魔王の置き土産Ⅵ
神殿騎士と共に勇輝たちは、枢機卿たちが集まっている星見の祭壇の縁に向かう。
先程の揺れまでとはいかないが、微振動は続いており、神殿の高さもあって心臓がきゅっと小さくなった感じがした。
「申し訳ありません。階段では危険と思い、面会の判断待ちの客人を二名、私の判断でお連れしました」
「良い判断です。安全面ではもちろん、この国の為にも。――お二人とも、まずは見た方が早いでしょうから、こちらへどうぞ」
リブラ枢機卿が開けたスペースに勇輝と桜は進み出る。そこからは聖剣が安置されていた森を見渡すことができた。
寒い冬の中でも青々とした葉が残る中、大きな土煙が舞い上がっている箇所が目につく。
「何か……いるな」
魔眼の捉えた光景は、薄い黄色の光の中に禍々しい赤と闇夜を思わせる黒の二色が見えた。経験上、それらが危険な色の代表格だと理解していた勇輝は拳を握り込む。
この時点でダンジョンが蛇化したという確信が勇輝にはあった。目を凝らしていると、警戒していた光が細長い形を象ったかと思うと、勢いよく振り回される。
離れていても聞こえてくるほどの轟音は、木々が折れた音か、はたまた地面に何かが叩きつけられた音か。
土煙が晴れると、そこには大きな尾が地面から生えているように見えた。
「やはり、蛇か。神殿騎士と神官たちを緊急招集するべきだ。それと勇者もな」
「レオ枢機卿、落ち着いてください。まだ、そこまで叫ばなくても――」
「今までの問題とはわけが違うのだぞ、リブラ枢機卿! アレが地面から抜け出たら、カルディアに住む者たちに被害が出かねない」
顔を真っ赤にして、獅子の如く吼えるレオ枢機卿は、リブラ枢機卿の冷静な態度に怒りを隠せないようで、杖を握る手まで真っ赤になっていた。
「わかっています。だからこそ、落ち着いて行動するべきです。あなたの激情は、あの魔物にぶつける為に取っておいてください」
リブラ枢機卿は、そう告げると杖を掲げた。緑の光が杖の先端に集まり、カーテンのような柔らかさを感じさせる膜となって頭上に広がっていく。
二度ほど、甲高い口笛のような音が鳴り響いたかと思うと、言葉を短く区切りながら話すリブラ枢機卿の巨大な声がカルディアの街に響き渡った。
『カルディアの、皆様に、連絡します。現在、聖剣の森にて、巨大な魔物が、出現しました。万が一のことが、考えられますので、必要最小限の、荷物を持ち、南の外壁へと、向かってください。聖女アストルム及び黒騎士隊長ソフィア。そしてマックス様一行は、お手数ですが、星見の祭壇まで、お越しください。繰り返します――』
町内放送のスピーカーで流す緊急避難。あるいはデパートでの迷子のお知らせ。そんな感想を抱きながら勇輝が成り行きを見守っていると、背後からだんだんと大きくなってくる地響きが聞こえた。
「呼んだかっ!?」
「お早いお着きで。流石、勇者様ですね。背後の惨状は見ないことにします。とりあえず、こちらへ」
マックスの片手にはウッドがぶら下がっていた。首根っこを掴まれ、そのまま引きずられてきた形だ。よく窒息しなかったものである。
「何だ、アレ? 触手……いや、尻尾か」
「昨夜、ダンジョンの蛇化の話をしましたね? どうやら、試練のダンジョンのすぐ隣にあった天然のダンジョンが、その影響を受けたようなのです」
「いやいや、昨日の話だと魔王の力が蓄積してって話では? それに、そのダンジョンは勇輝たちが攻略して、崩落したと聞いていたんですが?」
マックスは困惑した表情で、リブラ枢機卿と蛇の尾らしきものを交互に見る。
『こりゃ、アレだ。俺様たちが倒した魔物。アレの影響もあるかもしれないな。魔王の力をその身に宿した魔物かもしれない奴らを全部倒したか確認したわけじゃない。密かに生き残って、力をダンジョンの残骸に移したってことも十分あり得る。――今まで、そんな手を使って来たことはなかったがな』
してやられた、とばかりに聖剣が舌打ちをした。
ただ、魔王の力ならば聖剣で消滅、減衰させることはできる。この場における救世主は、間違いなくマックスに他ならない。
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