隠し通路Ⅵ
反響する靴音の中、染み出して流れる水の音が聞こえてくるような気がする。
ただ、その液体という存在がどうしてもスライムを連想させた。今にもどこかの壁の隙間から、自分たちを追ってきたスライムが出てくるのではないかと思ってしまう。
「さっきの大きな隙間を通れなかったんだから、こんな亀裂から出てくるはずないよな……」
「どうでしょう。単純に高さがあったから、進むべきか悩んでいたのかもしれません。私たちを見て、動きを止めていたみたいですから、知らない者や場所に関して躊躇するくらいの知性はあると見た方がいいでしょう」
どこにでも出現する可能性があり、姿は見えず、危険を認識する知性が備わっている。
推測も混じっているとはいえ、できあがっていくスライムの正体像は恐ろしいの一言に尽きる。場合によっては魔王よりも対処が面倒なのではないだろうか。
「出現したら『私が敵です』ってわかる魔王の方が、よっぽど優しいかもな。魔物を引き連れてくるらしいし」
「それはそれで怖いけどね。大量の魔物って、ローレンス領近くのダンジョンが氾濫した量よりも絶対に多いと思うから――」
桜の言葉の途中で三人は唐突に足を止めた。
その理由は明らかで、足音が一人分多かったからだ。聞こえてくる方向は反響でわかりにくかったが、止まった今ならば即座に判別できた。
しかし、曲がり角になっていて、相手の姿は見えない。
「前から、誰か来る……?」
勇輝は心刀の鯉口を切り、腰を落とす。
少なくともスライムではない。では、誰か。
勇輝たちと同様に、偶然、ここに辿り着いた何者か。それとも、ここが何かを理解している者か。――それとも、悪意ある敵か。
小さく息を吐き出す勇輝の思考が、全て前方への警戒に注がれる。
「そこにいるのは誰だ?」
ある程度、靴音が近付いてきた所で勇輝は問い掛けた。
返事が返ってくるならば、意思疎通は出来る。だが、反応がないとなると危険度は一気に跳ね上がるだろう。
「だ、誰かいるんですか? 良かった。実は迷ってしまっていて――」
通路の向こうから、足早に進んでくる音が響く。ひとまず敵ではないことに安心した勇輝は、心刀を納めた。
「俺たち以外にも迷い込んだ人がいたのか。これなら、地上でも捜索が始まるのは結構早くなりそうだな」
「そうですね。あちらから来る女性がどこで活動していたかなど、詳しい話を聞いてみましょう」
ソフィの言葉に頷いて、勇輝たちは前方へと進む。すると、曲がり角の向こうから銀髪の女性が姿を現した。
「助かりました。ここ、迷路みたいに入り組んでて、どこがどこだかわからなくなってしまいまして……」
その人物に勇輝と桜は見覚えがあった。桜の実家がある日ノ本国の雛森村。そのはずれにて出会った薬師で、エイアと名乗る女性だった。
勇輝は即座に心刀を抜き放ち、切先をエイアに向ける。
「ど、どうしたんですか!? 私、何かしちゃいましたか?」
通路の灯りを跳ね返す青い瞳を瞬きさせて、立ち竦むエイア。そんな彼女に勇輝は淡々と告げる。
「いえ、あなたに何かをされたわけではありませんが、妹のアリスさんには因縁がありましてね。必然的に、姉であるあなたも信用できないんですよ」
敵対関係にあるクロウと名乗る日ノ本国の元諜報部隊の男とアリスは手を組んでいた。
日ノ本国を襲った組織の長の証拠を破壊されたこともあり、クロウに至ってはテロリスト紛いな行動を繰り返している。エイア自身が何もしていないとしても、警戒するには十分だ。
「なるほど、そういうことですか。それなら、その対応も納得ですね」
「えぇ、エイアさんがしっかりと説明をしてくれるならば、俺たちも前のようにエアさんと呼ぶこともできますが、今はそうはいきません」
勇輝は魔眼でエイアの指を注視する。
琥珀の嵌った指輪で植物に干渉する魔法を扱うのは見たことがあった。森ではないが、何が起こるかが逆にわからないのが恐ろしい。
できることは、魔法の発動の兆候を捉えて、先手を打つことくらいだろう。
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