放棄ダンジョン稼働Ⅲ
ここまでは一本道。そのまま大玉に追われて逃げると、丁字路まで戻ることになる。
それならば、と全員の視線は壁の方へと向けられた。
「この壁に寄りかかれば、大玉から逃げられそうです」
「でも、使ってくださいって用意したような壁の方が怪しいんじゃ」
「そんなこと言ってる間に潰されちゃいますよ!?」
桜とソフィが慌てる中、勇輝は迫る球に目を凝らす。通路の幅ギリギリの直径だが、天井との間にはわずかに余裕がある。逆に言えば、そのわずかな隙間すら塞いでしまえば、大玉は止められるだろう。
「桜、岩の槍で止められるか?」
「岩の槍で――って、そうだね。アレなら確かに止められるかも!」
杖を前方に向けて詠唱をする桜。その横で勇輝は、万が一に備えて右手の人差し指に魔力を集める。
ただし、桜を見るふりをして、目の端でエアを捉えたまま。
「……あれ?」
桜の口から声が漏れた。聞き慣れない声音に勇輝は思わず彼女を見る。
すると桜は焦った表情で、杖を何度か前に突き出していた。
「ま、魔法が発動しない!」
「さっきまで火球は使えていたのに?」
そうこうしている間にもトラップの球は迫ってきている。
簡単に止められると思っていただけに、勇輝は動揺しながらも球に照準を合わせた。変な場所に貫通して当たらないことを祈りながら、魔力の弾丸を発射する。
一瞬、得意のガンドすらも発動できないかと不安に襲われたが、幸運にも勇輝の魔眼には一直線に飛ぶ魔力の尾が見えていた。
着弾と同時に、通路の中に轟音が響き渡る。
ガンドは貫通し、直撃した弾はもちろん、その向こうの通路の何かを破壊するのが見えた。
「さ、さすがミスリル原石を砕くガンド。本当に危ない時は、真上に撃って脱出もできそうです。でも、どうして桜さんの魔法が発動しなかったんでしょう?」
「もしかすると、外壁に使われている様なミスリル原石が地面にも埋まっているのかもしれません。それならば地面から出現させる岩の槍が無効化されるのも納得がいきます。でも、それよりもさらっと恐ろしいことを言ってませんでしたか? ミスリル原石を砕くとか……」
エアがソフィの呟きに頬を引き攣らせる。
土煙が晴れると、岩の球は完全に砕けていた。その後方の通路は十数メートル先から石畳が抉れ、捲れ上がっている。歩くことは可能だが、進みにくいことは確かだ。
「勇輝さん、どうして横に逃げなかったの?」
「試したのは二カ所だけで、全員が逃げられるとは限らない。それにソフィの言った通り、そんな都合のいい物が用意してあるとは思えない」
加えて、今までのダンジョンでは何かしらの仕掛けがあっても、即死級の物を何のヒントもなく設置してあることはなかった。
もちろん、これが失敗作のダンジョンだというのならば、それも納得だ。だから、一番確実な方法は罠自体を破壊するという力業だと勇輝は判断した。
「それよりも、今の音を聞きつけて魔物が寄ってくる可能性がある。その前に休める場所に移動する――ですよね?」
「え、えぇ、そうですね。勇輝さんの言う通りです。さぁ、どんどん行きましょう! 足元に気を付けて……」
自分で自分に言い聞かせるようにエアは前を行く。その背中を見ながら勇輝は首を傾げた。
先程の罠を踏んだのはエアだった。そして、その前に壁が窪むのを見つけたのも彼女だ。果たして、それは偶然だったのか。
そうでないというのならば、エアはこのダンジョンの構造を知り、勇輝たちに攻撃を仕掛けてきたことになる。そこから想定されるのは、彼女もまた妹のアリスと同じ陣営で、危害を加えようとしているということ。
(でも、アリスは俺に直接危害を加えようとしたことはない。精々、試合形式で戦ったくらいだ。それに日ノ本国で村の人を助けてくれたこともある。一概に敵とは言えない、か)
何よりも攻撃される理由がない。ただの考えすぎかと勇輝はエアの後ろを追った。
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