侵攻Ⅳ
チビ桜が桜本人へと連絡を繋ぐのを待たずして、勇輝は隆三とアリスを先頭に宿場へと向かっていた。彼らが出した結論は、村の現在の防衛力では朝まで守りきることが不可能。
それに対して救出した人たちは、正司と武士三人であれば、洞窟の通路なり部屋なりに立て籠もることで一日程度は耐えることが可能だ。
だから、大鬼を倒すために必要な大火力を出すことが可能な人員は、出来る限り連れて行くことになった。本来ならば足の速いアリスが先頭を行き、弓を持つ隆三が後ろを着いて行くのが理想だが、土地勘のないアリスと勇輝には不可能。仕方なく隆三が先頭に立って走っていく形になってしまう。
「ここからだと、どれくらいで着くの?」
「この速度を維持したままだったら三十分もかからねぇ。行きはお前の足跡がどこかを確認しながらだったから一刻も経っちまったが、走ってるだけなら十分間に合う!」
「方角さえ分かれば先に一人で行くのに……」
不満気なアリスにイラつきを抑えながら、隆三は声を若干荒げる。
「森や山は木や起伏のせいで――――」
「方向感覚が狂いやすいんでしょ? そんなこと戦の基本だよ。だから、こうやって大人しくついて行ってるの」
「――――だったら黙ってついて来い!」
訂正。アリスに悪意があるかどうかはともかく、隆三の堪忍袋は限界のようだ。イラついていることを隠そうともせず、更に走る速度を上げる。
そんな光景を前にしながら勇輝は、周囲へと視線を巡らせて走っていた。
「(夜行性の動物……いや、魔物もいるのか? だけど、ほとんどが四足歩行の獣だ……それにこっちを警戒して逃げていってる。そこまで嫌なのか。この音が……?)」
時折、隆三がかき鳴らす魔弓の音。それが響き渡る度に近くにいる生物たちが慌てて離れていく。中には寝ていたものもいたのだろう。飛び起きるという言葉通り、茂みなどを思いきり揺らす音が、離れていても聞こえてくるほどだ。
鳥たちは夜ということもあって逃げることができず、恐怖の鳴き声を挙げるばかり。それがあまりにも不気味で、魔眼でも捉えられない何かが近くにいるのではないか、という恐怖に駆り立てられる。しかし、後ろを見ても追って来るものはなく、生きている者の影も形も見当たらない。
心臓が縮みあがるような恐怖を捨て、勇輝は前を向いて二人を追う。緩やかとはいえ、下り坂ということもあり、この速度で走り続けていると躓いて雪だるまのように転がって行きかねない。ましてや落ち葉も増え始めていて足元の状態は良いとは言えなかった。これで雨が降っていたら最悪だっただろう。
空を見上げれば月は顔こそ出しているが、ほんの少し離れたところに視線をずらすと、昼間には見えなかった暗雲が迫ってきていた。
「降り出してくれるなよ……」
「大丈夫だよ。あの雲、分厚いけど、雨を降らす類じゃないから」
「そんなこともわかるの?」
「うん。そういうの見分けるの得意だから」
アリスは前を向いたまま勇輝に告げる。誇らし気に言うあたり相当自信があるのだろう。そうなればいい程度に勇輝が聞いていると、前にいた隆三から声がかかった。
「そんなこと言ってる暇があるなら速度上げるぞ、と言いたいところだが……どうやら簡単には進ませてくれないようだぞ。武器を用意しておけ」
隆三が速度を落として、心なしか木が少ない開けた場所へと移動する。アリス、勇輝もそれに続いて、各々が三方を睨むように背中を合わせて構える。勇輝の視界の先には、チラチラとこちらに近づいて来る小鬼らしき光が見え始めていた。
「はっ、巣穴からほとんど離れていないこんなところで待ち伏せとはな。……どうにも変な気がするが、倒さないと進めそうにないようだ」
「いいじゃん。さっさと倒して先に進もうよ。それで、どれくらい隠れてるのかな?」
「面倒だ。少しばかり魔力を使うが、手っ取り早くいくのが優先だ。二人とも、少し屈んでな」
そう告げるや否や。隆三は思いきり魔弓を引き絞って天に掲げた。
「山の神様と動物たちには悪いが、ちょっとばかり周りごと吹き飛ばす」
どうせ放つならば多数を巻き込んだ方がいいと考えたのか。隆三はギリギリまで敵が来るのを、その姿勢のまま待ち続ける。その姿を好機と見たのかは定かではないが、小鬼たちの一部が一斉に茂みから躍り出た。
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