消えた手がかりⅠ
久しぶりにゆっくりと過ごせるかに思えたデートだったが、勇輝と桜は昼食を食べて、すぐに神殿へと戻って来た。
しかし、アルトたちの進言なしに枢機卿たちと会うのは難しい。仮に会えたとしても、誰が信用できて、誰が危険かわからない状況では無謀以外のなにものでもないだろう。
「図書室は前に見させてもらったから行き方はわかるとして、問題はさっき預けた二冊の本の行方だ」
「リブラ枢機卿なら、大丈夫かもしれないけど、保管場所によっては既に誰かが持ち出していてもおかしくない……!」
魔王に関する情報の隠蔽ないしは破棄は、今後の戦いに大きく影響を及ぼすだろう。
だからこそ、枢機卿たちは勇輝たちを呼び寄せてまで情報を探し出そうとしていた。
しかし、見方を変えれば、恐ろしいことが見えてくる。もしも、枢機卿たちの中に、隠蔽や破棄を目的に動いている者がいるのなら、勇輝たちはその手助けをしていることになるだろう。
「始まったのは今日、昨日の話じゃないよね。何年、何十年と時間をかけないと、そんなことは出来ないはずだもの」
倉庫の奥底に残っていた本しか情報がないのではなく、そこら中に有ったはずの記録が破棄されていたと考える方が自然だ。
「もしかすると、歴代の勇者や聖女、黒騎士隊長が残した記録も一つ残らず消されているかもな」
「……もしかして、魔王を崇める集団が正教国の中に紛れ込んでる、とか?」
「ありえない話じゃないな」
魔王を崇め、復活を企む狂信者。つい最近までは、眉唾ものの話と聞き流していたが、キマイラを連れて街の中に攻め込んできた事件に関わった後では笑うこともできない。
図書室まで来た勇輝たちは、司書の当番をしている神官に挨拶をして、奥まで進む。
長年、保管され続けてきた本特有の匂いに包まれながら、勇輝は声を潜めて話す。
「絶対に信頼できるのはアルトだ。自分の命を危険に晒す側だし、何より星神が聖女に選ぶとは思えない」
「じゃあ、ソフィアさんは?」
桜の疑問に、勇輝は一拍おいて答える。それは考えにくい、と。
黒騎士隊長の身分をいかすならば、そんな回りくどいことはしなくてよい。
魔王討伐の旅の最中に、いくらでも裏切る絶好のシチュエーションが訪れるからだ。
油断したところを勇者共々暗殺すれば問題ない。聖剣を確保し、次の勇者と聖女が選ばれたり、成長したりする時間を与えなければ、魔王側の勝利だ。
「そうなると、やっぱり枢機卿や高位の神官が関わってそうだけど……」
「その場合、どうして星神が黙っているか、だな。もしかすると、声を聞く儀式を邪魔してるのか?」
枢機卿という立場が、どんどん怪しく思えてくる。疑心暗鬼とは、まさにこの事だろう。
疑いたいわけではないが、どうしても信じられない思いが泉のように湧き出てくる。
結束しなければならない時に、そんな思考に支配されてはならないと思いながらも、疑う心を止められないでいた。
せめて、星神とかいわできれば、その疑いも晴れるというのに、その権限は勇輝たちには与えられていない。
「とりあえず、この図書室の本の中に、魔王の配下でもいいから何か関係がありそうなものを探してみない?」
「それでアルトたちに時間ができたら、この疑問をぶつけてみるか。場合によっては、マックスさんや聖剣にも言ってみる価値はありそいだ」
アルトたちは聖剣の森の調査に赴いている。帰ってくるのは、星神の声を聞く儀式までの仮眠時間も考えると二時間後くらいだろう。
それまでに時間を無駄にするわけにはいかない。
勇輝と桜は手分けして、図書室に保管されている膨大な数の本の中から、魔王に関する情報――或いは、魔王に与する勢力の痕跡――を見つけようと歩き始めた。
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