放棄ダンジョン稼働Ⅰ
注意しておくべきことだった。そう勇輝は数十分前の自分の愚かさに顔を顰めた。
目の前にいるのは、王都の中にいるはずのないゴブリン。それも十数体と大所帯だ。
勇輝たちの実力からすれば、臆することもない雑魚敵ではある。しかし、体力も魔力も温存したい状況においては、これほど邪魔な存在はいないだろう。
弱い癖に数だけは多い。魔法を使おうものなら、いくら残存魔力に余裕があっても不安になってくるというものだ。
「ゆ、勇輝さん、一人で戦うことないのに……」
「近接戦闘で魔力を温存できるのは俺だけだからな。ゴブリンくらいなら、余裕だから気にしないでくれ」
勇輝は血を袖で拭いながら、静かに告げた。
身体強化など使うまでもない。狭い通路内では一斉に襲い掛かられても三体が限度。心刀の切っ先で棍棒を逸らし、頸動脈を切るだけであっという間に無力化できる。
そこには速度など必要ない。純粋な技術とそれを行うだけの胆力があればいい。
毎晩、夢の中で死闘を繰り広げている勇輝にとっては朝飯前だった。
「油断してた。通路の魔法石が明るくなった時点で、魔物が出現するかもって考えていたけど、完全に頭からすっぽ抜けてた」
「それは私たちも同じです。でも、良かったじゃないですか。火球を先行させてたおかげで、すぐに気付けましたから」
ソフィは新たな火球を生み出しつつ、フォローする。彼女の言う通り脅威にはならない出来事だったが、勇輝としては腑抜けていた自分が許せない気持ちの方が上回っていたようだった。
心刀を納めた後も、じっと魔眼でその先を注視して、他に魔物がいないかを警戒している。
「何か、気負い過ぎているように思えるのですが、何かあったんですか?」
エアの問いに、勇輝は首を横に振る。
特段、何かがあったのではなく、単純に自分が許せなかったというだけだ。ただ、それは他の人からすると奇妙に映ったらしい。
勇輝が振り返ると、三人とも心配そうな視線を投げかけていた。
「うーん。勇輝さんって、変なところで心配性だから」
「それならば、ラベンダーやカモミールのハーブティーをおすすめしますよ。ちょうど、ポーチの中にあるので、休憩する時にみんなで飲みましょう」
女子たちの表情が明るくなる。一方で、勇輝だけは首を傾げていた。
どうして、この状況でもお茶を飲むことにそこまで喜べるのか、と。
「考え方の違い? いや、そういうのとは違うような……」
『良くも悪くも、お前と違って物事を真正面から受け止め過ぎてないだけだ。お前の知る剣技にも受け流す技はあるはずなんだが、日常生活でも活かせないもんかね?』
正論がいきなり飛んできて面食らってしまう勇輝。
心刀の声は勇輝にしか聞こえていなかったようだが、何故かエアだけは急に勇輝の腰へと視線を落とした。
珍しい物を見たような。あるいは、懐かしい物を見たような。何とも言えない表情をしている。
「その武器、変な感じがしますね。こう……魔力を勝手に発しているというか……」
「あぁ、こいつですか? 魔剣の類なので気にしないでください。害は悪夢を見せるくらいですし」
「悪夢ですか? それは普通に危険なのでは? 睡眠中にしっかり休めていないのは、体にも悪いと思いますよ」
本気で心配した表情浮かべ、急に顔を近付けてくる。
左右上下と様々な方向から見れるようにと、両手で勇輝の頬を抑えて捻り始めた。
「あ、あたたっ!?」
「顔色、瞼の裏も問題なし。腫れもないですが、少しだけむくみがある感じですか。あと、首の後ろから肩にかけて固くなってますね。やはり肉体の疲労は抜けきっていないのでは?」
医者のように診察を開始され、抗議の声も出すことができず、勇輝はされるがままになる。
一通り見終わったエアが下した判断は、即座に休憩をすることだった。
「で、でも、出口を見つけてからの方が……」
「そんな状態でダンジョン内を歩く方が危険です。すぐに部屋になっている場所を探しましょう。そうすれば、すぐに休めますし、横にもなれます」
石畳の上で寝ても辛いだけなのでは、と勇輝は疑問が浮かんだが、それを口にすることはできなかった。
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