侵攻Ⅰ
「くそっ! 矢をありったけ持ってこい! 使える奴は櫓に上がれ!」
「早馬を出せ! 今なら城までの道が空いている! 歩奧様に早く援軍要請を!」
村の男衆と僅かばかりの冒険者。そして、この地域を治める大名の配下である武士たち。数こそ多いが、敵は大鬼。一筋縄ではいかない相手だ。
武士たちが大鬼の相手を務め、その邪魔になる小鬼を他の者が相手をする。いかに武士たちが本領発揮できる場を整えられるかが肝になるだろう。
それでも、この人数では足止めをするのが精いっぱい。明朝に来る予定になっている主の援軍を待たずして全滅するのがオチだ。彼ら歩奧家に仕える武士たちの戦術は優れた連携で敵を討ち取ることにある。
だが、悲しいかな。現場の救援を最優先として駆け付けた武士たちは皆、軽装であった。また装備も最小限の為、小鬼ならばいくらでも戦える心づもりでいたが、大鬼となっては心許ない。可能な限り援軍を早く呼ばねばならなかった。
「歩奧の小金原城からは、大体馬で一時間掛からないけど……。この闇に、大鬼相手となれば……厳しいか」
巴が桜の側で呟いた。
大鬼の依頼難易度は文句なしのA級。最低でもB級以上の冒険者が数十名必要になることが予想される。通常の冒険者ギルドで提示される依頼の中では最高峰の相手だ。もちろん、先日倒した土蜘蛛のような討伐することが不可能に近い魔物相手にはファンメル国などでは「AAランク」や「AAAランク」、日ノ本国では「番外」などと特殊な難易度として出たこともあることは否定しないが、現実的に対峙しうる相手としては、最強に近いのは間違いない。
巴としては、この人数で大鬼に対峙することを無謀だと考えた。いかに小鬼が排除できても、大鬼を倒す手段が皆無な以上、こちらの勝利条件は朝まで生き延びて援軍がくることに賭けるしかない――――数週間ほど前ならば、そう考えていただろう。
「桜さん。二つお聞きしたいことがありますが、今、お話ししても大丈夫ですか?」
「……はい。勇輝さんたちに鬼が迫っていることを伝えられたので大丈夫です。あちらでは、人質になった皆さんをどう保護して、こちらに向かうか考えているようです」
「そうですか。では一つ目の質問は少し待った方がいいですね。彼らが帰って来れるかどうかの確認なので。特に隆三様と勇輝様の二人が来てくれるだけでも勝算がありますから。……あのアリスという少女に関しては心強いですが、まだ信用できないところがありますし」
最後の言葉だけ巴は声に出るか出ないかくらいの声で呟く。
彼女と出会って最初の夜。見張っていたはずなのにいつのまにか寝てしまっていた時があった。あの程度の時間の見張りなど、今までの訓練に比べれば見張りなどとも呼べぬものだ。それなのにも拘わらず、寝てしまったということは、何か薬を盛られたか呪術の類を掛けられたかくらいしか思いつかない。故に巴はアリスをどちらかというと危険人物だと認識していた。
「なので二つ目の質問を先にさせてください。あなたの魔法で大鬼を倒すことは可能でしょうか?」
「私の……魔法で?」
「はい。私は直接見ていませんが、あなたの魔法は土蜘蛛の皮膚を貫くほどの威力だったと聞いています。封印されている中でも下級とはいえ、土蜘蛛の皮膚は相当厚いはずです。それを貫くことができるのならば大鬼にも通じる可能性があると踏んでいるのですが……」
どうでしょうか、と見つめる巴に桜は逡巡した後、首を横に振った。
「ごめんなさい。今の私にはアレを撃てるほどの魔力が残っていないんです。この村の一部を覆う壁の作成に、勇輝さんたちに着いていった式神の維持。後者はともかく、前者の消耗はかなりあります。魔力ポーションを飲んで休んでいましたが、全快には程遠いです」
「そうですか……」
できるだけ表情を暗くしないようにしたつもりだったのだろうが、巴の言葉には明らかに落胆の色が混ざっていた。申し訳なさを感じたようで、桜は胸に手を当てて何か考え混んでいるように見える。その時、胸の膨らみとは明らかに違う服の出っ張りを、桜は目を丸くすると同時に抑え込んだ。
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