本来の聖剣Ⅶ
桜自身の姿を模した式神が三体。それぞれ闘技場を中心に四方の内、三方向へと散っていく。残った一方向――すなわち、巨人が向かった方角へと観客席を上り、勇輝と桜は目を見開いた。
「魔法学園のダンジョンの時と同じ感じ、だね」
「あぁ、やっぱり作った人が同じか、設計図が流用されていると考えた方が自然だな」
闘技場の周囲にはいくつもの建物が立ち並び、その向こうには平原が見える。
巨人が歩いて行った正面だけは、建物が雑草のように薙ぎ倒されており、褐色の道が出来上がっていた。既に巨人の背は遠くなっており、彼が活動しているという鍛冶場も、ここからでは見ることができない。
「式神の方は?」
「単純に真っ直ぐ飛ばしているだけだけど、そんなに変化はないかな。ひたすら平原か小さな山が続いているだけで、魔物がいるようには見えないし……」
「俺の魔眼でもわからないな。一点、巨人が向かって行った方には鍛冶場があるのは確からしいけど」
勇輝は目を細める。巨人の向かうはるか先の空が赤く染まっていた。
夕焼けなどではなく、恐らくは鍛冶に使う炎か何かが魔眼に反応しているのだろう。よほど強力な炎で金属を加工しているらしい。
果たして、武器を持った巨人と全力で戦えるか。魔法学園では、生徒やドッペルゲンガーと協力して何とか倒すことができたが、それでも弱体化した状態の個体との戦闘だ。思考力も人間並みで、膂力も武器も上と来れば、勝てる未来が想像できない。
「もっと、強くならないとな……」
勇輝は呟くと、巨人がいない方角へと視線を向ける。
誰も住むことのない形だけの住居。そこに何の意味があるのかと疑問を抱くが、その答えが見つかるはずもない。
「全然、何も見つからない。でも、山にはたくさん木の実や果物がなりそうな木があったから、季節によっては収穫できるかも」
「……ダンジョン内に季節ってあるのか?」
外は冬だが、ダンジョン内はそこまで寒くはない。ただ、それは自然の洞窟にも言えることだ。流石に、ダンジョン内が空調によって管理されているとは思えない。
「いや、火山とか作れる時点で、魔法による気温や天候操作もできるのか。だったら、四季の設定があっても不思議じゃないな」
「畑とか作れば、ダンジョンの中に住めそう。住居だけなら、ここにたくさんあるから」
「もしかして、いざという時には、ここってシェルター代わりになるのでは……?」
試練のダンジョンの思わぬ使い道を思いついた勇輝だったが、すぐに頭を左右に振る。
仮にそうだとしても、この階層に辿り着く前に苦労するのは間違いない。何せ、魔物も出れば罠もある。大勢の人間が一斉に避難するのには明らかに向いていない。
あくまでダンジョンを制作・管理する上での何かしらの機構なので、考えすぎだと結論付ける。
そうやって過ごしている内に、かなり時間が経過するが、見つかったものはほとんどなかった。闘技場の縁に肘を置き、桜と身を寄せ合って、式神が何か見つけることだけを待つ時間は、ある意味では平和な一時といえなくも無かった。
「――お二人とも、調査ありがとうございます」
「あれ、もうマックスさんの鍛錬が終わったんですか?」
いつの間にか、背後にはアルトたちが立っていた。マックスも一緒だが、審判者の姿は見当たらない。
「あぁ、流石にずっとぶっ続けで動くのも限界があったからな。ここらで終わりにして、尋問タイムってところだ」
聖剣から抗議の声が上がるが、マックスはそれを無視して、聖剣を鞘に納める。
「あの聖剣の力の一部とやら、まだまだ本気出しちゃいない。俺が戦うより、アイツが戦った方が強いんじゃねえかな?」
ため息に混じりにマックスは呟くが、すぐに冗談だ、と苦笑いを浮かべる。肩を何度か回して、闘技場の外を見回したマックスは大きく腕を突き上げて伸びをした。
「んー、久しぶりに良く動いたぜ。悪かったな、俺の我儘に付き合わせちまって。さっさと枢機卿のところに戻って報告しないとな」
「えぇ、ソフィアが戻ったら、すぐにでも。枢機卿の皆さんが待ちくたびれてしまわないようにしないと」
ダンジョンに入って半日も経っていないが、それを待つ枢機卿たちは、さぞ胃が痛いことだろう。聞いている勇輝も思わず察して、胃の辺りを擦ってしまった。
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