魔王の置き土産Ⅴ
階段を上り切ろうといった矢先、神殿騎士が槍を交差して見下ろしていることに気が付いた。
「申し訳ないが、許可の無い者は通すわけにはいかない。貴殿のことは知っているが、ここを通る場合には、事前に枢機卿から許可が出ているか、聖女や黒騎士隊隊長と共に来るかだ」
あくまで規則だ、と申し訳なさそうにしているのが表情から伺える。
彼の言い分はもっともだ。勇輝であっても、同じように許可を出さないだろう。
ましてや、両手が塞がっていて武器を持てないとはいえ、桜をお姫様抱っこしている姿は、ある意味で異常事態だ。何かの罠かと疑われても文句は言えない。
「じ、じゃあ、枢機卿に伝言をお願いできませんか? もしかすると、この前の試練のダンジョンのように危険が迫っているかもしれないんです」
「――ここは俺が見張る。リブラ枢機卿に判断を仰いでくれ。我々を助けてくれた客人だから、無下には出来んだろう」
勇輝の必死な呼びかけに神殿騎士は、隣の騎士へと顎をしゃくる。今までの貢献が神殿騎士たちにも評価されていたことに安堵しつつ待っていると、目の前の神殿騎士が話しかけてきた。
「このような対応で悪いな。あの頑なだった態度だった皇太子が、勇者として活動することを受け入れたのは貴殿の功績だと聞いている。それに加えて、聖剣の森では空中で孤軍奮闘していたともな。多くの騎士が貴殿を賞賛していたと聞いている」
「い、いえ、俺が何かしたわけじゃないですよ」
「謙遜するな。本来ならば、俺の様な大人が先陣を切らなければならないのだから。……貴殿らの様な若者に危険と分かっていながら前を行かせることを許して欲しい」
神殿騎士の目には、様々な感情が宿っていた。言葉に発した通りの悔しさや申し訳なさ、怒りと言ったものが伝わって来る。
勇輝はどう返答するべきか思考を巡らせ――立ち眩みでふらついてしまう。
『おい、しっかり踏ん張れ! こいつは、建物が揺れてるんだ!』
心刀からの警告で、自分の感覚がおかしくなったのではなく、階段――正確には神殿自体――が揺れていることに気付く。
すぐに桜を落とさないように腰を落として抱え込む。階段に座り込むような形で安定させるが、尻から伝わって来る小刻みな振動は嫌な予感しか感じない。
――まさか、ダンジョンの蛇化が本当に起こってしまったのか。
勇輝はごくりと唾を呑み込む。
星見の祭壇からは、枢機卿たちの慌てる声が響いて来た。枢機卿だけではなく、比較的若い声が混じっているが、そちらは護衛の神殿騎士のものと思われる。
「くっ、デカい地揺れだな。こっちに来るんだ。万が一、階段が崩れ落ちたら危ないっ!」
神殿騎士の指示に従って勇輝は、一気に階段を駆け上がる。魔力で強化した脚力は、四歩の三段飛ばしで祭壇へと勇輝をたどり着かせた。
地震の揺れには日本で慣れていたとはいえ、高い場所で揺れるのは話が別だ。落下恐怖症ということもあり、冷や汗が全身から噴き出そうになる。
『いやいや、もう、この高さくらいなら死ぬことはないだろ』
「怖いのと、平気なのとは、別問題だ……」
その場で崩れ落ちたくなる気持ちを堪え、勇輝は肩で息をする。すると、寝ていた桜が腕の中で身動ぎした。
「勇輝、さん?」
「久しぶりのおそようだな、桜。悪いけど、事件発生っぽい。何とか目を覚ましてくれ」
「事件?」
完全に意識を覚醒しかけているようなので、勇輝は桜の足を床にそっと下ろす。目を擦りながら、上半身を勇輝に預けていた桜は、大きく欠伸をした。
『魔王の力がダンジョンを蛇化するって話が合っただろ? アレがまさに起こる予感がするって警告したら、この地震だ。多分、試練のダンジョンの隣に出来てたダンジョンがヤバいっていうのが俺の予想だ』
「魔王っ!?」
バネ仕掛けのように桜の上半身が仰け反った。目は限界まで見開かれ、完全に意識が覚醒したようだ。
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