魔王の置き土産Ⅰ
夜明け前、アルトとリシアが神殿に戻って来た。多くの騎士たちの捜索で発見されたのではなく、自ら神殿に戻る過程で騎士たちの前に姿を現したらしい。
「まったく、この街の中ですら発見できないとは、私も含めて鍛錬をやり直す必要がありそうだ」
ソフィアは遅れて戻って来た際に、ボソリと呟いた。
黒騎士を纏める者としての当然の考えだろうが、それを聞いていた黒騎士たちからカタカタと鎧が鳴る音がしたのは、気のせいではないだろう。
「それで、星上様の御言葉は聞けましたか?」
「ほんの少しだけ、ですね。大勢に影響を与えるようなものではなく、激励とアドバイスをいただけました」
「そうですか。それは良かった」
安堵の笑みを零すソフィアを見ながら、勇輝は欠伸を零した。
アルトを先導した手前、大人しくベッドの中で見つかるのを任せているということはできなかった。
「お迎えって、いつくらいだったけ?」
「確か、今日の昼過ぎだったと思う。寝過ごしたら大変なことになりそうだな」
桜と身を寄せ合い、目を細めて成り行きを見守る。
何事もなければ、ファンメル王国に戻ることができるだろう。
「お疲れ。少しいいかい?」
篝火に照らされた赤い髪を揺らしマックスが近付いてきた。
彼もまた眠そうな表情を浮かべているが、その眼差しは真剣なものだった。
勇輝が頷くと、マックスは聖剣を軽く抜いて視線を落とす。
「聖剣が話したいことがあるらしくてね」
『よお、いろいろと場を引っ掻き回してくれたな。お陰で今回の魔王討伐の旅では、嘘をつかなくても済む代わりに、いらん負担を俺様の使い手にかけることになっちまった』
全面的に勇輝に非がある、とまではいかないが、聖剣と枢機卿を疑って、混乱を招いたのは確かだ。
大部分の責任が自分にあることを認め、勇輝は自ら頭を下げた。
『あー、違う違う。謝ってほしくて言ったんじゃねえ。そのきっかけを見つけたお前さんの剣が気になって声を掛けたんだ』
聖剣の意図を察して、勇輝は心刀をマックスと同様に抜く。
互いに篝火の光を反射し、鋭い煌めきを放っていた。
『聖剣様が俺に聞きたいことがあるって?』
『お前さんの主が俺様を疑ってたように、俺様もお前さんを疑っているのさ。いったいどこまで魔王の件を理解してるのかってな。お前さんこそ、自分の主に必要な情報を共有してないんじゃないか?』
言わんとしていることは理解できるが、あくまでそれは聖剣の推測だ。最悪、水掛け論になりかねない。
尤も、心刀の証言も枢機卿たちに否定されていれば、同じ状態になりかねなかったことを考えると、潔く頷いてくれたリブラ枢機卿には感謝しかない。
『……俺とアンタじゃ成り立ちが違うだろ。あくまで俺はこいつの分身だ。自分の利益にならないことをする必要がない』
『成り立ち、と来たか。いったい俺様のことをどこで知った?』
『それは魔王の件とやらとは無関係だよな。人のプライベートは詮索するもんじゃないぜ』
険悪な雰囲気が漂い始めたが、そこでマックスが聖剣を鞘の中へと押し込む。それでも聖剣は思念で話せるはずなのだが、不思議なことに黙ってしまった。
「悪いな。こんなことになるとは思ってなかったんだ。それに、その剣のおかげで俺は枢機卿たちとも上手くやっていけると確信できた。ここからは互いに腹の中をさらけ出して話ができる」
「そう言っていただけると助かります。そういえば、マックスさんたちはいつファンメル王国に?」
「本当は君たちと帰る予定だったけど、まだ情報交換が終わっていないからね。アメリアには悪いけど、君たちだけを連れて帰ってもらうつもりだ」
王女の名を呼び捨てで告げる。そこで改めてマックスがファンメル王国の皇太子であることを認識した。
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