勇者の記録Ⅶ
外壁の上へと至る階段を上ると、神殿からとは違った海の青さが彼方に見えた。耳をすませば、波の音が聞こえてくるのではないかと思えてしまう。
槍を持った警備の騎士に囲まれ、勇輝たち以外にも十人くらいが風景に感嘆のため息を漏らしていた。
「そういえば、神殿の食事では魚料理も出てたね。でも、海岸から遠いから、漁をするには不便だと思わない?」
「何か理由があってそうしているのかもしれないな。ほら、万が一、海から上がって来る魔物がいたら危険だし、そこは上手いことやってるのかも」
少なくとも、外壁の南門からは海に向かって一直線に、褐色の道が伸びていた。春や夏の季節であったならば、青々と茂る草を引き裂くような光景だったことだろう。
道の両側にあったであろう草は、既に枯れてしまっていて、太陽の光を受けてまばらに黄金色を放つ程度だ。
「えっと、確か、バジ――魔物の軍勢の侵攻で、草が生えなくなったのは西側だったよな?」
一般人が知っているはずのない魔物の名を口に出しそうになり、勇輝は捲し立てるように話して誤魔化す。
視線を近くの騎士に向けるが、聞こえていなかったようで、振り向く素振りすらなかった。
「あ、ほら、あそこ! 明らかに土じゃなくて砂になってるところがある!」
「確かに砂丘っぽいな。でも、聞いた話だと改善傾向にあるみたいだし、夏とかは緑が見えるのかも……」
「何か魔法とかで簡単に回復できればいいのに……。聖剣の森の木とかを植えられないかな?」
「気は少し早いかもな。豊富な水とか、砂にも強い植物を植えるとか色々やるべきことはあるだろうし……。昨日のトレントの体を解体して、ばら撒いたら何か生えてこないか?」
魔力を豊富に含み、体自体も植物。意外と良い効果がありそうだと、勇輝は自分の口から出た案を真剣に考え始めてしまう。
後でアルトたちに提案してみようと呟いていると、隣にいたカップルが話す声が聞こえて来た。
「昔の魔王の侵略で草木も生えなくなるなんて、本当に恐ろしい魔物の群れだったのね」
「海に近いから塩の影響もあるとは思うけどな。当時の勇者たちには感謝しかないな」
二人のどちらの感想にも、全く以てその通りだと勇輝は心の中で頷いた。
当時の勇者はもちろん、この街の人々が力を合わせなければ歴史が変わるどころか、世界が滅んで歴史を語るどころの話ではなくなっていただろう。
「……うん?」
ふと、何か胸の奥に何かが刺さって抜けない感覚があった。大切な何かを見落としているのではないかと脳が回転を始める。
「勇輝さん?」
「悪い、桜。あの砂丘を見ていたら、少し喉元まで何か出かかっている気がするんだ。すごく重要な何かが……」
右手を胸に当て、砂丘を凝視する。
頭の中で、バジリスク、勇者、魔王と関係する単語が次々に現れては消え、数秒後には同じ言葉がまた浮かんで来る。
「うーん。でも、神殿が全部記録してるから、勇輝さんがパッと気付くようなことは枢機卿の人たちも気付いていることなんじゃないかな? だから、あまり気にする必要は――」
「それだ!」
勇輝は勢いよく桜へと振り返った。あまりの速さに桜が目を丸くしてしまっている。
「桜、おかしいと思わないか? 勇者や魔王の情報は一切ないのに、魔物の情報だけやけに詳しく残っているってさ」
「魔王がいなくても、魔物は現れるから姿形や能力が残っていても不思議じゃないと思うけど……」
「じゃあ、あの砂丘。どうして、『魔王の右腕』的な奴がやったなんて言い切れるんだ?」
強い敵ならば幹部クラスだとか、様々な言い方ができるはずだ。それをわざわざ魔王の次に強いとでも言わんばかりの肩書をつけるのはおかしい。
黒騎士隊隊長の持つグラムで倒したドラゴンがいたという話もあるのに、そちらには「魔王の」などという言葉は付属していない。
それを聞いて、桜は左手で口を押さえる。まるで叫びそうな自分を何とか押さえ込もうとしているかのように。
「じゃあ、それって……!?」
「あぁ、わざと情報を消してる奴がいるとしか思えない。それも、この国を動かしている上層部に」
勇輝は背後に振り返る。そこには天に手を伸ばそうとでもするかのように、高く聳え立った神殿があった。
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