勇者マックスの誕生Ⅰ
試練のダンジョンをクリア後、枢機卿たちの下に訪れた勇輝たちが見たのは、彼らの安堵した表情だった。
万が一、試練に失敗したとなれば、勇者の選定のやり直しから始まる。魔王がその間に復活すれば、どれだけの被害が発生するかわからない。最悪の場合は、世界滅亡さえありうるのが怖いところだ。
「――改めて、試練のダンジョンの攻略お疲れ様です。聖女アルトの報告を聞く限りでは、聖剣も本来の力を取り戻したようですね。巨人の方の問題は解決しませんでしたが、こちらと敵対する気は無いようなので、その件については、一先ず置いておきましょう」
リブラ枢機卿の視線は、マックスの腰にある聖剣へと注がれる。当然、この場における議題は、勇者や魔王の情報についてだ。聖剣が質問攻めにあうのは仕方のないことだろう。
だからこそ、聖剣もアルトが報告をしている間は、大人しく無言を貫いていた。まるで、この後の為に体力を温存するかのように。
「さて、エトナ様。お疲れのところ申し訳ありませんが、今後の戦いや後世の為にも勇者や魔王のことについて、教えていただきたいのですが……」
『何を知りたいんだ? 教えられることと教えられないこと。知ってることと知らないことがあるからな』
「そうですね。まず、過去の勇者様はどうして大所帯での魔王討伐をされなかったのか、という点です」
おや、とマックスの表情が変化したのを勇輝は見逃さなかった。何故、その質問が最初に飛び出て来たのかを勇輝は考え、すぐに合点がいった。
枢機卿たちの解決しなければならない一番の問題は、勇者になることを渋っているマックスをどうするべきかだ。そのマックスが提示した疑問は「勇者だけが危険な目に遭うのはおかしい」、「何故、国がもっと支援をしないのか」というもの。
それを聖剣へとそのまま問うということは、言い換えれば「問題がないならば、国として兵の支援は惜しまない」という判断から来るものだろう。
『……そうだな。パイシーズ枢機卿、俺様からも聞きたいことがある』
「何か?」
『先日、俺様が台座から抜き放たれた時、魔物の大群に襲われたはずだ。俺様が放った魔法を見て、アンタならどう活かす?』
聖剣の質問に、パイシーズ枢機卿へ視線が集中する。
しかし、そこは流石、国の中でも最高峰の決定機関に身を置く者。動揺した素振りは一切なく、落ち着いた素振りで顎を触って数秒ほど考え込む。
「――単騎、または小数人数による戦線への投入。または大軍と大軍による衝突に乗じての後背からの奇襲、でしょうか」
『あぁ、その通りだ。本気になった俺様だと周囲を巻き込みかねない。この前の騎士の人数ですら、いちいち場所を移動してから放たなければいけない面倒さだ。そんなことをしている内に、周囲まとめて薙ぎ払われたら終わりだ。魔王じゃなくても、十分に勇者を封殺できる。それはコイツが一番わかってるだろうよ』
マックスは腕を組んだまま、目を瞑っている。何を考えているのかは、その表情からは読み取れない。
ただ、勇輝は傍から聞いていて、聖剣の言葉にも一理あると感じた。一騎当千の勇者が大軍を引き連れていれば、誰もが恐怖におののくだろう。しかし、それが魔物であればどうか。恐怖よりも先に人間を襲うという本能が勝り、せっかくの勇者の威圧も半減。むしろ、マックスの性格からすれば、他の兵を助けに向かって、本丸の魔王に辿り着くのに時間がかかるだろう。
『短期決戦。それも数時間で片をつけるとなれば、勇者ほど集団行動の先頭に適した奴はいない。だが、長期戦になるなら全く話は変わる。宝の持ち腐れとはよく言ったもんだ』
「なるほど。適材適所にした結果、少数精鋭での行動になったということですね」
『それに考えてみろ。大群で行動したら、食料の確保は大変だし、移動速度はガタ落ちだ。財政が傾くぞ。魔王が復活次第、民を避難させると同時に軍を移動させて防衛ラインを築く。多少の村や町の消滅は致し方なしだ。建物なんていくらでも後から立て直せるしな。その辺り、国を運営してるんだから、俺様がいなくても説得くらいしろよ!』
沈黙を守り続けるかと思っていた聖剣が、まさか財政面まで含めて枢機卿に説教をするとは思ってもみなかった。見れば、聖剣の説明が想像以上のものだったのか、多くの者が目を点にしている。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




