深まる疑念Ⅵ
「十年、ですか。じゃあ、その間に、また新しい像を?」
「あぁ、そうだ。だが、儂ももう年だ。これが最後の参加になるだろうと思ってな。今までにない超大作を作っているところだ」
腰に手を当てて大笑いする店主を見て、勇輝たちはかなりの自信作なのだろうと顔を見合わせる。
「因みに開催はいつなんですか?」
「今年の夏の予定でな。どうじゃ、ちょっと見ていくかい? ほぼ完成していて、後はタイトルをどうするか決めるところなんじゃ」
「良いんですか? その、完成しているとはいえ半年以上ありますし……」
作品のアイデアを盗まれるという危険がある。それを会ったばかりの異国の人に見せるのは不用心ではないだろうか。
勇輝が心配していると、店主は再び大声で笑う。
「かっかっかっ、儂の大作を盗めるなら盗んでみるがいいさ。何せ、儂が完成させた作品は半年で完成させられるようなものではないからな」
そう告げた店主は点いてついて来いとばかりに店の入口へと向かう。いったいどこへ向かうつもりなのかと訝しみながら勇輝たちが後を追うと、すぐ隣の倉庫らしき建物に歩いて行く。
店主は首から掛けた紐を手繰り寄せて、その先にある鍵で施錠を解除した。
「この街の人間の反応は半年後に取っておくとして、そうではない人が見た様子も知っておきたい。もしかすると手直しが必要な部分も見つかるかもしれん」
中に入った店主が杖を一振りすると、天井や壁の魔法石が光を発する。
「これは――!?」
目の前に現れたのは、店主の宣言通りの大作だった。何せ、像の数は一人ではない。全部で四人も登場人物がおり、さらには、その内三人は馬車の御者席にいる。
一人は抜き身の剣を持ったまま笑顔で走っている姿で、恐らくは勇者。残りの三人はそれを馬車で追いかけているように見える。
一人はアルトが持っている杖とそっくりなので、当時の聖女を模したものだろう。残り二人は、一人が手綱を握る鎧を着た少女、もう一人は鞘を持ったまま振り翳している少年だった。
「四人分の像に、馬二頭。それに前だけとはいえ、馬車まで!?」
「はっはー、良い反応じゃ。これはな。聖剣の鞘を忘れて行った二代目勇者を追いかける聖女と黒騎士の少女。そして、異国の少年の姿を現しておるのだよ」
店主の指を差しながらの説明に耳を傾けていた勇輝だが、ふと最後の少年が気になった。
馬車の前方部分に回り込んで顔を覗き込むとその造形は、明らかに日本人のものに近かった。
「気付いたかね? その少年は、日ノ本国の出身者に似た顔をしていたらしい。ちょうど君のような」
「ま、待ってください。二代目勇者って、かなり前の人ですよね? その頃は、まだ安全に海を渡る技術が確立されてなくて、かなりの危険があったので、日ノ本国の人が大陸には少ないはずです」
「うむ。だが、そのように本に記録が残っているからな。儂はそれに従って、脚色したり、想像したりして作ってみたんじゃ」
記録が残っているならば仕方がない。それをどう解釈して表現するのかも芸術の一つ。尤も、それを周囲がどう解釈するかも想定しなければいけないので、店主が勇輝たちに感想を求めようとしたのも無理のない話だ。
「どうも勇者は聖剣を引き抜いて、さっさと街を出てしまったらしくてな? それを急遽、勇者の代わりに少年が試練を乗り越えて、鞘を届けようと聖女たちと共に街を出て行ったという魔王討伐の幕開けといったところだ」
「へぇ、いろいろと不自然なところはありますけど――って、ちょっとお爺さん。今、本で記録が残ってるって言いました?」
勇者と魔王の詳細は、枢機卿たちですら把握できていない部分がある。それが本として記録に残っているのは、かなり貴重なはずだ。
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