063(ソウ、タバコを買う)
俺はタバコ屋の看板を見つけて店の前に立つ。ガラス張りで店内が見える。スイーツショップのようにタバコのカートンがショーケースに陳列されてる。
俺は中に入ると、おばちゃん店員が「いらっしゃい。見ない顔ですね」と言った。
「俺は、テオブロにトドメを刺した英雄だよ」
「最近、多いのよね。そういう人」
「俺は本物だよ、おばちゃん」
「そう、まあ、いいわ。何が欲しいの?」
「一番重いタバコは何ミリ?」
「120ミリよ」
「咳が止まらなそうだな。メンソールはある?」
「あなた……魔法使い?」
「月の精霊と仲良くなるために散歩してるんだ」
「異国出身でしょ」
「よく判ったね」
「ラークバロンの魔法使いって、メンソールを嫌うのよね」
「何で?」
「メンソ国王の事をよく思ってないみたいよ。タバコで魔力回復しに来る魔法使いは皆、愚痴をこぼしていくわ」
「そうなんだ。俺は別に反国王派でもないし、メンソールを買うよ」
「何ミリがいいの? 1ミリから10ミリまであるわよ」
「じゃあ、メンソールの10ミリを一箱」
「1000イースよ」
「高いな……。仕方ない、100万イース札で支払うよ」
「あなた、宮殿にでも住んでるの?」
「よく判ったね。近衛兵のソウだ」
「貴方が本物のソウ様ですか? 失礼しました」
おばちゃん店員は申し訳なさそうな顔をする。
「気にしてないから、いいよ」
「マッチのサービスをさせていただきます」
「ありがとう」
俺は100万イース札を支払う。おばちゃん店員はお釣を勘定してる。こんな高額紙幣は宮殿でしか手に入らないか。
「99万9000イースのお釣です」
俺はお釣をポケットに入れる。
「また来るね」
俺は店を出て、外のゴミ箱にラップと銀紙を捨て、タバコをくわえて、マッチで火を着ける。肺の奥まで煙を吸い込み、ふぅ〜っと吐く。頭がクラクラする……ヤニクラだ。久しぶりに吸ったからかな?
「コウ? コウじゃない?」
見知らぬ、おばさんに声を掛けられた。
「俺はソウだよ。コウではない」
「志願兵になって戦争最前線に行く前に、テオブロの反逆に立ち向かったと聞いたわ。私の自慢の息子よ、忘れちゃった?」
「人違いだよ」
内心、俺はマズイと思ってる。転生前の名もなき兵士には家族がいたんだ。優しそうな、おばさん。しかし、俺が身体を乗っ取ってしまった。




