勇者の記録Ⅴ
「見た所、この国の人じゃないね。日ノ本国か、蓮華の国辺りかい? 文字が読みづらければ一緒に探してあげられるんだけどね」
老婆が心配して声を掛けてくれたことに感謝しつつも、特に困っていたわけではないので、申し訳なさを感じる。
「いえ、光属性や闇属性の魔法に関する本をちょうど眺めていたんです。ファンメル王国と違って、こちらは、その類の本が多いので驚きました」
「あら、ファンメル王国からいらしたの? 確かにこの国は星神様を祀る影響で、そっちの属性の使い手が多いからねぇ」
頬に手を当てて、物珍しそうに勇輝と桜の顔を交互に見る。
優し気な眼差しが祖母に見られているようで、勇輝はどこかむず痒くなる感覚に襲われた。
「そういうことなら、ここからあそこまでは光属性。その先は闇属性の魔法を扱っている本が多いよ。隣の列は季節と星空の関係の本や歴史書が多い。あぁ、そうそう。子供用の御伽噺とかの絵本のコーナーもあるんだよ」
「へぇ、御伽噺を本にしてるんですか」
印刷機がないこの世界では本を作るにも手間がかかる。一部の本は魔法によって、複製されているものも多いが、それを子供用にわざわざ作るのは採算が合わないのだろう。少なくとも、ファンメル王国では、その類の本は見た覚えが無かった。
その代わりと言っては何だが、金持ちの道楽か何かで一冊だけのオリジナル本を売っている光景は見たことがある。
「まぁ、聖女がいる街だからねぇ。自然と勇者や魔王を倒すお話だとかが、自然と増えるのさ。石像と一緒で、暇を持て余した年寄りが、絵本だったり物語だったりにするんだよ。それがいつのまにか、色々な書店に売られて店の一角を占めるようになるのさ」
考え方によっては同人誌のようなものに近いのだろう。それだけ、この国では勇者や聖女といった存在が受け入れられていると考えられる。きっと、歴代の勇者や聖女の誰かをモチーフにした本もあるのだろう。
アルトを題材にした本が並んでいた日には、本人が顔を赤くして存在を認めようとしない光景が、鮮明に浮かんで来る。
「もしかして、過去の勇者や魔王に関する本とかも扱ってたりしますか? その実話の記録的な意味で」
桜の質問に勇輝はハッとする。
倉庫の中で埃を被っていた本が存在したのだ。本を扱っている店に、紛れ込んでいてもおかしくはない。
期待の籠った視線を老婆に向けるも、彼女は苦笑いを浮かべていた。
「すまないねぇ。数週間前に神殿のお偉いさんが来て、研究のために買っていってしまったよ。こう見えても記憶力は良くてね。どこに何の本が置いてあるかは把握していたから、もう一冊も残ってないねぇ」
「そう、ですか……」
さらに手がかりを得られるかという期待が、余計に落差となって精神的なダメージを強く感じさせる。
目に見えて肩を落とす桜に勇輝はそっと手を置いた。
「逆に言えば、ちゃんと勇者や魔王の記録は進んでるんだ。血眼になって探さずに、ここでは俺たちが見たい本を落ち着いて探すことにしよう」
「そうだね。じゃあ、お婆さん。ファンメル王国とかに出回って無さそうな、光属性と闇属性の――初めて子供が使う時に読むような指南書や教本とかあったりします? 私、そっちの属性は、まだ触れたことが無くて!」
その言葉に老婆は、まるで孫に頼みごとでもされたかのように明るい笑みを浮かべる。或いは、自らの孫の様な愛する本たちを紹介できる喜びもあるのかもしれない。
「そうかい。それなら、ちょうどいいのが何冊かあるよ。児童用の本がこっちとそこに。あぁ、もしかして二人とも魔法学園の生徒かい?」
「えぇ、そうなんです」
「じゃあ、少し大人向けな本でもいけそうだね。読まなくなったら、そっちで他の生徒にも読ませてやっておくれ」
先程までとは別人の速さで本棚の別々の場所から、六冊の本を抜き取った老婆。それぞれ光と闇属性で三冊ずつ。その内訳は児童向け一冊、学生向け二冊だった。
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