侵攻Ⅴ
半径五メートルほどの距離からの出現は一、二体ならば余裕を以て迎撃できる。
しかし、全方位三百六十度から、十数体が襲い掛かってくるとなると、その場で捌くのは難しい。余程の手練れであっても、留まるよりは方位を一点突破することを選ぶだろう。
それを覆すのが隆三の魔弓。鳴弦の響きに魔力を乗せ、衝撃波として放つ。その威力は人であればハンマーで殴られたように感じるだろうし、一点に集中させれば大木を折ることも可能なほどだ。
それを隆三は更に魔法で重ね掛けをする。彼には詠唱の必要はない。ただ決められた作法に則って呼吸を整え、魔を打ち砕くという意思を込めるだけで、効果が発揮されるからだ。
元々は邪気払い――――退魔の力を持った鳴弦の術式と魔弓の力が重なって、互いに力を増幅し合う。勇輝の魔眼には白く輝く光が弦から放たれるのが見えていた。その輝きは今にも太陽の輝きに届かんとするほどだ。
「魔よ。疾く我が前より消え失せよ」
あと数歩というところで弓弦から隆三が指を離す。
本来の鳴弦の儀で行われるような軽く引き絞ったものではない。全身全霊で引き絞った弦の音は、鳴り響くと同時に、勇輝の肌をぱちりとビンタでもされたかのような痛みが走った。だが、それよりも胸や腹の奥底にまで何かが通り抜けていくような感覚に驚かされる。それは不思議と痛みなどの類ではなく、むしろ心地良さすら感じるほどであった。
白い輝きが恐るべき速さで辺りを駆け抜け広がっていく。鳴弦の音と共に放たれているというのならば、その速度は音速。数値にしておよそ秒速三百四十メートル。
その速さで魔力を叩きつけられた小鬼は一瞬で昏倒し、その場で崩れ落ちる。そればかりか近くにいる者は血の泡を吹いて絶命すらしていた。
「……ちょっと魔力を込め過ぎたか。二人とも大丈夫か?」
「あのね。こういうことやるならもっと早く言ってよ。何が起こるのかと思ってたら、いきなり顔面に凄い衝撃があったし。あれにも上乗せした魔力が籠ってたら痛いじゃ済まないってわかってるでしょ!」
「そうか、そうか。貴重な体験ができたな。それじゃ、先に進む――――」
ちょっとばかり意趣返しができたとばかりに、笑って進み出そうとする隆三。だが、その歩みは三歩も歩かずに止まってしまった。
「どうしました?」
「どうしたもこうしたもねぇ。様子がおかしいぞ」
勇輝は隆三が見えている方向を覗き込む。特段、何か気になるようなものは見えない。所々に小鬼たちの倒れ伏した姿が魔眼越しで見えるだけだ。
「何か、来てる?」
アリスが呟くと同時に、勇輝の魔眼に小鬼が放つ光が入って来る。それも一つや二つではない。赤い光が増殖でもしているかのように急激に出現していく。どこかに隠れていたとか、集まって来たというものではない。まるで転移でもしてきたかのような光景に、勇輝は眼を見開いた。
「正面だけで数十体いやがるな。左右から聞こえてくる音も考えると百体は軽くいる。一体どこから現れやがった?」
『ほ、本当ですか? 今、本体に連絡を取っていたところなのですが、お伝えした方がいいですか?』
「あぁ、どうやら俺たちがそっちに辿り着けるかどうか怪しくなってきたって言ってくれ」
チビ桜が慌てた様子で勇輝のポケットから顔を出す。
「……小鬼の特性はゴブリンと似ているんだよね。だったら、こいつらが産まれてくるだけの犠牲者がいたはずだけど、この周囲でそれだけの規模の失踪者がいたのなら、既に誰かが動いていたはず。そう言うの何か聞いてない?」
『ちょ、ちょっと待っててください!』
うーん、と目を瞑って唸っていたチビ桜だったが、何か返事が来たようで、目をかっと見開く。それと同時に、身を乗り出して叫んだ。
『巴さんからですが、そういう事件はここ数か月、この領地では起こっていないとのことです』
「奇妙だな。そうだとするならば、この量はどうやって……?」
魔弓を構えながら隆三は悪態をつく。これだけの量の小鬼となると村が滅びてもおかしくない規模だ。歩奧家は魔物狩りにも力を入れている古参の家である。よって、この量の小鬼が蔓延る状況を作るほど平和ボケはしていないし、普段から防御柵を作るほどの念の入れようだ。
つまり、考えたくないことだが――――
「――――あの大鬼……何かの特殊能力持ちか」
最悪だ、と呟きながら隆三は、再び魔弓の衝撃波を撃ち放った。
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