勇者マックスの誕生Ⅱ
唯一、リブラ枢機卿だけが、落ち着いた雰囲気で次の言葉を待っていた。それこそ、こうなることを予見したいたかのようにすら感じる。
『――で、勇者候補のマックスだったか? 今のお前の気持ちはどうなんだ? 俺様だって気の乗らない奴に握られるのは不本意だ。嫌なら俺様も一緒に抗議してやるよ』
「今の俺の気持ち、か……」
うなりを上げるマックスへと視線が移る。彼の返答次第で、世界の命運が左右される――いや、既にされている状態だ。枢機卿の中には、そんな様子に腹を立てている者もいることは容易に想像がつく。
果たしてマックスは、勇者となる道を選ぶのか。勇輝たちは固唾を飲んで見守る。
「流石に、ここまで来て他の奴にお願いするのも気持ちが悪い。そして、国として勇者をサポートするにも限界――いや、いろいろな形があるということが分かっただけで十分だ。聖女様や枢機卿たちが認めてくれるというのであれば、勇者として魔王討伐に参加させてもらう」
「……一番の懸念が何とかなりそうですが、他の枢機卿の皆さん。何か、彼の表明に意見はありますか?」
リブラ枢機卿は感情を表に出すことなく、淡々と話を進める。
ただ勇者が正式に決定することは、どの枢機卿も歓迎しているようで、特に意見を述べようとする者はいない。アルトもそれを見て、ほっとしたのか。幾分か肩の位置が下がったように見える。
冷たい空気が吹き抜ける星見の祭壇だが、不思議と雰囲気は暖かった。
「それで、魔王の位置はわからないってことだったんで、旅をしながら探していくことになると思うんですが、その中に俺の仲間を入れて欲しいんですよね……」
言いにくそうにマックスが告げると、今まで沈黙していた枢機卿の一人が声を上げる。
「今まで自分たちでやりくりして旅をしてきたのなら、聖女たちが増えたところで路銀や裏切りの心配はないだろう。リブラ枢機卿、ここは彼に他の黒騎士隊のメンバーを見てもらって、こちらに連れて行く者を提案してもらう形の方が良いのではないか? もちろん、それぞれの能力の説明は隊長であるソフィアに頼むことになると思うが……」
あくまで情報提供した上でのメンバーの選抜であると枢機卿は述べる。
どの武器が得意か、どんな魔法が使えるか。現在のマックスのパーティーに不足している部分を補う形でメンバーを補充すれば、確実に道中の安全度が高まる。場合によっては魔王討伐においても、勝率に影響が出るかもしれない。
「流石、アクエリアス枢機卿。今までの我々では出ない発想でしょう」
今の提案でどうだろう、とリブラ枢機卿の視線が周囲を見渡す。
「最終的なパーティーの拒否権――というよりは、拒否するに値する部分を枢機卿側でも作る必要がある。一日二日でどうにかできるものでもないが、暫定案として至急作成という形にするしかないのが現実的なところだろう」
「そうですね。彼がパーティーのメンバーを考えている間に、我々はそれを作成する方向で動きましょう。予算と法務に動いている神官をこちらに数名回してもらえるよう手配します」
「ふん。この忙しい時に呼びつけられた部署はたまったものではないだろうがな」
「レオ枢機卿。国が滅びれば金を数えることも、仕事で汗をかくこともできなくなるのです。その意味が分からないあなたではないでしょう」
「……何か、言い方に悪意がないか?」
頬を引き攣らせるレオ枢機卿だが、リブラ枢機卿は笑顔のまま首を傾げるだけ。
一瞬、レオ枢機卿が汚職に手を染める悪代官に見えてしまった勇輝だが、二人の反応を見る限り、リブラ枢機卿は至って真面目に答えていたようだ。
「あ、そうだ。最後に皆さんに伝えておかなきゃいけないことがあるんです」
唐突にマックスが声を張り上げた。一先ず、話が終わりそうな流れだったので、全員が一瞬だけ疲労の色を覗かせる。しかし、次のマックスの言葉で、全員の表情が凍り付いた。
「――自分、ファンメル王国の皇太子で次期国王なんですよ」
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