魔王の置き土産Ⅶ
問題は蠢いている存在――仮に本当に蛇になったとして――が、あまりにも大きい。
その巨体相手に一人で立ち向かうのは無謀だ。
だからといって、集団で近づけば尾の一振りで全滅しかねない。
近接戦は少数精鋭。その他は遠距離から援護するのが適しているように勇輝は思えた。
「神官による結界の多重展開。神殿騎士と黒騎士の精鋭による足止めと陽動。それらで隙を作り出し、本命の勇者の一撃で仕留める――それなら、いけるのでは?」
レオ枢機卿が早口でまくし立てる。しかし、聖剣からの返事は無慈悲なものであった。
『確かに俺様は魔王やその配下に対して、絶大な力を発揮できる。でも、それにだって、限界はあるんだ。アレだけの巨体は、弱らせないと厳しいぞ』
「……具体的には、どのような?」
『人間と同じだ。血が流れ、身体がえぐれ、戦うのがしんどいってなるくらいにはならないとな』
「それまでに、どれだけの犠牲が出るか……」
レオ枢機卿は歯を食いしばり、暴れる尾を睨む。
「レオ枢機卿の案は間違っていません。問題は、それを達成するまでの時間が限られていること。こういう時こそ、我々の出番ではありませんか」
リブラ枢機卿の瞳に今までにない光が宿る。
他の枢機卿たちも、次々に目が据わっていき、空気がひりつく。
「初撃で我々の魔法を叩き込み、可能な限りダメージを与えます。森にも被害が出ますが、迷っている場合ではありません」
それでも、無理な場合はレオ枢機卿の布陣で、マックスも含めてダメージを蓄積させなければならない。
「勇輝さん――いえ、正確には、あなたの扱う剣にお聞きしたいことがあります」
リブラ枢機卿が心刀を見下ろす。勇輝も何事かと、自身の腰へと視線を向けるが、心刀からの返事はない。
「確か、あなたは切った相手のことを理解できるとのことでしたね。あれを斬れば魔王に関する情報が手にはいるのではないですか?」
『……ゼロとは言わないが、そう都合よくわかると思われたら困る。まぁ、試してみる価値はあるかもしれないな』
心刀は可能性を示唆するが、勇輝としては首を簡単に縦に振るわけにはいかない。何しろ、そういう約束を桜としてしまっていたからだ。もう自分勝手には動かない、と。
つまり、勇輝が大蛇と化したダンジョンと戦うかどうかは、桜の一存にかかっている。しかし、そうとは知らないリブラ枢機卿を始めとする大勢の視線は、勇輝へと注がれていた。
「……勇輝さん、止めてもいくつもりでしょ?」
「悪い。できれば、マックスさんたちの力になりたいんだ。俺の命の恩人だから」
初めてこの世界に来た時、王都まで送り届けて冒険者にしてくれたのはマックスたちだ。彼らのおかげで冒険者となり、生き延びることができたと思っている。
そうでなければ、勇輝は今頃どこかで野垂れ死んでいただろうし、ファンメル王国がそもそも存在していたかどうかも怪しいところだ。
だから、勇輝としては、その恩を返したいという気持ちが強かった。
「まぁ、そこが勇輝さんの良いところだものね。私も手伝うから、絶対に無事に帰って来て。それが条件」
「ありがとう、桜」
勇輝の強張っていた頬がわずかに緩む。正面へと向き直り、静かに勇輝は告げた。
「俺も、あの魔物の退治に参加させてください」
「おいおい、大丈夫か? お前になんかあったら、嬢ちゃんがブチ切れ――もとい、悲しむぞ」
「そうならない為に頑張るんです。それに最初から殺されること前提に突撃すると思いますか?」
ウッドの言葉に勇輝は肩を竦める。
内心、何度そんな無謀な戦いをして来たか、と自分自身にツッコミを入れていたことは秘密である。
「決まりだな。俺と勇輝が最前線。ウッドやソフィアがそれをフォロー。それ以外は、離れたところからの援護ってところか。そうと決まれば、さっさと現場に行きたいんだが……聖女さんたちがまだっぽいな」
「彼女たちが到着次第、こちらで説明をします。あなた方は先に向かってください」
リブラ枢機卿に促され、勇輝たちは背後の階段へと駆け始めた。これから出会う魔物が、ただの大蛇ではないと自分に言い聞かせながら。
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