侵攻Ⅲ
巴は桜の横へと座る。何度か話そうと口を開くが、上手く言葉が浮かばないのだろう。声が出る前に口は閉じられてしまった。その様子を見た桜は苦笑いする。
「ダメそう、ですか?」
「……はい。『援護としては有り難いが、一か八かの賭けに命を懸けるわけにはいかない』と。『小鬼の駆除を優先してくれた方が生存確率を上げることができそうだから、そちらを頼みたい』とのことでした」
武士である彼らの組織に部外者が入って動くのは大きなリスクが伴う。作戦を仮に実行できたとしても、信頼関係が築けていない状態では、綻びが出ることが予想できる上、失敗した時の被害が多すぎる。
桜も、巴の報告を受け止めることしかできなかった。せめて、桜の魔法の威力を彼らが知っていれば、一考の余地はあったかもしれないが、そんなことを言っても話は始まらない。自分に出来ることは大鬼と戦う武士たちが一人でも後方の憂いを断って戦える状況を作ることくらいだろう。
「――――ですが、最後にこうも言っていました。『こちらがそちらの作戦に沿って動くことは難しい。だが、戦っている最中に魔法の流れ弾が飛んできて大鬼に当たる分には大歓迎だ』だそうです」
「それは、つまり……?」
「勝手にこちらで動いて、魔法を放つ分には止めはしないとのことでしょう。まぁ、同士討ちにならないようにという注意だけは念入りにされましたが」
桜の取り得る選択肢は、これで少しばかり広がった。
一つは最初に想定した通り、小鬼狩りに専念すること。もう一つは大鬼を倒せるかどころか、当てられるかどうかもわからない一撃を狙って魔法を準備すること。更に付け加えるなら二つ。
小鬼を掃討した後に、残った魔力で大鬼を足止めするか。それとも賭けに出て倒すか、だ。
「援軍が来るのがいつかはわかりませんが、恐らく隆三様たちの中からこちらに向かう人員が出るはずです。ここを治める歩奧家の援軍が来ることが確約されていれば、もう少し方針がはっきりするのですが」
必ずしも桜たちが大鬼を倒す必要はない。目的は被害を最小限に抑えることだ。流石の大鬼とはいえ、猛者の軍勢を相手にすれば無事では済まない。いくら皮膚が固くとも、大名クラスが正式に軍として保持している武器はどれも一級品だ。事実、日ノ本国の名匠たる鍛冶師たちが鍛え上げた武器を当然保有しているし、その中にはあの久義の作も多く存在する。そんじょそこらの冒険者たちが持てるような物ではない逸品を持った戦闘特化の兵が襲ってくるのだ。例え一撃が薄皮一枚しか裂けぬとも、千重なれば血も流れ、万重なれば絶命にも至る。
日ノ本国は古くから魔物との戦いを何度も切り抜けてきたのだ。その度に兵も匠も技を磨かれている。興国より数百年と積み重ねてきた月日は伊達ではない。それらを信頼するというのならば、歩奧家の援軍まで時間を稼ぐことが最適なように思える。
「でも、来ても来なくても、それまでにたくさんの被害が出てしまう」
「そうでしょうね。上位種との戦いは被害なく終えられることは不可能です。情報が無い今、どんなことをするのが正しいのか。それは終わった時に初めてわかることですから」
犠牲無く終わることのできる戦いなどありはしない。小鬼相手ですら状況が違えば、鍛え上げた力を発揮することなく死んでしまうこともある。相手が魔物だろうが人間だろうが関係ない。それが命のやり取り――――即ち、殺し合いというものなのだから。
二人がどうするべきか唸っていると、桜の肩が唐突にピクリと跳ねた。
「どうしました?」
「今、チビ桜から連絡が……え? どういう……?」
巴に状況を話そうとするも、桜自身がチビ桜からの連絡を理解するのに時間がかかってしまう。数秒間黙った後、魔力の回復と共に戻ってきた顔色が青く染まっていく。
「こちらに向かっている人員は隆三さん、勇輝さん、アリスさんの三名だそうです」
「順当と言えば順当ですね。大勢を守るという点においては隆三様が残られるかとも思いましたが……何か問題が?」
パチリッと、近くにあった篝火から乾いた音が響く。火の粉が舞い、空中で儚く消えて行った。
桜はその光景を動揺した瞳で追いながら、震えた唇で告げた。
「この村までの道を小鬼たちが待ち伏せしているようです。しかも、かなりの数で」
巴も何を言っているのか理解できなかったようである。
それもそのはず、小鬼の人数は今こちらに向かっているものと、巣で隆三たちが倒したもので全てだと思っていたからだ。隆三たちがこの瞬間に相手にしている敵もいるとなると、明らかに想定していた数を上回る。
「一体、どれくらいですか?」
「隆三さんが言うには百では足りない、と。恐らく――――」
次に続く言葉を聞いた巴は絶句した。
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