侵攻Ⅵ
チビ桜の報告を聞いていた桜と巴は、手近な櫓へと昇り、迎撃の準備を始めていた。
巴は馬車に乗せてあった弓を手に持ち、迫りくる松明の行進を眺めながら、桜の連絡を聞いている。状況は隆三が呟いたように最悪と言っていい。ただでさえ、大鬼がいて生きるか死ぬかの瀬戸際だというのに、取り巻きの小鬼たちは大鬼が生きている限り召喚される可能性があるのだ。
「隆三さんが言うには、大陸のダンジョンにそういう能力を持ったボスもいるとのことです。自分の魔力を使って、配下になる魔物を召喚・使役するというものらしいのですが」
「厄介ですね。大鬼は魔法を使うことなどありません。だから思う存分、有り余った魔力を小鬼の召還に使うことができる。おまけに小鬼は個々の人格を有している自立型なのにも拘わらず、種族の上下関係の性質上、必ず大鬼の指示に従う。これほど面倒な相手はありません」
せめて、大鬼の指示に従うだけの傀儡ならば、単純な攻撃しかしてこない上に連携攻撃をすることはほとんどない。冒険者でなくとも、力自慢の村人ならば十分対抗できただろう。
しかし、小鬼は意志をもち、数の武力と共にいやらしい連携をしてくることは目に見えていた。例え目の前の仲間が倒れても、その屍を乗り越えて襲ってくる。こちらが少しでも退けば、それをきっかけに一気に戦線崩壊を起こしかねない。
「つまり……私が考えていた小鬼を掃討すれば、他の皆さんが楽になるという方法は――――」
「残念ですが、大鬼の魔力が尽きない限り無理でしょう。隆三様の攻撃で一掃しても、即座に召喚されたということでしょうし」
おまけに今見えている松明の位置からして、隆三たちと大鬼率いる鬼の軍勢はかなり離れた位置にいるはずだ。具体的に言えば山一つを挟んで反対側くらいまでの距離は余裕である。召喚できる範囲が広いどころか、召喚した小鬼を通して状況を把握しているとしか思えないくらいだ。
「……勇輝さんたちが自分たちの巣を襲撃したと同時に、こちらに向かい始めた。そう考えると、そんな能力を持っていても、おかしくはないかもしれませんが」
桜は迫りくる灯りの列を見て震えた。そんな相手にどうやって勝てというのだろうか。少なくとも、現時点で桜たちが生き残るには、大鬼を討伐する以外の道が閉ざされたも同然の状態だ。
「まだ鬼たちがここに辿り着くには時間があります。今の情報を私は他の方に伝えておかなければ……。桜さんはどうしますか?」
「私も行きます。勇輝さんたちから得られる情報はまだあるかもしれませんから」
「わかりました。行きましょう」
時間は無駄にはできないとばかりに、巴は桜を抱きかかえる。そして、梯子を使うことなく、そのまま櫓から飛び降りた。桜の身が強張ったのも一瞬、地面に苦も無く着地した後は、お姫様抱っこで武装した人々の間を駆け抜けていく。あまりの恥ずかしさで顔が赤くなっているのを感じる。
そんな中、チビ桜経由で隆三の言葉が伝えられた。
『――――大鬼の奴は油断しない方がいい。アリスに出会った時に無理に戦闘を継続せずに撤退するような奴だ。もしかすると、アリスが巣まで尾行することも、巣に攻め込まれることも全て計算尽く、ってくらい頭が回るやつかもしれない。力押しじゃない、搦め手を使ってこられたら……そこにいる奴らは心を折られるだろうな。その時は……逃げろ。いいな』
それから、間を置かず勇輝の言葉が送られてくる。
『桜。無理をしなくていい。自分ができることをやって、それでも無理なことなんていくらでもある。大鬼退治が無理なら俺がやる。だから、俺が辿り着くまで時間を稼いでくれ。桜は……必ず守る』
「……わかった。私もやれることはやってみる。勇輝さん、それでも駄目だった時は……お願いね」
その言葉が勇輝に届いたかどうかはわからない。暫く待っても、チビ桜から新しい声は返って来なかった。
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