連戦Ⅲ
小鬼たちは悲鳴を上げようとしたのだろう。しかし、いくら待っても出てくるのは声にならない声。そうして、彼らはようやくそこで、自分の頭が体と繋がっていないことに気付いたようだ。
「――――ア゛ァ……!?」
視界が反転し、地面が天井に、天井が地面になる。飛び込んで来たのは自らの体。そこにあるはずの首はついておらず、血飛沫が噴水のように飛び出していた。しかし、それもすぐに収まり、力を失った体はゴトリと地面に横たわる。
二体の小鬼の首、それらを一度にまとめて斬り落とす。言葉にするのは簡単だが、実際に行うのは難しい。何せ相手は生物だ。攻撃が来るとわかれば防御や回避行動に移る。それを悟られても、尚、避けられぬほどの速さと正確さで振り抜かなければならなかった。
「……よし、次」
だが、勇輝はそこでは止まらない。右の曲道に専念していたが、もう片方の左の道がどうなっているかを把握していなかった。すぐに振り返ると、そこには呆れた顔をした正司が佇んでいた。
「驚いたな。今の一瞬で小鬼とはいえ四体も倒すか。これなら、馬車を襲われた時にそこまで心配する必要はなかったな」
「そちらの敵は?」
「いや、こっちは何もいない。その四体で全部だ」
そう言われて勇輝はほっと息を吐く。軽く血振りをした後、面倒なのでそのままコートの内肘の部分で刀の峰側から刃を挟むようにして拭き取った。
「さて、どちらに進むか……。それとも、ここで二手に分かれてみるか」
「いや、時間に余裕はある。ここは戦力をわざわざ分散する必要はないだろう。各個撃破される危険を冒すのはまだ早い」
隆三の言葉に武士たちも頷く。急いては事を仕損じる。それを理解している彼らも村の女たちを救いたい気持ちが逸るのを堪えているのが、傍から見て分かった。
「よし、それじゃあ――――」
そう声を出した時だった。正司の背後から野太いほら貝のような音が聞こえて来た。誰もが驚いてそちらを見るが誰もいない。慌てて正司を先頭にして駆けていくと、さらに曲がった道の先で小鬼が一匹大きな角を口に当てて吹き鳴らしていた。
小さな体のどこにそんな力があるのか。体の芯まで震える様な大音量が響き渡り、洞窟のあらゆるところに反響して襲い掛かってくる。
「うる――――さい!」
ここまで騒がれてしまえば、鬼たちに破壊音が聞こえてしまっても仕方ない。勇輝はそう判断して、ガンドを一発放った。呆気ないほどに小鬼の顔半分と笛が抉れる。膝から一気に崩れ落ちた小鬼の亡骸を呆然と一同が見つめながら、耳を澄ます。
誰かがごくり、と唾を飲み込む音が聞こえた気がした。やがて、遠くの方から何かが聞こえてくる。
――――ォォォオオオオ!
「マズイな。奥の方で誰かが気付いて角笛を吹きやがった。これは、もうすぐ押し寄せてくるぞ」
「どうする。一度退いて、戦いやすい場所で迎え討つか?」
「……あんた、本気でそう思ってるか?」
「まさか。無論、前へ。我々が攻めてきたとわかれば、村の女を人質にして何をしでかすかわからん。ならば、ひたすら前に進むのみ」
そう答えた武士の瞳に迷いの色はなかった。もし、ここで命を落とすような状態に陥ったら、一体でも多く鬼を道連れにしてやるという気迫すら感じた。
「……俺と小娘はこの道を進む。お前たち四人は反対側を頼む。また分かれ道があるようだったら、さっき決めたように更に二手に分かれてくれ」
「どうせ村の住人連れて脱出するのに魔物は邪魔なんだ。一体残らず狩りつくせばいいよね」
アリスは今から来るであろう小鬼の軍勢を心待ちにしているようにすら感じる。拳の関節を鳴らしながら、アリスは歩き出した。
「それじゃあ、みんな。また後で会おうね。大丈夫、大丈夫。きっと戦の神様の御加護があると思うから、誰も死にはしないって!」
「よし、この先は今まで以上に危険だが、何とかやるしかない。腹くくって行くぞ!」
互いに頷くと、二手に分かれた勇輝たちは駆け足で移動を始めた。せめて村人たちに被害がないことを祈り、洞窟の中を素早く駆け抜けていく。
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