魔王の置き土産Ⅲ
マックスに別れを告げ、部屋に荷物を纏めに戻った勇輝と桜は、大きく息を吐いた。
荷物を纏めるとはいっても、数分もかからずにできること。それよりも、今は眠気と倦怠感をどうにかしてほしくてたまらなかった。
「これ、仮眠したら、本当に寝ちゃうやつだよね」
「ベッドに座った瞬間に、気付いたら仰向けになってる自信がある」
尤も、荷物はほとんどないと言っていい。勇輝の荷物は全てコートの中に収まるし、桜が持ってきていたのは着替えの服だけ。後は購入した書籍やお菓子の類だった。
桜が革袋に丁寧に纏めている間に、勇輝は心刀へと声を掛ける。
「万が一、俺が寝落ちしてたら夢の中から叩き起こしてくれよ」
『相手は誰にする? お前の記憶を頼りに、魔眼を持っていないバジリスクをけしかけてやろうか?』
「丸飲みにされて、痛みもないだろうな。いつも通り、近接武器持ちでいい」
日ノ本国で出会った剣士たちには、まだまだ技術では敵わない部分が多い。攻撃も防御もどちらも身体強化で何とか誤魔化しているに過ぎないのだから、学べるものはまだまだある。
「勇輝さん。すごい不穏な会話してるけど、もしかして、その刀の能力で鍛錬してるの? 確か、夢の中で戦うことができるんだっけ?」
「そう。魔物も人間も思いのまま再現するどころか、強さの調節までこいつがいろいろやってくれる。おかげで寝ていても勉強になるから助かってるよ。流石に真昼間の人がいる中で幻と戦うのは勘弁してほしいけどな」
心刀という形になる前は、その能力は不規則に発動し、内容も選べないものだった。それを思えば随分と便利になったものだ。
いつもは言い合いになって柄を小突く勇輝だったが、この時ばかりは手の指で撫でるようにして褒める。
『よせよ。お前に褒められると何だか気持ちが悪い。鳥肌が立っちまう。ま、逆立つ産毛もないから、柄の鮫肌でも尖らせといてやろうか?』
「今やったら俺の指が痛くなるだろうが……」
『眠いんだろ? 指先は敏感だからな。ちょっとの傷が想像以上に痛く感じるもんだ。眠気覚ましにちょうどいい』
むしろ、感謝しろといわんばかりのいらない親切心を発揮しようとする心刀。やはり、小突いておこうかと悩む勇輝だったが、そこまでの元気は残っていなかった。
『まぁ、何だ。二人とも寝ちまっても、俺がこいつを叩き起こすから問題ないって話だ。迎えの使者が神殿に来るんだろ? その呼び出しが来るまではゆっくりしてろ』
その言葉に甘えるべきか。勇輝が思案していると、不意に腕に何かが絡みつき後ろへと引っ張られる。
すぐ後ろはベッドであることを知っているので、それに従ってダイブすると、桜の声が耳元に届いた。
「さっきまでは心配だったけど、起こしてくれるなら大丈夫じゃない? あ、でも、痛そうな起こし方はやめてあげてね」
『そりゃあ、こいつ次第だな。なかなか起きれないようなら、尻を叩いて夢の中から追い出すまでの話だ』
尻を叩くどころか臨死体験をするので、桜の要求を聞いた場合、間違いなく寝坊することが確定する。ただ、勇輝にとっては、もはや日常となっているので、あまり気にはしていない。
それ以上に眠気が勝っているのも理由ではあるが、薄れ始める意識の中で勇輝は「慣れって怖いな」と漠然とした思いを抱いた。
『……まったく、幸せそうに不幸を満喫しやがって』
心刀が呟くが、その声は勇輝にも桜にも届いていない。徹夜で勾配のある坂道を下っては上りを繰り返したせいで、疲れが溜まっていたのだろう。既に二人は寝息を立てて眠ってしまっていた。
『ま、順調に成長してるんだ。後は、上手く歯車が合うのを待つばかり。流石に俺でも、そこまでは導いてやれないからな。死ぬなよ? お前の本当の望みの為にも、な』
心刀はふっと鼻で笑い、沈黙する。部屋の中には二人の寝息と外から聞こえる小鳥の囀りだけだった。
平和な一時だが、この数時間後に勇輝たちは、想像だにしない理由で叩き起こされることになる。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




