消えた手がかりⅢ
歴史を記すというのは、大変な作業だということが読んでいてわかる。
年表だけでも、どのような出来事が起きたのかを簡潔に、しかし、誰もが分かるような情報を提示していなければならない。
さらに中身を見ていくと、どの地域で、何が起こったかはもちろんのこと。その原因や対処として、何が行われたかを記している。
後の世で、同じようなことが起きた時に対応する手段を明記しておくことは重要だ。だからこそ、その中に魔王の言葉がほとんど出てこないことに疑問を抱く。
「魔王という言葉が出て来ても、魔王という個体ではなく、魔王率いる魔物によって引き起こされたものとして書かれているな」
『今まで怪しまれなかったのが嘘みたいな有様だな。こいつは、本格的に怪しくなってきた』
そこまでして魔王の情報をひた隠しにする理由が勇輝には思い浮かばない。もしも、あるとするならば、国を存続させるため――すなわち、魔王の情報をサケルラクリマのみで保有することで、他国が攻め入りたくてもできない状況にすることが目的かもしれない。
「魔王の出現を見つけられるのはサケルラクリマの聖女だけ。他の国はサケルラクリマの機嫌を損ねれば、自分の国が魔王によって滅ぼされる可能性が出て来てしまうから、手を出すことはおろか、下手に逆らうこともできない、か」
誰も持っていない固有の切り札があれば、おいそれと手は出せない。
聖教国の聖女しかり、ファンメル王国の転移魔法しかり、だ。一見、平和な世界に見えても、世の中が弱肉強食の世界であることを思い知らされる。
「……あった。聖女による神託があった年だ。この前後の歴史書を選べば、詳細が載っているはず!」
勇輝は即座に隣の棚へと視線を移した。背表紙に年号は書かれていないが、突き出た札のおかげで、何年のものが並んでいるかがすぐにわかる。
だからこそ、勇輝は目を疑った。目当ての本を捲ったそこに魔王に関する記述が、ほとんど書かれていなかったことに。
正確にいうならば、ある魔物によって、どこの地域に被害が出たか。どこに騎士団を派遣したか。或いは、どの国と同盟を結んだかなどが書かれているが、どこにも勇者も魔王の文字も出てこない。
『こいつは酷いな。もはや隠していることを隠す気がないと来た。俺たちが相手にしようとしている奴は、思った以上にヤバいのかもしれないな』
「だからと言って黙ってるわけにもいかないだろ。マックスさんたちが危険な目に遭うんだから」
やはり、本ではなくアルトたちへ直接話をするべきか。
勇輝は悩みながらも本を棚へと戻す。その両隣の本も流し見てみたが、やはり、結果は同じだった。
一度、読み飛ばした部分があるのではないかとページを戻ってみるが、書いてある文字は変化していない。
そっと背表紙を押して、本棚の中に本を押し込むと、ちょうど桜が歩いて来る姿が視界に入った。
「勇輝さん、どうだった?」
「歴史書に何か書かれていないかと思ったんだけど、不自然なほどに魔王自身の内容が抜け落ちていた。誰かが意図的にやっていることは明らかだな」
思わずイラついてしまった勇輝は、大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせる。
感情を昂らせたところで意味はない。今、必要なのは冷静に次の一手を考えることだ。
そうとは言っても、その一手は既に決まりきっている。
「アルトたちに相談するしかない、か」
「そう、だね。一番関係があるのは、アルトさんたちだものね。でも、その後のことはどうすれば――」
「一つだけ良い考えがあるんだ。通用するかどうかの前に、そもそも前提条件として成り立っているかどうかを考えないといけない部分もあるんだけどさ」
自信無さげにしながらも勇輝は図書館の天井を見上げた。
どんなに巧妙に証拠を隠そうとも、仮に犯人がしらを切ろうとも、問答無用で全てを白日の下に晒す最強の切り札。ただし、それを切るための条件を勇輝は知らない。
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