勇者の記録Ⅱ
神殿から店主を送り届けた後、勇輝と桜はデートを継続しながらも、話す内容は聖剣エトナと勇者の記憶に関することになっていた。
聖剣は本当に過去の勇者のことを覚えていないのか。それとも、誤魔化しているだけなのか。
「半分本当、半分嘘なんじゃないかな? 百年以上経っていたら忘れることはあると思うもの」
「でも、その一方で何かを隠しているのは明らかだった。やっぱり、知っていることはあるはずだ。問題はそれがどうして話さない方が良いかと、何を隠しているかだな」
知らない方が良いというのは、デメリットが大きい何かがあるからだろう。
何事にも言えることだが、知ることによって情報漏洩のリスクが付きまとう。例えば、誰かが功を焦って、勇者より先に魔王を倒しに行くなどということもあり得るはずだ。
もしかすると、過去にそういう事件があったのかもしれない。
「それなら、村や町を転々としながら魔王を探すフリをして、聖剣さんが誘導することもできるもんね」
「でも、それだけじゃないと思うんだよな。魔王の姿や能力すらも教えてくれなそうだし……」
明確な弱点があればそれを衝くことで倒すことができるはずだ。それがないということは、最悪の場合は、ある推測に行きつくことになる。
「もしかして、魔王には弱点がない?」
今まで何度か魔王討伐が行われているのにもかかわらず、封印しかできていない。それは勇者側に倒すだけの力がないということの証拠に他ならないのではないか。
「魔王の右腕って言われたバジリスクでも、すぐに再生しちゃうから、全身を灰にする火力じゃないと倒せなかった。それを考えると、魔王はそれ以上の再生能力があるとか考えられそう……」
『或いは、そもそも物理攻撃が効かない霊体の可能性もありそうだな。覚えてるか? あのレイスとか言う魔物』
心刀の言葉に勇輝と桜はハッとする。
――既に死んでいるから殺せない。
その考えに今まで至らなかったが故に、その衝撃は大きかった。
「でも、俺たちって、日ノ本国でも怨霊を倒したことがあるし、そのレイスだって難なく倒していたから、大丈夫なんじゃないか?」
『どうだろうな? 俺たちが倒した時だって、周囲の住民が怨霊という存在を現世に繋ぎとめていたんだ。ちょっとした条件で、生き残っちまうこともあるだろうよ』
周囲からの自身の認識が人を呪いという状態で固定化した怨霊を作り出したり、鬼という存在に変貌させたりする。少なくとも、その二つの例は勇輝が実際に目の当たりにしている。
それならば、魔王もまた同じ現象によって生き続けることがあり得るのではないか。それこそ、「魔王がいつか復活する」という考えを持つ人がいるのだから。
「あれ? それだと倒すことが不可能になるんじゃ?」
既に魔王は何度も復活を果たしている。もしも、人の意識が魔王を復活させるのならば、その情報をそもそも人々に魔王の存在を知らせないのが一番だ。
「でも、そうしたら魔王を知る存在がいたら永遠に復活し続けるってことになるよ? それにいくら人の認識があるからって、そんな簡単には行かないんじゃないかな?」
「でも、一つの村を恐怖で支配するだけで怨霊を成立させていた事実もある。魔王という脅威が国単位で残る以上、どうにもならないかもしれない」
推測だけではあるが、自分たちが相対しようとしている存在が、想像以上に規格外な可能性が出て来て、思わず身震いする。
だが、聖剣が頑なに語ろうとしない理由には十分すぎた。
「一度、聖剣とじっくり話すべきだな」
「そうだね。こっちが一方的に推測を言うだけになるかもしれないけど、否定してもらえれば安心はできるから」
逆に黙られてしまった時は恐ろしい以外のなにものでもない。せめて、聖剣が勇輝たちの考えを鼻で笑ってくれることを願いつつ、勇輝と桜の視線は、十数メートル先の書店に吸い込まれた。
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