勇者の記録Ⅳ
桜へと心刀が思念で語り掛けている中、勇輝は違和感を感じていた。
それは心刀が聖剣の前では、一切話そうとしなかったことだ。今までにも思念で語り掛けてこなかったことは何度かあったが、勇輝が催促すれば返事をすることが多い。
しかし、何度声を掛けても頑なに反応をしなかったのは今回が初めてかもしれない。
「なぁ、何で聖剣の前だと話そうとしないんだ?」
『そんなのは俺の勝手だ。話す必要が無いんだから、別に気にすることはないだろ』
「自分と同じ話す武器に出会ったら、俺だったら真っ先に声をかける。俺はお前だ、っていうのが口癖だったけど、その逆もまた成り立つんじゃないか?」
つまり、心刀は何かしらの理由があって、聖剣の前では話すことを我慢している。勇輝はそう予想した。
『まったく、いらん心配をする奴だ。冷静に考えろよ。あっちは由緒正しき聖剣様。こっちは生まれたてホヤホヤの妖刀だ。下手に話して機嫌を損ねてみろ。何かの拍子に浄化されるぞ?』
「……そういや、魔剣の類だってバレてたな。なるほど、呪いだから浄化される可能性もあるのか」
心刀にとって、聖剣は天敵だというのならば、触らぬ神に何とやらの精神も理解できなくはない。
ただし、そこで勇輝は追及の手を緩めなかった。
「――で、本当のところは? 何となくだけど、本当に言いたくない時はひたすらに黙るか、誤魔化すかのどっちだよな」
『くっ、こんな時ばっか勘の鋭い奴だ』
心刀の舌打ちする音が聞こえてくる。
舌がないのにそんな音が聞こえるのは疑問ではあるが、今はそれどころではない。
「うーん。もしかして、勇輝さんに黙っていることが聖剣さんに伝わる可能性があるから、墓穴を掘らないように何も言わないでいるとかじゃない?」
『――――な、何のことだ?』
桜は勇輝と心刀を交互に見ながら、真顔で告げた。
思わず勇輝は目が点になり、心刀は何とか声を絞り出して白を切る。もはや、何かを隠しているのがバレバレだ。
一瞬、勇輝は自分もこんなにわかりやすいタイプだったかとショックを受ける。
「だって、勇輝さんだったら本当に必要なことなら話してくれるし、言えない理由があるなら、絶対に必要になるまでは黙ってそうだもん。だって、自分の出身地をギリギリまで教えてくれなかったこともあるくらいだから」
「そ、それは話がまた別じゃないか?」
褒められているのか、過去に黙っていたことに対する怒りを表明しているのかわからず、勇輝はしどろもどろになる。
桜は少しばかり唸った後、心刀を見下ろして首を傾げた。
「……もしかして、魔王について何か知ってたりする?」
核心を突く致命的な一言だったのか、心刀は完全に押し黙ってしまった。
自分だったならば、図星で何も言うことができない状態だと察した勇輝は、すぐに心刀を左手で引寄せて、低い声で問い質す。
もしも、心刀が人間ならば、きっと胸倉を掴まれて脅されている姿に見えたことだろう。
「お前、まさか魔王について、本当に知ってるのか?」
『そんなわけないだろうが。魔王が封印されたのは百年以上前で、どうして俺がそいつのことを知ってるんだよ』
「……それも、そうか」
至極当然の反論に勇輝は納得するしかなかった。
では、先程の沈黙は何だったのか。勇輝は自分が心刀の立場だったら、と考える。本当に図星だったか、あまりにも荒唐無稽な話で絶句していたか。
冷静に考えれば後者な気がしないでもない。相手次第では適当なことを言うなと怒っていた可能性すらある。
「おや、異国の客とは珍しいね。何かお探しかい?」
そんな中、急に後ろから声を掛けられた。振り返ると、老婆が杖をついて歩いてくるところだった。
背の曲がった灰色の髪の老婆は、勇輝と桜を交互に見た後、本棚の方へと視線を向けた。
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