放棄ダンジョン稼働Ⅱ
エアは勇輝たちが声を掛ける前に、どんどん進んで行ってしまう。慌てて、追いかけるが、止まる気配はない。
治療という点においては、この中にいる誰よりも意識が高いだけあって、完全に休める場所のことしか考えていない。
「そ、そんなに急いだら、逆に疲れてダメになっちゃいますよ」
「……それもそうですね。少し落ち着かなければ」
桜が咄嗟に放った一言が、エアを呼び止めることに成功する。その間に追いついた勇輝たちは、安堵の息を漏らした。
体力の消費もだが、一番恐ろしいのは離れてしまうこと。特にトラップによって分断されることだけは避けなければならない。
「エアさんって、集中すると周りのことが見えなくなるタイプだったんですね」
「薬を作り始めると、気付いたら半日経っていたなんてこともありますね。悪い癖だとわかっているんですが、どうしてもやってしまうんです」
頬に手を当てたエアは、もう片方の手で通路の壁に寄りかかる。
――スコン。
あまりにも間抜けな。ともすれば、この石で作られた通路において似つかわしくない音が響いた。
全員の視線が引っ込んだ壁の一部を見つめる。
「もしかして、だけど……トラップ?」
「でも、こんな変なところにピンポイントでトラップを仕掛けないと思いますよ。他の所も引っ込むならば話は別ですけど、普通は床とかに用意するものじゃないですか」
そう告げたソフィは別の壁に手を当てる。
――スコンッ。
もう一つ、壁の一部が正方形の形のまま押し込まれた。
さすがにこの場にいる全員の顔が蒼褪める。
「ゆ、勇輝さん。魔眼で何か見えない?」
「いや、特に変化はない。どこか遠くで何かが動いた音とかは?」
耳を澄ませ、自分たちの声の反響が消えるのを待つ。聞こえるのは空気が流れる音くらいで、他には何も聞こえない。
想定されるトラップはいくつかあったが、そのどれも発動する気配すらなかった。
「そういえば、俺の魔眼でトラップがある場所とか見えてたけど、ここでは特に見えていなかった。じゃあ、トラップ擬きってことか?」
ダンジョンでは大抵の場合、起動する際に魔力の伝達が使われていることが多いのか。起動前から勇輝の魔眼に映る。その為、ただ引っ込んだだけという状況だ。
まさか、トラップが発動すると思わせるトラップというものが存在するとは夢にも思っていなかった。
「……引っ込むだけの壁なんて、何のために必要なんだろう?」
「……さぁ?」
桜と共に首を傾げていると、エアたちが手を放した壁の一部が元に戻り始めた。
すると、エアは背中で壁に寄りかかる。
「おぉ、この壁って、どこも引っ込むようにできてます。力入りますけど、このまま体が全部埋まるまで行けそうです」
「それで壁に嵌って動けないとかやめてくださいよ。助けるの面倒そうなので」
勇輝はコロコロと表情を変えながら、行動方針も変化するエアに何とも言えない表情を浮かべるしかない。
そんな勇輝の表情からマズイと察したのか、慌ててエアは壁の中から戻ってくる。
「そうだ。勇輝さんが休めるように部屋を探さないといけないんでしたね。じゃあ、進むのを再開しましょう!」
一歩を踏み出したその時、今度は足元からカチリと音がした。すぐに勇輝に魔眼が向くが、パッと見た感じでは何も映っていないように見えた。
しかし、目を凝らすと、細い一筋の線が道の先へと続いているようだった。通路のはるか先の灯りが消え、遅れて小さな地響きが聞こえてくる。
「何か、嫌な予感がするな」
「何かが……近付いて来てますね」
地響きだけでなく、足下が強い振動を感じ始める。この段階で四人の脳裏には一つの光景が既に浮かんでいた。
代表的な物理トラップ。大きな球が転がってくるタイプのトラップだ。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




