奇襲Ⅵ
目の前の小鬼の首を斬り落とし、勇輝はすぐに奥の小鬼たちへと目を向けた。そこには二体の小鬼の喉を片手でそれぞれ締め上げたまま、入口の方まで引き摺ってきているアリスがいた。
「あ、どうする? このまま、締め殺した方がいい?」
「……あの娘には逆らわない方がいいな」
「うむ」
後ろから畏敬の念が籠った言葉が聞こえるが、勇輝はそれを無視して正司へと視線を送る。別にこのままならば、勇輝が刀を突くことで絶命させることができる。
「一体ずつ離せ、俺が処分する」
正司がアリスの側まで行くと、右手の小鬼に手をかけた。アリスが手を離した瞬間、顔を地面に叩きつける。そして、流れる様な動きで素早く小鬼の喉を刀で切り裂いた。小鬼ならば大鬼と違って、まだ刃が通る。地面に血だまりが広がる前に、もう一体の小鬼も同様の動きで殺す。
「……別にそんなことをしなくても私ができたのに」
「お前さんみたいな子供の手を汚させたくないだけだ」
呟くように言ったその言葉にアリスは若干、ムッとした表情を浮かべる。
「詭弁だね。生きるのに年齢も性別も関係ない」
「そうだとしても、だ。俺の心情としては幼い子供が戦うのが許せない。例えたったの二体でも俺が殺したことに出来るなら……それでいい。偽善だと笑うなら好きにしろ」
勇輝も正司の言葉には思うところがないわけではなかった。初めてこの世界でギルドを訪れた時、桜が薬草の依頼を受けていると聞いて、ほっとしたことを覚えている。流石にこの世界は少年少女を魔物と戦わせるような酷い世界ではないのだ、と。
しかし、ここ数か月。こちらの世界で暮らしてみてわかったのは、世界はそこまで優しくなかったということだ。盗賊や山賊もいれば、裏路地にはごろつきもいる。実力に対して適正な魔物と戦っているならまだしも、ドラゴンや魔王の配下、挙句の果てに正体不明の秘密結社の親玉にまで狙われる始末。
もちろん、自身が特異な状況に置かれていることは理解しているが、それを差し引いても危険であることには変わりない。
銃や戦争とは無縁な日本で育ったが故に、改めて今の状況が異常だということを認識する。或いは日本という場所が平和過ぎたのかもしれない。だからだろうか、気付けば口が開いていた。
「俺は笑わない。誰も武器を持たなくて済むなら、その方がいいに決まっている」
「……」
「でも、理想と現実は区別しなければいけないのも事実。今は人の命を救うのが最優先。その為なら信条の一つや二つは捨てるのも覚悟しないと」
正司はふっとため息をつくように笑った。逆にアリスも含め、誰も正司を笑ってはいなかった。
「そうだな。それじゃあ、さっさと中に進んで行こうか。そろそろ、隆三さんもこっちに来ると思うし」
そう言って、正司は暗闇の広がる茂みを見渡す。この暗さでは小さな灯りがあるとはいえ、足元が見にくいことには変わりない。隆三が来るまでは多少時間がかかる。
入口にいた全員を殺したという安堵から、ほんの少しだけ空気が緩む。それ即ち、油断と人は言う。
「――――ナニッ!?」
唐突に人ではない濁声が勇輝たちの耳に届く。心臓が跳ね上がる感覚に襲われるのも一瞬。即座に振り返ると、そこには松明を掲げた小鬼が倒れ伏した仲間と勇輝たちを交互に見ていた。
――――マズイ。
全員が瞬時にそう判断した。せっかくの暗殺が成功したというのに、まさか奥から小鬼が出てくるとは思わなかった。更に最悪なのは、小鬼のいる場所が洞窟の奥へと続く通路にいることだ。そこから出て来たばかりなのだから、すぐに逃げ込んで勇輝たちの存在を知らされてしまう。
「大変ダ――――!?」
正に小鬼が大声を出して逃げ込もうとした矢先、その上半身から上が弾けた。隆三が矢を放ったわけでもアリスが距離を詰めて殴り飛ばしたのでもない。
勇輝は刀を持ったまま突き出していた右手の人差し指を畳んで、何事もなかったかのように提案する。
「今ので小鬼が集まってくるかもしれないです。気を付けましょう」
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