連戦Ⅱ
「俺が右に行く! 左を!」
「ちょっ――――あぁ、仕方ねぇ腹くくるか!」
勇輝が小さく正司へと告げると一気に駆け出す。それを見て正司も遅れて飛び出した。
壁に映る小鬼らしき影はだんだんと大きさを増し、話している声も迫って来ている。足音を気にせずに前へと進む二人の後方で、他の者も援護の為に動き出した。
やがて右側の通路から赤い小さな腕がひょっこりと腕を出す。それを視認した瞬間、勇輝の体がトラックに撥ねられたかのように加速した。
狙うは無防備に出てくる首。それを八相よりも更に上へと振り上げた状態で飛び込んでいく。天井は高く、これだけ大きく振り上げても切っ先が上に届くことはない。最大限の威力を以て絶命の一撃が放たれる。
スローモーションの様に流れていく景色の中で、小鬼が向こう側から顔を出すのが見えた。幸運にも誰かと話をしているようで、顔はこちら側には向いていない。そのまま勇輝は刀を肩口ではなく、首の根元へと袈裟斬りに斬りつけた。
洞窟の細かな砂利と滑らかな岩肌に足を滑らせながらも、両足で踏ん張って何とか急停止する。斬った小鬼の後ろには松明を持った個体が一体。更に後ろに二体の小鬼が並んでいた。
いずれもまだ何が起きたかを理解しておらず、呆けたまま口を開けて固まっていた。
「――――ア゛ッ……アァ……」
首の半分以上を斬られた小鬼は、口と首から血を吹き出しながらくぐもった声を挙げる。だが、口から出てくるのは血の泡ばかりで、僅かばかりの声も掻き消されていた。
腕を交差し返す刀を半回転させると、振り切ったその位置から斬り上げる。松明を持っていた小鬼の右手が空中に飛んだ。それが落ちるよりも先に、勇輝は頭上に振り上げた手を再び返して左足と共に前へと詰める。腕の勢いを殺さず、左袈裟斬りで小鬼へと振り下ろす。
ここに来て初めて、小鬼たちの顔に恐怖の色が浮かんだ。しかし、悲鳴が上がるよりも先に首から左の脇までが、骨をものともせずに切断され、即座にずるりと地面へ向かう。
「ギッ……!?」
後ろにいた二体がようやく前の二体に起こっていた事態を認識したらしい。
いつの間にか人間に攻め込まれている。それは瞬時に、自分たちの命の危険へと直結していることを感じ取ったに違いない。腹、胸、口へと命令が飛び交い――――悲鳴という行動で仲間を呼べ、と。
「――――ふっ!!」
小さく、しかし、鋭く。勇輝の口から息が吐きだされた。このまま行けば、数秒と経たずに目の前の小鬼たちが騒ぐことは理解できていた。
「(小鬼とはいえ、骨ごと両断できるほどの刀だ。これなら……できるな)」
房義から購入した刀の強度と切れ味を未だに把握しきれていなかった勇輝だが、今、この瞬間にある程度の無茶が効くと、手の感触だけで感じ取った。何せ鎖骨から背骨と肋を何本も巻き込んだにも拘わらず、見事な一直線を描ききったのだ。その切れ味は間違いなく上物中の上物であるのは言うまでもない。
こう言ってしまったら当人は嫌がるかもしれないが、巌切の名を刻んだ刀の匠の息子だけあって、流石の仕上がりである。もしかすると、父である久義が作った巌切も実際に「巌』」を「斬った」ことがあるのかもしれない。
そうとは言え、今からやろうとしていることは勇輝自身初めてだ。しかし、成功させなければ敵にバレてしまうのは必至。脇構えとも下段とも言えない振り切った状態から、上半身を先行させて加速する。
一見無防備に思える行動だが、小鬼の手には武器もない。気を付けるべきは爪と角。或いは牙程度だろう。加えて、相手は勇輝の出現に動揺し、それに影響されて足は下がろうとしている。交戦の意志がない者に対して、何を恐れることがあるだろうか。
加速と共に一度後ろへと伸びた刀は数瞬の後、移動速度を遥かに超える速さで横一文字に振り切られた。
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