、十割は無理だけど各人の存在容量、その九割くらいまでは持って行ける。恐る恐る、だけどね。安心して使えるのはまだ八割だ。

 さらに≪火竜の加護≫も私以外の四人に付与する。


 加護が与えられた瞬間、ナディアが前に駆け出していった。

 そして視界が開け、私の目の前には……階段を上ってくる、マント姿にフードを目深に被った人。その顔はフードに隠されて見えない。

 ナディアは真っ直ぐその人物に向かっていき、燃える手刀をその首筋に振り下ろす。


 ――え? 敵ってこと?!


 その燃える手刀がマント姿の人物の首に当たる直前で、ナディアは手を止めていた。

 手刀を振り下ろした勢いで風が巻き起こり、フードがたなびき、頭から外れた。

 マント姿の人物は、一瞬遅れて驚いたようにゆっくりと飛び退く――私は加速した世界に居るようで、普通の人間の動きはゆっくりとしたものに見えた。

 階段の上だから、ナディアの向こう側に居るマント姿の人物もよく見える。

 フードの奥から現れたのは、同い年くらいの男の子。

 短い銀髪で、目が翡翠のような緑色の子だった。比喩ではなく、本当に瞳に宝石を嵌め込んだみたいな目だ。

 男の子が飛び退き終わり、ナディアから離れて着地をすると、世界は元の速度に戻った。


「ナディア! どういうこと?!」


 私は階段の上から声をかけるけど、ナディアも戸惑っているらしく、手刀を振り下ろしたまま動きを留めていた。

 ナディアがゆっくりと手を下ろしたのに合わせ、私はナディアの背中に駆け寄っていく。フィルやティナ、アーネも私に続いて階段を下りてきた。


「ねぇナディアったら! 敵なの? でも手を止めたから違うの?」


 ナディアが戸惑った声で私に応える。


「……いえ、申し訳ありません。前回戦った男と同じ服装でしたので警戒したのですが、敵意を感じません。あの男はこのような少年ではありませんし、人違いをしてしまったようです」


 え。

 それはとってもいけないことじゃないかな?!

 同じ服装だからって殺されて良い理由にはならないよね?!


 私は慌ててマント姿の男の子に駆け寄っていった。


「――ごめんなさい! 人違いだったみたい! 怪我はない?」


 マント姿の少年は戸惑ったように頷いた。


「何が起こったのか分かりませんでしたが、恐ろしい殺気でしたね。殺される寸前だった事だけは理解しました。手を止めて頂けたので、怪我はありません」


 私は男の子に頭を下げて謝った。


「本当にごめんなさい! 最近、ナディアはあなたと同じ服装の男に殺されかけたの。それで襲い掛かったみたい」


 男の子は苦笑を浮かべた。


「まぁ確かに、こんな街中で目深にフードをかぶるなんて、怪しいと言われても不思議ではありません。実害はありませんでしたから、気にしなくていいですよ」


 私は会話をしながら男の子の瞳を見つめていた。

 こうして間近で見るとよくわかるけど、本当に宝石そのものの瞳だ。

 無機質で人間味が無く、感情を読み取る事が難しい。


「貴方、とても不思議な瞳をしてるんだね」


 男の子が微笑んで応える。


「精霊眼といいます。気味が悪いでしょう? だからフードで隠しているんですよ」


 私は首を横に振って応える。


「気味が悪いだなんて思わないよ! 綺麗な瞳だと思うよ?」


 男の子が目を見開いた。


「……そう言われるのは初めてですね。貴方の名前を教えて頂けますか?」


「私? 私はアデラガルト・ノル・フリードベルクだよ! 貴方は?」


「私はトビアス――トビアス・エスターライヒです」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。