魔王の力Ⅷ
日ノ本国の術には結界に長けた魔術体系が複数存在している。
それらは神聖な存在から魔に染まった存在まで、目的や手段は違えど境界を以て隔離することを是としていた。
「……神を祀り、人と神の住むべき世界を明確に分ける。それだけでも、神の怒りを避けることに役立ちます。それが荒ぶる神や人に仇なす魔であれば言わずもがなです」
桜は日ノ本国での術式の根底に場を区切る――すなわち結界術の考えがあることを伝えると、枢機卿たちは興味津々に聞き入っていた。一通り、桜が簡単な説明をし終えると、黙っていた反動か、口々に結界の利用方法について話し合いを始めてしまう。
「我々の結界と日ノ本国の結界。それらを合わせた結界を使えば、一時的に魔王を止めることができるのでは?」
「いや、待て。あまりにも術式のタイプが違うと反発を起こして、むしろ弱くなってしまうことは知っているだろう。それを頼みにして、失敗した日には目も当てられん」
彼らが興奮気味になるのは、心のどこかで魔王を消滅させたいという思いが燻っていたからだろう。逆に言えば、今までの彼らの結界魔法では、魔王を閉じ込めることには至っていなかったということでもある。
「桜、実際のところどうなんだ?」
「うーん。私は基礎の基礎はかなり練習したけど、上手い方じゃなかったから……。そういうのは、むしろ勇輝さんのひいお婆様の方が詳しいんじゃないかな?」
「巫女長やってるくらいだし、それはあり得るな。一度、連絡を取ることができればいいんだけど――」
死んだはずの曾祖母。それが何故か、この異世界において巫女長という立場で再び出会うことになってしまったことは、未だに不思議で仕方がないと勇輝は思っていた。そんな曾祖母が日ノ本国を出立する際に「近い内にまた会う」という意味の言葉を伝えてきたことを思い出す。
「まさか、これを予知していた……?」
ファンメル王国は魔王の消滅を目論み、アメリア王女の転移魔法を利用して各国と協力体制を築いている。そして、近い内にサケルラクリマとファンメル王国が同盟を結ぶのは明らかだ。
そこから魔王を逃がさない為の結界魔法の技術交流が行われるのは容易に想像がつく。
――では、その一団に勇輝が同伴することになるのか?
仮に日ノ本国に戻るのは良いとして、何か危険な事件に巻き込まれる予感がひしひしと伝わって来る。思わず両手で自分の体を抱きしめるように二の腕をさすった。
「勇輝さん? もしかして、寒いの?」
「いや、何か嫌な予感がしてさ。どうせ、ろくでもない事件やヤバい魔物と戦う未来が待ってそうだ」
「あはは……確かに、どこに行っても事件に巻き込まれてるもんね」
桜も思い当たる節があるようで苦笑いをする。
星見の祭壇が騒がしくなり始めたところで、リブラ枢機卿が両手を大きく打ち鳴らした。乾いた音が辺りに響き渡り、木霊する。
「――ひとまず、結界を用いた魔王対策に関しては後で話をするとしましょう。ところで、本物の聖女はどこに? そして、この精巧な変身魔法はどういった仕組みですか?」
「あ、それは私が作った魔法です。式神っていう、日ノ本国の魔法の一つなんです」
桜が告げると式神アルトが包帯に巻かれた杖を持って、桜の所にまで戻って来る。桜が式神アルトから杖を受け取ると同時に、小さな爆発と白い煙を吐き出して消滅した。
その光景に驚きの声を上げる者もいれば、警戒して得物を構えようとする者もいた。
「一説によると、これも結界魔法の応用だという人もいるんです。ほら、オドはマナに侵食されやすいんですけど、さっきまで何事も無かったかのように魔法を維持できていましたよね」
「ふむ、それは確かに素晴らしい技術です。すぐに習得できるような難易度の魔法ではないでしょう。ただ、私はそちらではなく聖女の身の安全を心配しているのです」
「え、えっと、それは――アルトさんにしかわからないというか」
桜が申し訳なさそうに言うと、リブラ枢機卿は首を横に振る。
「いえ、あなた方のせいではありません。不信感を拭いされず、不安なままにしていた私の落ち度でもあります。――ソフィア隊長、申し訳ありませんが、アストルムの捜索に向かっていただきたい」
「承知しました」
ソフィアは即座に踵を返すと、神殿に戻る階段――ではなく、星見の祭壇の縁から地上へと向かって跳び下りた。傍から見れば自殺行為だが、黒騎士隊長で身体強化に優れていることを知っている身からすれば、最も楽で早い移動手段であることは間違いない。
「本来ならば、もっと話を聞きたいことがありますが、それはまた後日。日を改めてさせていただきます。我々自身で調べなければいけないことも多いですから」
勇輝たちがファンメル王国に戻るのは明日。つまりリブラ枢機卿は近い内に勇輝たちに接触をするつもりなのだろう。再び、サケルラクリマへ呼び出されるのか、アルトたちを通じて報告を受けるのかは定かではないが、桜の話した結界魔法にそれだけの興味を抱いていることは確かだった。
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