24.前哨戦
――神殿から学院に向かう馬車の中。
私はいつもの顔ぶれで馬車に乗っている。
クラインさんとフレドは別の馬車だ。
私は正面にある青空のような瞳を見つめて尋ねてみる。
「そういえば私、クリスさんから”マイコフ伯爵令嬢”って名乗りを受けた事ないんだけど、どうしてなのかな? クリスさんが自分からそう名乗ってる所も、見たことないんだけど」
私自身がそうだから気にしたことなかったけど、クリスさんが伯爵令嬢らしい仕草をしたところも見た事が無い。
武錬クラブだからそういうものなのかな? と思ったけど、他の女子部の子はそうでもないみたいだったし。
フィルが寂し気な笑みで教えてくれる。
「クリスはマイコフ伯爵家の中でも、かなり難しい立場に居ます」
マイコフ伯爵が後妻として目を付けた女性がクリスの母親だった。彼女はクリスによく似た、美しい女性だった。
マイコフ伯爵夫人の連れ子だったクリスの実の父親は下級貴族で、既に他界していた。
クリスは伯爵家に居場所がなかった。マイコフ伯爵からは疎まれ、伯爵夫人はクリスを庇うだけの力を持たなかった。
伯爵夫人もまた五年前に流行り病で他界し、クリスの肩身は更に狭くなっていた。十二歳のクリスの周りに、味方らしい味方は居なくなった。
マイコフを名乗る事だけは許されたが、伯爵家の令嬢として扱われることがなかった。クリスもまた、マイコフ伯爵の娘として生きる事を望まなかった。
クリスは伯爵令嬢として教育されることもなく、放任されて生きた。幼い頃に実の父から教わった武術だけが心の支えで、それに打ち込んだ。
中等教育でフェティーネ魔導学院に入り、そこで武錬クラブに出会った。クリスは心の赴くままに武術に打ち込んだ。
そんな武錬クラブは、クリスの心の支えとなり、憩いの場となった。
武錬クラブのメンバーを家族の様に思い、親身に相談に乗り、一肌でも二肌でも脱いだ。そんなクリスを慕う者は多く、ようやくクリスは居場所と言える場所を作ることが出来たのだ。
「”令嬢教育を受けてこなかった令嬢”か。なんだか共感してしまうね……ねぇ、マイコフ伯爵は今も生きているの? 悪魔崇拝者となったクリスなら、真っ先に殺してしまいそうな気がするんだけど」
「直近までの動向しか知りませんが、彼が殺されたという話はありません。ですが最近は身体を壊し社交界に出る事もなく、家に引きこもっていたはずです。余命いくばくもないという噂もあります」
もうすぐ死んでしまうから放置されていたのだろうか。
なんとなく、クリスさんならそれでも手にかけてしまいそうな気がした。
「ねぇナディア。クリスさんがマイコフ伯爵を殺さない理由ってあると思う? 私はクリスさんなら悪魔の力を得た瞬間に殺してしまいそうな気がするんだけど」
ナディアはしばらく思案した後、意見を述べる。
「その状況であれば、マイコフ伯爵もまた悪魔崇拝者なのではないでしょうか。死病に侵された人間が縋りつく相手として、悪魔を選ぶのです。悪魔崇拝者として悪魔の加護を得られれば、病魔を克服することすらできると言います。それに縋ったのではないでしょうか。マイコフ伯爵令嬢が悪魔崇拝者になった経緯は分かりませんが、伯爵が悪魔崇拝者としてのコミュニティに参加していたならば、彼女が崇拝者になりやすい環境に居たと言えると思います」
フィルもまた思案し、意見を述べる。
「悪魔崇拝者となり病を克服したような様子が、マイコフ伯爵には見られませんでした。彼は今も病に苦しめられているはずです。少なくとも僕の耳には、そういったマイコフ伯爵の姿しか入ってきていません。ならばマイコフ伯爵がクリスに協力する悪魔崇拝者である可能性は低いように思います」
病に苦しめられ、病魔の克服を欲する義父の目の前で悪魔の力をわざとらしく見せつける――なんとなく今のクリスさんなら、そんな事をしそうだなと感じた。
「多分そうだね。それならもう一人の悪魔崇拝者は、そのコミュニティの人間なのかな? 赤竜おじさまが手練れというくらいだから、長年悪魔崇拝者をやっていた人な気がするけど」
フィルが苦笑を浮かべた。
「悪魔崇拝者のコミュニティがどういうものなのか、僕らに知ることはできませんよ。学院で捕まえた学生の話では、悪魔に心を惹かれた者の肩をコミュニティの人間が叩くそうです。その学生もそうやってコミュニティの端くれになったと自供しました。悪魔に心を売る人間を嗅ぎ分ける力が、コミュニティの人間にはあるのかもしれません。末端の人間は小さな会合には呼ばれるそうですが、そこに集まるのは同じような末端の人間ばかりだそうです」
悪魔に心を売る人間を嗅ぎ分ける嗅覚――そんなものをマイコフ伯爵が持っていたとしたら、私とフィルの関係を見ていたクリスさんの事は、さぞ美味しそうに見えた事だろう。
悪魔に魂を売って悪魔崇拝者となった後も、竜の寵児の命よりフィルを優先したクリスさんだ。その執着心は私の想像以上かもしれない。
我慢が利かないクリスさんが、どうしてフィルと恋人になろうとしなかったのかは分からない。でもずっと無理して我慢をしていたような気がした。
”悪魔に魂を売ればフィルを手に入れることが出来る”とわずかに誘惑するだけで、クリスさんは”じゃあ試しにやってみるか”といつもの悪い行動力を発揮してしまいそうだった。
「……なんとなく、今のクリスさんの状況が見えてきたね。でも私は、私にも親切に助言してくれるクリスさんの姿は偽りじゃなかったと思うんだ。恋敵にある私にさえ親身に相談に乗ってくれる女性、それが本来のクリスさんな気がするよ」
フィルが頷いた。
「僕もそう思います。武錬クラブのメンバーでなくとも、クリスは知人の相談に親身に相談に乗るような女性でした。元々は情に篤い人間なのでしょう――少々、悪ふざけが過ぎるところがありますけどね」
そう言ってフィルは爽やかな笑みのまま苦笑した。そこに憎しみは欠片も感じなかった。
その顔を見て、私はきょとんとしてフィルに尋ねる。
「ねぇフィル。君はクリスさんから気が狂いそうになるほどの拷問を受け続けていたよね。それでもそんな風に笑えるんだ? フィルに取って、クリスさんはそれほど大切な人なの?」
フィルは苦笑から優しい微笑みに代わり、しっかりと頷いた。
「大切な武錬クラブの仲間です。僕も何度も悩みを打ち明け、相談に乗ってもらいました。僕にコーヒーを教えてくれたのも彼女です。”気分転換に普段と違う飲み物でも試してみたら?”とコーヒーの飲み方を教えてくれたのです。その時の僕はまだ、ストレートではなく普通にミルクと砂糖を入れて飲んでいましたけどね――悪魔崇拝者は悪魔の意志に操られると聞きました。あの拷問もまた悪魔の意志だったとレッド公爵は僕に告げました。ならば拷問を理由に僕がクリスを疎む事はありません」
そうか、クリスさんの知るフィルの姿は、そういうコーヒーの飲み方をする人間のままだったんだ。
だから私たちの前でもミルクとお砂糖をコーヒーに入れて飲んで見せていた。
それで偽物であるとばれる事なんて、想定していなかったんだろうな。
フィルにコーヒーを教えてくれた女性。不思議と彼女に嫉妬する心は感じなかった。
私は彼女を救いたい。心の底からそう思った。
赤竜おじさまは”殺してやる事が唯一の救いだ”と言ったけど、私はそんな結末じゃ我慢できない。足掻けるだけ足掻いてみせてやる!
****
「ねぇフィル?」
「はい、なんでしょうかゲルダさん」
「どうして君は今日も私を抱きかかえているのかな? 私、今日は居眠りしてないんだけど?」
「”いつも通り振舞う”と言ったのはゲルダさんですよ? ならば僕も、いつも通りに振舞うだけです」
私はお姫様抱っこされたまま礼拝堂に向かっていた。
既に朝の風物詩となっているその姿に、周囲の生徒はたいした興味も持たずに自分たちの教室へ向かっていく。
視線を感じないとはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしい。火照った顔のまま、私は大人しく運ばれて行った。
フィルが学院の礼拝堂に踏み入れると、私の目に飛び込んできた光景があった。
祭壇の前で祈りを捧げる、長い金髪の少女の後姿だ。
フィルが緊張したのが気配で分かる。私を抱えたまま、ゆっくりと祭壇へ近づいていった。
私はフィルに抱きかかえられたまま、彼女に声をかける。
「朝から礼拝なんて、らしくないね――クリスさん」
クリスさんは身じろぎせず祈りを捧げたまま私に応える。
「ようやく私の前に顔を出す勇気が持てたかしら。昨晩のイベントはお気に召した?」
私はフィルに降ろしてもらい、ゆっくりとクリスさんの横で祭壇に向かい跪いた。
「イベント? 昨晩はなんにもなかったよ? とっても静かで平和な一日だったからね!」
会話をしながら創竜神様への祈りを始める――今の私は、礼拝と会話を同時にこなす事も出来るようになっていた。我ながら器用になったなぁ。
少し間が空き、クリスさんが応える。
「……どうやら私は、一杯食わされたということかしら? だとしたら、どうして私の前に姿を見せる気になったのか、教えてもらえる?」
「だって、悪魔崇拝者になってもクリスさんはクリスさんだもの。私が何かを怖がるとでも思った? ちょっと準備をしてたから、昨日はお休みしてただけだよ。待たせちゃったとしたらごめんね」
クリスさんの声は冷たい。
「構わないわ。今こうして目の前に現れたんですもの――今から始めるのかしら? それとも、後で何かをするつもりなのかしら?」
私は微笑みながら応える。
「私たちは学生だよ? 学生は勉強する為に学校に来るんだよ? いつも通り授業を受けて、クラブ活動をするだけだよ」
クリスさんから、わずかな苛立ちの気配を感じた。
「……そう、なら私もそうしようかしら。でもいつ気が変わって周囲の人間を手にかけるかは分からないわよ? あなたはその恐怖に耐えられるのかしら?」
「恐怖? なにを恐れるの? 言ったじゃない、クリスさんはクリスさんだよ。いつものように一緒に昼食を食べるし、いつものように武錬クラブで会おうよ」
「……そう、その態度が張りぼてかどうか、じっくり眺めてあげるわ。私の手がうっかり生徒の首を落とさないよう、精々祈っておくことね」
そう言うとクリスさんが立ち上がる気配がして、足音が私から遠ざかっていった。
――これでいい。私の知るクリスさんなら、これで大丈夫なはず。
いつでも周囲の生徒を殺せる事を伝えられた私は、これから時間と共に不安に苛まれる事になる。
私はそれに耐えられると言い切り、クリスさんは”じゃあ見届けてあげる”と言ったのだ。
私は逆に”武錬クラブまで、悪魔の誘惑に抗って人を襲う事を我慢できるの?”と挑発した事にもなる。私とクリスさんの我慢比べ、意地の張り合いだ。
フィルがおずおずと私に語りかけてくる声が聞こえる。
「おそらくあれで、クリスはゲルダさんの挑発に乗りました。悪魔にどこまで支配されているかは分かりませんが、本来のクリスであれば武錬クラブまで誰かを手にかける事はしないでしょう――かなり危険な賭けになりますが、本当にこれで良かったんですか? 生徒が殺されない保証はありませんよ?」
私は祈りを捧げ終わり、目を開けて立ち上がった。
「クリスさんなら大丈夫だよ。悪魔に魂を食われてもなお、自分を保ち続けているクリスさんを私は信じる! 大丈夫だよ! 竜の寵児が言う事だよ? 信じなさい!」
私は赤竜おじさまの真似をして、フィルに向かってニカッと笑って見せた。
フィルは一瞬呆気に取られた後、私に微笑み返した。
「では、僕は貴方を信じる事にしましょう――それでは”いつも通り”教室に向かいますね」
再びお姫様抱っこに抱え上げられた私の抗議を微笑みで受け流しつつ、フィルは礼拝堂を後にした。
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学院から少し離れた林の中に、マント姿の男が居た。変わらずフードを目深に被り、その顔は昼でも判別できない。
「どうやら、寵児は姿を現したようだが……なぜ今始めない?」
『あのガキから挑発を返されちゃったわ。面白いからそれに乗ってやろうと思っただけよ。始める時は教えるから、そうしたらサポートして。それまであんたは黙って見ていて』
「……いいだろう。侯爵閣下からのご指示だ。お前の言う通りに動いてやろう」
マント姿の男は腕を組んで木にもたれかかった。
学院は神殿に次ぐ太い霊脈の上にある。巫女を穢すならばこれ以上ない場所だ。
信頼するものから殺される絶望――それを得る事こそが侯爵閣下の望みだ。
あの女を寵児が信頼するのであれば、こちらとしても好都合と言うものだ。
フィリップ王子を崇拝者に仕立て上げ、寵児を殺させることが最も望ましかったが、それは失敗してしまった。
だが次善の手とはいえ、信頼の大きさに応じた果実は得られるはずだった。
「まぁ、例え今回失敗しようと、あの女の代わりなどいくらでも居る。今回は俺も状況を楽しませてもらうとしよう」
独り言ちた男は黙って学院の方向に目を向けた。
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教室に入りフィルが席に着いたことで、ようやく私はお姫様抱っこから解放されていた。
クラスのみんなは既に目もくれない日常風景だ。
「どうしてここまで抱き上げて移動する必要があるのかな?!」
「他の誰にもゲルダさんを譲る気が無い、と周囲に知らしめるためですよ?」
「もうそれは充分に周知できてるよね?!」
「そうですか? 僕にはまだ足りてると思えませんので、僕が満足するまで続けますね」
相変わらず有無を言わせぬ問答をフィルと続ける私に、フリードマンさんが大笑いしながら話しかけてきた。
「お前らは相変わらずだな! 神殿の祭事は無事終わったのか?」
「んー、本番はこれからかな。でも今日は私が神殿に居なくてもいいから、普通に武錬クラブに参加するよ!」
「そうか! フィルもモフィス侯爵子息も今日は出席してるし、久しぶりに少しは明るいクラブ活動ができそうだ――だが、悪魔崇拝者が誰かという問題は残る。油断はするなよ?」
私は赤竜おじさま仕込みのニカッとした笑いをフリードマンさんに向けた。
「それも大丈夫! 心配はなくなったよ! 退治はまだだけど、誰が崇拝者かは分かったからね! 武錬クラブで教えてあげるよ!」
フリードマンさんはきょとんとして尋ねる。
「教えてくれるのは有難いが……なんだか随分暢気に見えるな。お前の命が狙われてるんだろう? 大丈夫なのか?」
「大丈夫! 私を信じなさい!」
「……なんだかお前、随分明るくなったな。最後に会った時の暗さが少しもない。フィルを取り戻せたことがそれほど嬉しいのか?」
「それもあるけど、これが本来の私なんだって言われたんだ! 私は私であることを忘れるなって! だからその通りにしてるだけだよ!」
「……そうか。元気になったお前の姿を見ていると、俺たちも元気が湧いてくる気がするな――フィルもモフィス侯爵子息も、詳しいことは俺に教えてくれないのか? 一体お前たちに何があったんだ?」
フィルが微笑みながら応える。
「フリードマン、お前には武錬クラブで全てを教える。その時に分かるさ。それまでは今まで通り、学校生活を送ろう。大丈夫。ゲルダを信じよう」
「……まぁ、クラブ活動の時間までなら我慢してやるよ。崇拝者の心配も要らないなら、今日は久しぶりに気持ちよく授業を受けられそうだ」
フリードマンさんも穏やかな笑顔を浮かべ、フィルに頷いていた。
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学食では、いつもの様に武錬クラブのメンバーがそろって昼食を取っていた。
「こうして全員そろって昼食を食べるのも久しぶりだね!」
言い終わると同時に私は次の炙り肉の切れ端をフォークで突き刺し、口に運んでもぐもぐと味を楽しんでいく。
私の左右はティナとアーネが並び、静かに昼食を進めている。
私の対面にはフィルが座り、その左右にフリードマンさんとクリスさんが席に着いて昼食を口にしていた。
クリスさんが呆れたように私の顔にフォークを向けた。
「あなた……本当に状況を理解しているのかしら? なんでそんなに明るいの?」
わたしはきょとんとした顔でそれを見つめる。
もぐもぐごくんと飲み込んでから、柑橘類のジュースを喉に流しこんだ。
「状況を理解って、もちろんしてるよ? 今はお昼休み! ご飯を食べる時間だね!」
私はニカッとクリスさんに笑いかける。
きょとんとしたクリスさんは、毒気を抜かれたような笑みに変わった。
「呆れた……どうやら本気で言ってそうね」
フリードマンさんが笑いながらクリスさんに言葉をかける。
「まぁいいじゃないか! 暗く落ち込んでも何も始まらんしな! 食事は明るく楽しく取るものだ!」
私はその声に応えて拳を掲げた。
「その通り! ――あ、そうだ! クリスさん。私も武錬クラブメンバーらしく、武術を始めようと思うんだ。フィルが手解きをしてくれるって言うんだけど、こういうのは同じ女性であるクリスさんの方が教えるのが巧そうだし、私はクリスさんから教わろうかと思うんだ! 今日から教えてもらえるかな?」
クリスさんが呆気に取られた顔になる。
「武術? 王女のあなたが? なんでそんなことを?」
「私だって武錬クラブに籍を置く生徒だよ? 武術を始めるのに、それ以上の理由が必要かな?」
私は微笑みながら、まっすぐクリスさんの目を見る。
クリスさんも私の目を見つめながら少し思案し、微笑んだ。
「……いいわ。今日から早速教えてあげる。確かにフィルの性格は、あまり武術を教えるのに向いてないからね。男子と女子の違いもあるし。私は教え慣れてるから、少しはマシなはずよ」
フレドがフリードマンさんの隣で首を伸ばした。
「お? クリスが直々に教えるのか? それは俺にも教えてもらえるのか? 俺も初心者なんだが」
私は少し冷めた目でフレドを見た。
「……フレド? フリードマンさんが”教えてやる”っていくら言っても”俺は俺のスタイルを貫く!”って跳ね除けてたのに、どういう風の吹き回しかな?」
フレドが私に不敵な笑みを向ける。
「こんな綺麗な女が手取足取り武術を教えてくれるなら、それに乗らん手はないだろう? 我流を貫くにしても、技術の幅が増える事は歓迎すべきだ」
私は溜息をついて応える
「フレド、もしかして綺麗な女性を見るとちょっかいをかけに行くタイプ? それでよく私に求婚なんてできたね?」
「美しい女を美しいと称えるのも、男の仕事だぜ? 安心しろ、俺の心はお前の物だ」
そう言って不敵に笑うフレドの頭をフリードマンさんが鷲掴みにした。
「そうかそうか! 武術の基礎を習う気にようやくなったか! ならば俺が直々に今日から教えてやろう!」
「野郎に用はねぇんだよ!」
「まぁそう遠慮するな。俺とお前の仲だろう?」
なんとかフリードマンさんの手を払いのけようとするフレドだったけど、腕力ではまったく敵わないみたい。
フリードマンさんの大きな手はがっしりとフレドの頭をつかんで離さなかった。
「俺はあんたと親しくなった覚えはねーよ?!」
「はっはっは! 武錬クラブでは拳を交えたらもう仲間だ。遠慮する必要はない!」
周囲に居る武錬クラブのメンバーたちから笑い声が上がった。
クリスさんの顔を見ると、どこか戸惑うような表情で辺りを見回してから、嬉しそうに昼食を進めだした。
「モフィス侯爵子息、さっき言ったように男子と女子の違いは大きいのよ? 私よりフリードマンの方が貴方には相応しいわ。残念だったわね?」
「チッ! しょうがねーな! フリードマンで我慢してやる!」
私は嬉しそうに場の空気を楽しむクリスさんの微笑みを見つめながら、私も微笑みを浮かべて昼食を食べ進めて行った。




