廃棄ダンジョン稼働Ⅳ
しばらく歩き続けるとエアの望んでいた開けた空間に辿り着いた。
トラップが隠されている様子はないが、魔眼に反応しにくいものもあることが発覚したので油断はできない。
勇輝たちは恐る恐る中へと足を踏み入れる。
「魔物とかがいっぱいいるかと思ったけど、特にそういうこともなかったな」
「上の天井が開いて魔物が落ちてきても、私は驚きませんよ」
ソフィは杖を握りしめたまま警戒を続けている。
彼女が本気を出せば、罠の捜索は容易いだろうが、魔力の消費も激しくなる。
迂闊に魔法を使うわけにもいかず、ソフィはやきもきしているように見えた。
「……気付いたけど、もうマスクは外していいのか?」
「ちょっと、怖いよね。まだ、変な臭いしそうだし……」
桜はマスクを抑えつつ周囲を見た。
見た目は石に囲まれるばかりで水が染み出す様子はない。
下水がここまで到達してはいないだろうが、臭いまではわからない。
そんな中、真っ先にマスクを外したのはエアだった。
「大丈夫です。深呼吸しても、問題ないくらい何も臭いません!」
「……勇気、ありますね」
あまりにも軽率な行為に、勇輝たちは顔を見合わせることしかできない。やっと出てきた言葉ですら、何とか絞り出したからか、変に区切れてしまった。
医療に携わるタイプなのに、研究者肌だから自分を実験動物的に扱っている。
そう考えているとしか思えない無謀な行為を前に、勇輝は大きく息を吸い込んでからマスクを外した。
「だ、大丈夫ですか?」
心配そうに覗き込むソフィの前で、勇輝は息を止めたまま待つ。
鼻の中に嫌な臭いが流れ込んでくる気配はない。
次に呼吸を小さく繰り返し、鼻の中に空気を吸い込ませていく。
二度、三度と回数を重ねるごとに吸い込む息の量を増やす。
そして、意を決して大きく深呼吸をした。
固唾を飲んで見守っていた桜たちに、勇輝は引きつった笑みを浮かべる。
「呼吸に問題なし。ただ、かび臭さはあるかもしれないな」
勇輝の言葉を受けて、桜とソフィもマスクを外す。
桜は両手で口を抑え、ソフィは鼻をつまんでいる。
しかし、数秒すると二人とも手を離して安堵の表情を浮かべた。
手で顔を扇いで、息苦しい世界から解放されたことを喜んでいる。
「これならポーションも飲めるから、魔力の心配が少し減るね」
「とりあえず、腰を下ろしましょう。魔法を使えば汚れも気にならないでしょうから」
エアが地面を指差すと、水の球が石畳の上を滑りまわり始める。
瞬く間に水は黒くなっていき、代わりに石畳は白くなる。横になれるかどうかはともかく、座るには問題なさそうだ。
「マスクが外れたおかげで、ちょっとリラックスできそうかも。でも、状況は何も変わってないんだよね」
「そうだな。上に繋がる階段とかがあればいいんだけど……チビ桜の方は?」
「全然ダメ。人どころかネズミ一匹すら見かけないもの」
一拍おいて、二人でため息をつく。その目の前で、エアは空中に水を浮かべ、その中に粉末を入れつつ火であぶり始めた。
「とりあえず、皆さんにはハーブティーを用意しますね。特に勇輝さんは、疲れが取れるように念入りに濃くしたものを用意するので、そのつもりでいてください」
「お、お手柔らかにお願いします」
どれだけ濃い物を飲まされるのかと戦々恐々の中、心刀が思念で話しかけてくる。
『おい、あの姉ちゃんだがな。水属性の魔法と同時に火属性魔法を操ってるぞ。やっぱり、只者じゃないな』
二つの魔法の同時使用。それも一瞬ではなく、水を浮かせたままでの継続発動。
勇輝の魔眼は、指輪を中心に複雑な螺旋を描きながら、二つの魔法の発動地点に向かう赤と青の光を観測していた。
警戒の二文字が勇輝の脳裏をよぎる。しかし、むしろ魔法を勇輝たちの為に使ってくれていることを責めるわけにもいかず、その光景を見守ることしかできなかった。
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