深まる疑念Ⅶ
百年以上も昔の情報を本から再現したのは驚くべきことだが、勇輝が反応したのはそこではなかった。
「その本。本当に昔の情報を記録したものだったら、枢機卿の方々が血眼になって探しているはずです!」
探しても出てこない勇者と魔王の情報。それが記録されている可能性がある。
「むむ、そうなのか? しかし、夏のお披露目で驚かせたい気持ちもあるのだがなぁ」
枢機卿たちが求めている情報の手がかりだが、当然、魔王の復活に関する情報は一般人には知らされていない。結果的に、枢機卿の名を出しても店主は長年の集大成のことで頭がいっぱいらしい。
「お爺さん。その本は、一冊ですか? それとも何冊もあるんですか?」
「儂が見つけたのは、これともう一冊じゃ。だが、もう一冊の方は酷く汚れていてな。読めたもんじゃないから、適当に閉まってある」
「じゃ、じゃあ、その読める方の一冊を神殿に貸すことって可能ですか? 実は私たち、枢機卿と聖女のアルトちゃんから頼まれて、勇者や魔王の情報を探しに来てるんです!」
桜が詰め寄ると、店主は目を丸くして勇輝たちを交互に見る。その瞳は驚愕と疑念が半々といった様子で、何かを確認しようとしているようであった。
勇輝は一拍おいて、店主へと問いかける。
「自分たちにその本を預けてとは言いません。何なら、一緒に神殿まで行くのはどうですか? そうすれば、少なくとも枢機卿やアルトが動いてくれると思います。多分、平和な裡に勇者や魔王に関することをまとめておきたいのかもしれませんね」
「勇者と魔王に関する書物の編纂作業か……。もし、それを本格的にやろうとしているならば、大事業じゃな。もう、石像を作ることもないだろうし、このまま埃を被せておいて読めなくなるよりはマシか……」
目を瞑った店主は、自問自答するかのように呟くと、小さく頷いた。
「わかった。それなら、二冊の本を神殿に預けよう。儂の最後の作品にいる少年と同じ国の出身かもしれない君らが来てくれたのは、何か縁あってのものかもしれん」
しばらく待っておれ、と店主は倉庫の奥へと一人で歩いて行ってしまう。
勇輝と桜はほっとしながら、店主の作品を観察する。馬車の御者台から身を乗り出す少年。見れば見るほど、日本人だと思えて来る。
「まさか、俺と同じで転移して来たなんてことないよな……?」
「そうか。海を渡るのが危険でも、転移でファンメル王国に来た勇輝さんと同じなら、サケルラクリマに転移していてもおかしくないかも……。あ、でも、ファンメル王国が建国される時は、海で渡った記録が残っている人が手伝っていたっていう話だから、その子孫って可能性もあるかな?」
「もしかすると、元の世界に戻る方法がわかるかもしれない」
店主が石像を作ったのは、二冊の内の一冊。そして、創られた石像は勇者を追いかける姿からして、魔王討伐の序盤と考えられる。つまり、もう片方の本は、魔王との戦いについてや凱旋後の話が書かれている可能性がある。
「神官の人の中に、そういったものを復元したり、読み取ったりできる人がいれば、写本を作ることもできるかも……。私たちが見せてもらえる保証はないけど」
魔王との戦いも描写されていれば、かなりの重要文書になる。協力していた立場とはいえ、おいそれと見せられるものではない。
それに書いていない可能性もゼロではない。捕らぬ狸の皮算用で、落胆した時の方が精神的ダメージはデカい。下手に期待せずにいるのが正解かもしれない。
『おい、そこまで気付いたんなら、もう一つ疑問に思っておくべきなんじゃないのか?』
「え? 何がだ?」
急に話しかけて来た心刀に勇輝は首を傾げる。店主の会話と石像から分かったことは、かなり大きなことだったが、それ以外に気付かなければいけないところがあったようには思えなかった。
桜に視線を送るも、桜も首を傾げるばかりだ。
『――この情報。聖剣の奴に見せたら、どういう反応をするだろうな?』
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