隠し通路Ⅶ
エイアは目を瞑って小さく唸った後、両手を挙げて首を横に振った。
「ごめんなさい。あの子がやりそうなことが多すぎて、何をやらかしているかわからないので、とりあえず降参しておきます」
「……日ノ本国では何事もなく一緒に活動していたのに、とか疑問には思わないんですか?」
アリスとは言葉を交わし、敵対的な状態で別れることになったが、そのことをエイアは知らないだろう。
それでも受け入れてしまう彼女に、勇輝は逆に不安に陥った。
そんな勇輝を前に、エイアは苦笑いで頷く。
「えぇ、正直、私もいろいろと迷惑を被っていますし、彼女なら親しい人であっても無礼なことをしかねませんから」
「……それって、少しマリーちゃんに似ているところがあるかもしれませんね。私は出会ったことがないのでわかりませんが、武器を抜くほどのことなんですか?」
ソフィは日ノ本国にいる勇輝と思念で会話したことがあっても、実際に訪れたことはない。もしかしたら、マリーたちからは何か聞いているかもしれないが、詳細は知らないはずだ。
「クロウさんを覚えてる? あの人と仲間みたいなの」
「あぁ、あの不思議で、強引な人ですね。私としては、一応は助けてもらった立場なので何とも言えませんけど……」
クロウの行動は両極端だ。
自分の仕える王族を暗殺しかけたかと思えば、フランやソフィを救助するという人助けをしている。そして、勇輝たちの命も何度か救われているのは事実だった。
「アリスが手を組んでいるのは、日ノ本国の水皇を暗殺しようとした諜報部隊の裏切り者です。当然、それだけ危険な行為をしている者の関係者なら、血縁者を警戒するのはわかっていただけますね」
「そういうことですか。まぁ、戦闘好きな彼女ならば、ありえそうな話ですね。でも、それで私には自らの潔白を示す方法がありません」
「えぇ、ですから――こちらに魔法を使う素振りを見せないでください。俺の魔眼は、その前兆を見切ることができます。万が一、攻撃するようならば、こちらも容赦はしません」
「……わかりました。では、『私を勇輝さんが見張る』ということで」
互いの視線が交わる。その一瞬の交錯で、勇輝は同意の意思が汲み取った。
勇輝は半歩引いて、心刀を納める。
気温が数度上がったような錯覚を覚えながら、勇輝は息を吐き出した。
「……ところで、エアさんはどうしてここに? というか、いつの間にこちらに戻って来ていたんですか?」
「日ノ本国で危険な魔物が出たと聞いて、戻ってきたんです。さすがに、私では襲われたらひとたまりもありませんからね。それであちらから入手した薬草をつかった薬を作っていたんですが、魔術師ギルドから下水清掃の要請が来まして――」
頬を膨らませながら、エイアあらためエアは、怒り心頭と言った様子だった。
初めて会った時も熱心に植物を調べていたことからすると、研究を邪魔されたと感じているのかもしれない。
「――結局、断り切れずに下水に入ったら、壁が崩落してしまったのです。さっさと一人で終わらせる予定だったので、パーティーも組んでいなかったのが仇になりました」
「よくパニックにならずに行動できましたね」
エアの恰好に乱れたところはなく、体力も気力も共に残っているようだった。
戻る手段がない勇輝だったならば落ちた所で大声を出し続けて、体力を無駄に消費していたかもしれない。
「まぁ、一人で活動していると滑落とか、遭難とかよくありますから」
「い、意外と逞しい方なんですね。見た目と違って……」
ソフィは出てきた言葉が想定外だったのか、何度も瞬きしている。
彼女の言う通り、腕も足も細く、山や森の中で何日も生きていけるようには見えない。ただ薬師を名乗っている以上、怪我や病気の治療はもちろん、緊急時の対処についても心得ているのかもしれない。
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